八月と言えば暑い。
　八月と言えば夏休み。
　八月と言えば海や山。


「八月と言えばエロですよね！　出すなら今ですよね！　ポロリは一服の清涼剤ですよね、ね！」
　いきなり地の文に割り込んできた横嶋 下心は今月が誕生日である。一気に大人の階段を上り詰める勢いを見せた。もちろん、部分的な話ではあるが。
　燦々と輝く太陽の元、下心の探究心は尽きない。ある方面にかなり偏っているが。
「八月と言えばエロですよ！」



　そのような下心を屋敷野 梢は微笑ましい目で見ていた。手に持っていた虫取り網を杖のようにして地面に打ち付ける。堂々の仁王立ちから爽やかな笑顔を浮かべた。


「八月と言えば虫取りに決まっているじゃないですかー」
　深く山に分け入り、自然の神秘に触れる。貴重な昆虫を手にした時は心が震えて、時価でいくらですかねー、と思ったり思わなかったりするらしい。
「とにかくですねー。八月と言えば虫取りなのですよー！」

　梢の様子は動物園内からも辛うじて見ることができた。生物部のＯＢでもあるアーサー・Ｔ・シートンは後輩の元気な姿に向かって微笑んだ。


「私は八月に関係なく、動物が好きです。特に狼と熊は見ていて飽きることがありません」
　思い出したかのようにアーサーは中断していた作業を開始した。

　そうそう、八月と言えば誕生日。何をしてもいい。何もしなくてもいい。


　何か気になる各々の誕生日の始まりであった。

担当ゲームマスター

黒羽カラス

マスターコメント

サンプルアクション（1）

プレイヤーの目的・意図

優しいＰＣの姿が見たいです。

キャラクターの目的・理由

なんにもすることがない。ま、適当に歩き回るか。

キャラクターの行動・手段

今日は俺の誕生日。何かをしたいが何も思い付かない。
でも、何かはしたいので適当に街を歩いてみた。

「なんか、ないかな」

こういう時に限って誰とも会わない。人混みに揉まれるだけで、なんか疲れてきた。
俺は目についたベンチに座った。すると泣いている子供がいた。お母さんとか言っているので迷子かもしれないな。ま、すぐに親がくるだろう。

そう思って見ていたが、それらしい人物は現れない。人通りは多いのに誰も声を掛けないのが、なんか見ていて腹が立つ。

「どうしたんだ？　迷子か。俺が一緒に探してやるよ」
泣く子供から親の特徴を聞いてから探し始めた。

「おまえ、歩くの遅いな。ほら、手を握ってやるよ」
子供は泣き止んだ。俺の手を握ると、ありがとう、と言った。
それから俺は聞き出した情報を元にいろいろな人に聞いて回った。

「暑いだろ。ちょっと待ってろよ。アイスクリームを買ってやるから」
子供は喜んでアイスクリームを食べた。口の周りがベタベタになったので俺がハンカチで拭いてやった。

親は見つからなかった。元のベンチに戻ってくると、そこに親がいた。

「ま、見つかってよかった」
そんな俺の誕生日。

サンプルアクション（2）

プレイヤーの目的・意図

かわいらしいＰＣをお願いします。

キャラクターの目的・理由

図書館で二人で勉強。今日はわたしの誕生日なんだけどなぁ。

キャラクターの行動・手段

ＧＡ【勉強会】
今日は寝子島の図書館で彼と二人でお勉強。それはいいんだけど、少し物足りないかな。

「あのぉ、今日はなんの日か知ってる？」
わたしは隣りで文庫本を読んでいる彼に話を振ってみた。設問３の問題が解けたのかを、反対に聞き返された。

「あ、今やってるところ」
わたしは急いで問題を解いた。もう一度、さっきのことを聞いてみようかな。

「できたよ、それでね」
彼はわたしの言葉を遮って問題集に目を移す。
彼の長い睫毛に見惚れていると、厳しい言葉で計算間違いを言われた。

「あ、本当だ。なんでこんな計算を間違えたんだろ。やっぱり、今日が特別な日だからかな」
わたしは強引に話を持っていった。彼は文庫本の続きを読んでいて、期待したような反応はなかった。

もしかしてわたしは彼から意識されていないのかな。そんなことを考えると、少し悲しくなってきた。せっかくの誕生日なのに、なんでこんなところで勉強をしてるんだろ。

「あれ、ごめん。なんか急に悲しくなっちゃって」
涙を零すわたしに彼は慌てて言った。
誕生日プレゼントが勉強なんだってさ。

嬉しくなったわたしは、また泣いて彼を困らせてしまった。

サンプルアクション（3）

プレイヤーの目的・意図

クールな彼の別の一面をアピールしたい。

キャラクターの目的・理由

誕生日に思い入れはない。普通に一日を過ごすだけだ。

キャラクターの行動・手段

俺は高台に建つ家にいた。正しくは屋上から一人で海を眺めていた。
太陽の光が海に反射してキラキラと輝いて見える。

「海はいいな」

天気の日はいつも海を眺めている。見慣れたはずなのに、なぜか飽きがこない。

俺はテーブルの上の飲み物を手に取った。グラスの中の氷が涼しい音を立てる。ストローをくわえて飲んだ。

「いい風が吹いてきた」
目を閉じて顔に風を受ける。その時、テーブルに置いたケータイがメロディーでメールを伝えた。

「誰からだろう」
メールの内容に目を通すと、別れた彼女からだった。よりを戻すような話ではなかった。

「お誕生日、おめでとうか」
俺は返信をしないで、また海を眺めた。

どこからか笑い声が聞こえてきた。拍手をするような音もする。
「そう言えば、最近、笑ったことがないな」

心は穏やかで、悩んでいることはない。そこで気がついた。笑うほど、楽しいこともないと。

「アイツとはつまらないことで、よく笑ったよな」
俺はケータイを手に取り、先程のメールに宛てた文章を入力した。
指は少し迷って、最後の一文を添えて送った。

『久しぶりに会おうか』