蒼天に白霧が渦巻く。
のどかな秋空に似合わぬ積乱雲の如く立ち上がる。秋の涼風に逆らい蠢き、空にとぐろ巻く白蛇のかたちとなる。
何事かと見仰いで、霧の大蛇のそこだけ黄昏の朱色した瞳と確かに目が合った。蛇が鎌首をもたげる。
一枚一枚がひとの大きさ凌ぐ鱗を秋の陽射しに白銀にきらめかせ、山ひとつ呑むほどの顎に大氷柱にも似た牙を光らせ、風を纏うて風の疾さで、空から巨大な白蛇が降る。
大地に立ち尽くしたまま、悲鳴すら上げる間もなく蛇の顎に呑みこまれ、――
息を吐き出す。
息が出来ることにもう一度息を吐き出す。
己が足元には朱色の石橋。
ぎくりと見回す瞳に映るは、橋の向こう、朱色の樹柵に囲われた見慣れぬ奇妙な町。
厳しい櫓構えた山門の、頑丈に鋲打たれた樹の扉は両開きに大きく開く。
門の奥に視線伸ばせば、黄昏色に染まる町。
空を埋める火のような黄昏と同じ色した朱色の千本格子の通り、そぞろ歩くは、着物纏うた禿頭隻眼の老人、老人が連れるは人の顔持つ子犬。鎧の背から折れた弓矢と錆びた刀を生やした骸の武者がカタカタと歯を鳴らし、風の声で高笑う。
黒い屋根瓦の近く、白布が翻ると思えば、布の端には血走った大きな眼がひとつ。石畳敷かれた通りを見下ろし物憂げに瞬きひとつ。
千本格子の奥では極彩色の着物から艶かしいうなじと肩を覗かせた一見美しい女達が長煙管を吹かし、着物の裾から覗く金色の尻尾を一振り二振り。通りを行く奇妙な姿形したもの達をそうして誘う。
「難儀やなあ」
のんびりとした声を掛けられ瞬く。視線向けた先、欄干に腰掛け酒を呑む、緋色の狒々(ひひ)にも似た面を掛けた和装の男。
「まあ折角来たんや、町見ておいで。飲み食いするんもええ、町のもの持ち帰るもかまへん。まあ、持ち帰ったとこですぐ崩れてまうやろけど。何も怖いことあらへん、ここの奴らは毎日面白可笑しく過ごしたいばっかりや。あの島に帰りたなったらこの橋から飛び降りたらええ」
能に言う猩々(しょうじょう)の面掛けた男が橋の下を指し示す。誘われるように覗いて、橋の下、流れる川の代わりに眩い青空と海を見た。海に浮かぶ寝子島を見た。
「けど、あんまり長居したらあかんで。帰れるは帰れるやろけど、大切な記憶の一個二個、町に食われてしまうよって」
こんにちは。阿瀬 春と申します。
今日はちょっとおかしな町へご招待、です。
危ないことは、危ないこと(通りがかりの人(?)達に喧嘩売ったり)をしない限り何にもありません。ちょっと怪しくて怖い町散歩、如何でしょうか。
町をうろついてみたり逃げ惑ってみたり、妖怪的なもの達と賑やかに乱闘してみたりなんかもあり、……でしょうか。
アクションによっては偶然出会った誰かと一緒に行動したり、になったりもします。もちろん、GAもありです。
ただ、あんまり長居したり、町に留まりたいと思ってしまったりすると、昔の思い出を幾つか失くして寝子島帰還、の流れになってしまいます。
もしもその流れをご希望の場合は、アクションに『失ってしまう記憶』をお書き下さい。
■町にあるもの
・土産物屋
『め』『みみ』『あし』等々、筆書きされた豪奢な箱がたくさん並んでいます。『箱一つにつき恋心一月分』のお値段。
・人屋
朱色の千本格子が目印。華やかな衣装のお姐さん方が肩を並べて通りがかる人々を誘惑しています。煙管の煙を浴びると酔っ払った気分になります。
お女郎さんと奥の間に入ると、大切な記憶がもれなくひとつ、お女郎さんに奪われます。
・茶屋
店先に野立傘がたくさん開いています。その下には緋毛氈。お団子とお茶が供されます。のんびり人間(?)観察するには絶好の場所です。
・その他、なんかこう怪しげなお店がありましたらお教えください。
■町をうろつくもの
基本的に人外です。一つ目小僧に一本踏鞴、がしゃどくろに管狐、妖怪的なものから、人面犬やテケテケに口裂け女、都市伝説的なものまでみんな楽しそうに町で遊んでいます。喧嘩売らない限り無害です。
ご参加、お待ちしております。