そのお店『somnium(ソムニウム)』は、シーサイドタウン駅から少し離れた、ちょっと裏路地のような、けれどもどこか洒落た雰囲気を持つ通りの一角にある。
取り扱っているのは色んな雑貨や、アクセサリー。それから店主夫婦が毎日心を込めて焼いている、焼き菓子やケーキの類。
雑貨類は店主夫婦が気に入ったものだけを取り寄せたり、時には手作りをして売っているとかで、素朴だけれども優しい雰囲気のものが多い。それはともすれば、売り物ではなくそれ自体が店を彩る装飾にも感じられる。
夏もすっかり本番を迎えた今は、『somnium』のショーケースの中に並ぶお菓子もゼリーを使った物や、冷たいムースが多かった。それだけではなく、店主夫妻に頼めば氷菓子の類も出てくるのが、このお店の良いところだ。
世間では夏休み真っ最中の今は、島外から遊びに来たお客様や夏の間だけ帰ってくる久し振りのお客様も訪れる事があり、なかなかに忙しい。そんなお店のお手伝いとして夏休みの始めごろから店頭に立つ、その少女もやはり夏休みを利用して、寝子島に泊まりに来ている1人だ。
木原 高明(きはら・たかあき)と
木原 伊都子(いつこ)さんの店主夫妻の孫娘、木原 理子(きはら・りこ)というのが、その少女の名前だった。当年とって15歳、中学3年生である彼女は幼い頃から祖父母が大好きで、数年前に彼らが寝子島に移り住んでからは毎年欠かさず、この時期になると泊まりに来ていて。
「そういえば、りっちゃん。夏休みの宿題は終わったの?」
やはり夏休みとあって、平日の昼間にも関わらず学生らしき姿がちらほら見える店内を、にこにこ見ていた伊都子さんがふと、孫娘に声をかけた。そんな、伊都子さんの言葉にけれども理子は、ぴたりと動きを止めて意味もなく宙に視線をさ迷わせる。。
中学生、しかもいちおうは受験生である理子だから、もちろん問題集といった勉強の類の宿題は、寝子島に泊まりに来るまでに終わらせてあった。というか、終わらせるのが母から出された、寝子島に泊まりに行く条件だったから理子は、そりゃあ必死に終わらせた。
のだがしかし、実は自由研究だけがまだ出来てないのだ。しかも、先々週に聞かれた時には、問題集は終わってるから大丈夫、と答えていたし、先週に聞かれた時には、今まだ自由研究の内容を考えてる所、と答えていて。
だから、さすがに今週にもなってまだ課題が決まっていないどころか、実は何も考えていなかったとは口が裂けても言えない、と思う理子である。ゆえに日頃はほっとする大好きな祖母の微笑みが、今、この上ないプレッシャーとなって理子に圧し掛かっていて。
どうにかしなくっちゃ、理子は追い詰められた心地で必死に考える。そうして天啓のように閃いた、その考えに文字通り縋るように、店中に響き渡るような大声でこう言った。
「おじいちゃんがお菓子作る時に出る卵の殻でエッグキャンドル作る! のを、自由研究にする!」
「――おや」
「――まあ」
そんな孫娘の宣言に、高明さんと伊都子さんは思わず顔を見合わせて、それから『しょうがないねぇ』『しょうがないわねぇ』と眼差しだけで頷き合う。状況からして、たった今の思いつきだけで言っているのは2人にだって解ったけれども、そう悪くないテーマじゃないだろうか。
ならば可愛い孫娘を手伝ってあげようと、高明さんは『思い付き』の部分については何も言わないまま「じゃあ、ちょっと待っててくれるかい」と卵の殻を取りに行った。そんな高明さんと同じく、伊都子さんも理子に深く突っ込むなんて無粋はせず、微笑みながら蝋や着色用の道具を取りに母屋へ戻ろうとする。
けれども、今の大声で何事かと注目しているお客様に気がついて、そうそう、と声をかけた。
「これから孫と一緒に、エッグキャンドルを作るんですよ。良かったらご一緒にいかが?」
――昼下がりの『somnium』店内の一角で、にわかに『エッグキャンドル作成教室』が開催されたのは、つまりそういう訳である。
お久し振りです、というご挨拶しかしていないような気が致しますが、お久し振りです、水無月 深凪と申します。
8本目のお話は、皆でエッグキャンドルを作りませんか、というお話でお邪魔致します。
ちょっと人数が少なめですが、たまたまお店を訪れていたら……という設定なので悪しからず、ご了承下さいませ。
エッグキャンドル、作り方を調べてみたら色々とあるようですね!
今回は理子の自由研究という事ですから、さほど難しくはない(と思う)作り方がメインになります。
もちろん、そこからのアレンジはご自由にアクションに書いていただいて構いません。
<エッグキャンドルの作り方>
1、卵の殻の中に芯をつまんで立てながら、蝋を溶かし入れる。
2、お店の冷蔵庫(の隅っこ)で冷やして固める。
3、固まったら外に出して室温に戻して、殻に色を着けたり、絵を描いたり。
基本的な材料(蝋・芯用の太い木綿糸・アクリル絵の具等の着色道具)は伊都子さんが所有している物がありますが、冷えるのを待っている間などに買いに行っても良いでしょう。
なお、材料の卵の殻を綺麗に洗って乾かすのは伊都子さんと理子がやりますが、お手伝いして頂ける分には大歓迎です。
過去の『somnium』シナリオも知りたい、という方はこちらをご覧ください。
もちろん、ご覧にならなくても問題なくお楽しみ頂けます。
『somnium』へようこそ!
『somnium』で紙ねんどスイーツを。
『somnium』のチャイナな一日。
『somnium』の店主夫婦は、ご主人が定年を迎えた後に夫婦揃って寝子島に移り住み、趣味を一杯に詰め込んだお店を開いたという、木原 高明(きはら・たかあき)さんと伊都子(いつこ)さん。
揃って68歳を迎える今も、海外や国内各地に旅行に赴いては、あちらこちらで仕入れてきた雑貨なんかをお店に並べていたりします。
髪に混じった白いものも目立つお年頃ですが、どこか可愛らしいような、優しい雰囲気が親しみやすい、とご近所では評判だとか。
皆様との関係は、こちらも無理のない範囲で、常連客など、ご自由に設定して頂いて構いません。
ちなみに余談ですが、孫娘の木原 理子(きはら・りこ)はご夫婦の娘さんの1人娘。
祖父母大好きなあまり、進学先は寝子島高校を狙っているとか居ないとか。
それではお気が向かれましたら、どなた様もお気軽に、どうぞよろしくお願いいたします(深々と