暗がりに瞬く。
もう一度瞬きをして、眼が覚めたことに気付いた。
瞼の傍、見ていた夢の欠片が、悪夢だったのかそうでなかったのかも分からないほど微かに残っている。
息をひとつ吐き出す。足元に蹴り退けたタオルケットを体に巻きつける。夏の夜のじっとり暑い空気を振り払うように、寝返りをぐるり。
瞼を閉ざして、開く。
タオルケットを払いのけて起き上がる。落ちてくる髪を手で掻き上げて、首を傾げる。夢のせいなのか何なのか、なんだか眼が冴えてしまった。
時計を確かめる。夜明けにはまだ早い、けれどもう真夜中とも言えない微妙な時間。
カーテンを引いた窓の外からは、真っ青な月の光。網戸を潜り抜けてきた微かな夏風がカーテンを揺らす。車の音も人の声も聞こえてこない。
緩やかな風に混ざって、夏の夜の気配。と、それから、夜の海の気配。
ここからは少し遠い波の音を聞いた気がして、潮風の匂いを嗅いだ気がして、伸びをする。
もう、どうにも眠れそうにない。
いっそのこと外に出てみようか。
そう思って、思った途端に思わずくすりと笑う。うん、それがいい。
短パンのポケットに小銭だけを突っ込めば、準備は完了。途中の自販機で飲物でも買って、海岸まで歩いて行ってみよう。きっと星も綺麗に見える。
眠れないまま時計を眺めて朝を待つより、きっといい。
初めまして。阿瀬 春と申します。
星の明るい夏の早朝です。お散歩、してみませんか。
ひとりで海を眺めて誰かを想うのもいいかもですし、頭にこびりついてしまった悪夢を海風に流してもらうのもいいかもです。
猫の集会をこっそり覗いてみたり、魚の跳ねる朝の海で足を波に洗わせてみたり。偶然居合わせるかもしれない誰かと内緒話をしてみたり、ふたりで朝を待ってみたり。
悪いことはなんにもおきない、フツウの静かな夜から朝にかけての時間を書かせて頂けましたらと思っております。
学生さんも社会人さんも、のんびりお散歩してみませんか。