「これは……何? 何なの……!?」
見慣れた扉。保健室の扉。
それを覆い尽くさんばかりに、幾重にも張り巡らされた、
黄色。
黒。
黄色。
黒。警戒色のテープ。
そこに記された、無数の『
立入禁止』の文字。
何か不吉な事件が起きたことを伝えるような、そんな符号の数々。
「何…………何、が……? これ……これは、一体…………」
伸ばしかけた
添木 牡丹の震える指は、びくりとして宙に留まり。
どくん。どくん。痛いほどに早鐘を打ち始める心臓の鼓動が、叩き付けるような不快な音となり、彼女の理性を追い立て。
「……あ、あ……まさか……そんな…………ああ。ああ!」
いつしか芽生え、じくじくと常に心を苛み続けてきた不安が、扉の向こうで現実のものとなり……親しい人を、陰惨で無残な姿へと変えてしまう。
そんな光景が、瞳を見開く牡丹の脳裏へ、赤く、赤く、瞬くのです。
誰のものか、床へ転がったスマートフォン。
赤黒い飛沫に汚れ、ひび割れた液晶画面の中で。番組は唐突に、始まりを告げるのです。
『 ミ ッ ド ナ イ ト ・ フ リ ー キ ー ・ シ ョ ウ ! 』
「…………んふふっ」
動画配信アプリのロゴマークに続き、再生される荒い映像は、素人カメラマンが手慰みに撮影したかのよう。ぷつり、ぷつりと途切れがち、耳障りな音声に、はっきりと聞こえてくる音。
にちゃり、画面の中の少女が口を開く時の、粘着質な音。
「こんばんは。あなたの心に抱かれた、暗い闇夜のもたらす理由無き恐怖を和らげたい、頼れる深夜の相棒。『
ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』へようこそ。わたくし、これより皆様を不可思議な世界へとご案内させていただく、ストーリーテラーの
胡乱路 秘子です。今宵もどうぞ、よろしくお付き合いのほどを……んふふ!」
笑う少女が立つ、アスファルトの道路。暗がりに浮かび上がり、やけにくっきりと目に焼きついて止まない、白いチョークで描かれた人の形。立ち並ぶ、幾つもの赤いカラーコーン。
「さて。人は誰しも、何かしらの
不安を心に抱いて生活しているもの。どれほどに豪胆な傑物であろうとも、心ある限り、塵ほどにも恐れを抱かない人間など存在しないのです。完全に己の心を掌握し、コントロールすることなどできようはずもありません。もし、できるとするなら……その方の心は、んふふ。とうに、壊れてしまっているのでしょう」
唐突に映像は早回しを始め、急速に沈んでいく太陽。流れ、千切れては消えていく雲。時折往来する通行人や車。微動だにせず、じい、とこちらを眺める少女。
ざざ、と走るノイズが数度。動画は通常の速度に戻り、宵闇の中、再び秘子は口を開き、
「人は誰しも、想像するものです。この不安が、いつか現実のものとなったなら。この些細な不安が育ち、手に負えないほどに大きくなり、やがて身を滅ぼすほどの絶望へと成長したなら。いつか……いつか、そんな日が来るのではないかと。想像し、恐れるのです」
早回し。かくん、かくんと、壊れたおもちゃのように路地を歩く秘子。
やがてたどりついたのは、見知らぬ民家。玄関の扉。
黄色、
黒、
黄色、
黒。幾重にも張り巡らされた、警戒色のテープ。
早回し。ゆっくりと、秘子は、こちらを向いて。
「これは、あなたのための規制線。一歩先へ踏み込んだなら、広がる絶望……それは紛れも無く、あなたの恐れが生んだ光景なのです」
途切れた映像。牡丹はスマートフォンを拾い上げ、手の中へ納めると。
勢い良く腕を振り払い、黄色と黒のテープを、ばりばりと破り捨てました。
扉の向こうに何を見るのか、確かめなければならないのです。
「…………待っていてくださいね。必ず……私が、必ず…………」
これは、牡丹のための規制線。一歩先へ踏み込んだなら……そこには。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします!
ガイドには、添木 牡丹さんにガイドへご登場いただきました。ありがとうございました!
(なお上記のシーンはイメージですので、もしこちらのシナリオにご参加いただける場合は、ご自由にアクションをかけていただいて構いませんので!)
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』の、第五夜となります。
今回は、大分ブラック寄りで。場合によってはPCさんが不快な思いをされたり、普段のPCさん的にはNGな描写になる、という可能性もありますので、その点ご了承をいただいた上でご参加いただければ、と思いますー。
今回のシナリオの概要
今回のテーマは、あなたの『不安』です。
突如としてあなたの前に出現する立入禁止区域。張り巡らされた、黄色と黒の警戒色のテープ。
ざわつく胸。加速度的に増大する危機感。
誘われるように、一歩そこへ足を踏み入れれば……その先で展開されている光景は、あなたが今感じている『不安なこと』が、『考え得る最悪のケースに発展した時の状況』です。
些細な心配。いずれ訪れるはずの負の未来への憂慮。常に隣り合わせの危険に対する危惧。
内容は何でも構いません。墨谷がそれらを、絶望的な結末へと昇華させていただきたいと思います。
アクションでできること
アクションでは、『立ち入り禁止となる場所』、あなたのPCが『不安に感じていること』、そして『その不安が最悪の状況に発展したらどうなるか』をお書きください。
リアクションにおいては、皆さんが警告のテープを発見した直後、もしくはその向こうの立入禁止区域へ踏み込んだところから開始となります。
なお皆さんには、そこへ立ち入らない、という選択肢はありません。無意識に、あるいは何かに導かれて、拒んでも結局は踏み込んでしまうことになります。
もしかすると、番組内で何かしらの強制力が働いているのかもしれませんが、あなたがそれを知覚することはありません。
●1.立入禁止区域となる場所
あなたの前に現れる、警戒色のテープや立入禁止の看板など。それらが出現する場所を、下記の●2、3の内容とも絡めてご指定ください。
自宅や学校などの良く知っている場所でも、たまたま通りがかっただけの知らない場所でも、何でも構いません。
ちなみに必要でしたら、『立入禁止となった自宅の扉を開いたら、その向こうは学校の教室だった』なんて、前後の因果関係が無い指定でもOKです。
●2.不安に感じていること
発端となる、『不安なこと』をお書きください。
日頃感じている不安や、過去の出来事に起因する不安。将来への漠然とした不安。あるいは日常の中でふとした瞬間に感じる、ほんのちょっとした不安。
何かしら因縁のある出来事でも構いませんし、全く突拍子も無いことでもOKです。
●3.その不安が、最悪の展開を迎えた時の状況
上記の不安な出来事が進展し、最終的にどんな展開を迎えるのか、をお書きください。
現実的にありそうな状況でも、非現実的な事象でも構いません。
ただし内容はすべからく、負の方向へと突き抜けた最悪の結果となります。
なお●1、●3については、記述せずにマスターにお任せいただくことも可能です。
特に思いつかなかったり、リアクションでの展開をあえて指定したくない場合は、記述しないか、その旨をお書きください。
アクションには、上記の要素に加えて、
・立ち入り禁止区域の中へ踏み込む際の心情
(興味本位で思い切り、感じていた不安を思い浮かべておどおどと、漠然と嫌な予感を感じつつ、など)
・何かしら有事が起こった際の対応力の程度
・どうしても描写NGなこと(あれば)
などもお書きいただけましたら。
※ちなみに今回のシナリオでは、グループアクションを組んでいない方同士では、あまり絡みは発生しない予定です(例外はあるかも)。
複数人に跨るエピソードにしたい場合は、GA【GA名】などのタグで分かりやすく記述しておいていただけますと、幸いです。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』とは?
深夜、テレビ局の放送が終わった後に始まる、謎の番組。不可思議で不条理な出来事と、それに関わった人々の行動や、その顛末などが紹介されます。
いつも決まった時間に始まるわけではなく、また誰でも見られるわけでもなく、たまたま波長の合った人にだけ見ることができるようです。
このシナリオ内で描写された出来事は、現実に起こったことかも知れませんし、あくまで番組内でのことであり、現実には起きなかったことかも知れません。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』のタイトルを冠するシナリオ内で、ご自身のPCが体験した出来事について、プレイヤーさんは実際に起きたこととして設定に組み込んでいただくことも出来ますし、番組上の演出や架空の出来事だったとしても構いません。
その他
●参加条件
特にありません。
寝子高生の方でも社会人の方でも、小中学生の方でも、どなたでもご参加いただけます。
●舞台
アクションにて指定した場所が舞台となります。
寝子島島内はもちろん、それ以外のどこでも構いません。
●NPC
○胡乱路 秘子
謎のテレビ番組『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』のストーリーテラー役を自称する少女。
んふふっと怪しく笑います。
●備考や注意点など
※NPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
※アクションはどんなものでも構いませんが、内容によってはMFS!内での限定された設定として扱われます。また、内容によっては描写できなかったり、直接的な表現を避けて描写されることもあります。
以上になります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております~!