●彼と彼女の事情
勉、29歳は社蓄だ。
度重なるサービス残業、休日出勤。
最後に8時間寝れたのは、いつだろう……勉はボンヤリ考える。
くたくたの頭と身体は、鉛のように重たい。
数ヶ月は切りに行けてない髪も、ぼさぼさのまま。
けれど、彼は決してくじけない。
なぜなら。アパートには、愛しの彼女が待っているから。
「ただいま、今日も遅くなってごめんよ。お腹すいてないかい? すぐに食事の支度をするからね」
ようやく本日の業務から解放され、帰り着いたアパート。
玄関まで出迎えに来た彼女の頭を撫でる勉の手には、苦労が滲んでいる。
彼女はそんな勉を見つめると、何も言わずにその手のひらに柔らかな頬を押し当てるのだった。
「いいんだよ、ミエコ。君は何も出来なくても。僕の傍にさえ居てくれれば。……他に何もいらないよ」
優しい笑顔を向ける勉に、彼女はその桃色の唇を開いた。
「ミェ?」
「ミエコッ!? ……かっ……、かわいいいいぃぃぃい!!!」
ミエコ、0歳2ヶ月は猫だ。
脳まで蕩かすような、愛くるしいミエコの声に、ごろごろのたうちまわって絶叫する勉。
「ミエコォ! かわいいよ、ミエコォォオ!!」
しっかりしろ……。
そして数日後。ついに悲劇が起こる。
宅配業者の応対のため、一瞬玄関を開け放した勉。
小さなミエコは、細い隙間からするりと外の世界に踏み出した。
●大きいにゃんこ
貴方は突然鳴った、携帯電話に出た。
『あっ、繋がった! 良かったー、あの、今って暇?』
妙に切羽詰った声は、先日、教会立て篭もり事件で救出された
飯田 幸のものだ。
何だ? また困った事でもあったのか?
『実はね、仔猫が巨大化しちゃって大変なの!』
……ふーんそうなんだー、大変だねぇ――なぬ!?
今の言葉っ、プレイバック!!
仔猫が巨大化とか聞こえたぞ!!? 聞き捨てならん。
「え、なーに? 仔猫がどうしたの?」
貴方の横では、「仔猫」という言葉に敏感に反応した
野々 ののこが、のんきに笑いながら貴方の顔と携帯とを、交互に覗き込みながらピョコピョコしている。
この子に聞かれるのは、フツウを守る上で色々とまずい。
貴方はクルリと ののこに背中を向けると、口元を手で覆い隠し、幸に話の続きを促した。
幸の傍には、子供達。
そしてその視線の先には、闘牛サイズくらいに巨大化を果たした、ミエコがいる。
ミエコの尻尾の先には、真っ赤なプラスチックのボールがくっついている。
幸の話によると、こうだ。
旧市街の児童公園で遊んでいた子供達は、ちょうちょを追いかける仔猫のミエコを見つけ。
かわいいしっぽに似合うでしょう? と、丸い玉飾りのついた、ヘアゴムをミエコのしっぽに括りつけた。
それが、ミエコのろっこん『大きいにゃんこ』の発動条件とも知らずに。
寝子島に早く慣れるために、周囲を散策中に偶然通りがかった
黒兎 都は、その光景にぽかんと口を開けた。
「……こぬこ?」
向こうの公園に仔猫がいる。仔猫、だよな?
何か激しく違和感を感じないでもないが。
具体的に言えば、有り得ない程、大きい。
……もう少し、近くで見てみたい。
いつも近付くと逃げられてしまうけれど。ぬこ、好きなんだもん。
都が近づけど近づけど、仔猫は大きい姿のままだ。
「ミエコ、ミエコォー!! 君がどんなに変わっても、僕の愛は変わらないよ!」
何だ? あの、こぬこに取りすがるヨレヨレの兄さんは?
「危ない! こっち来ちゃダメ!」
呆然と立ちすくむ都に、忠告をしたのは幸だ。
仔猫がこっちめがけて駆けて来る。
巨大なにくきゅうが、都の眼前に迫り。
ここからスローモーション
――パッシィーン……!
ぶたれた、前足で。ナニコレ、むっちゃ柔らかい……。
巨大なにくきゅう……とか。
反則、じゃないのか?
ここまでスローモーション
ころころと地面を転がりながらも、起き上がる。
服が砂だらけだが、にくきゅう効果なのか、怪我はないようだ。
と。
こぬこ、またこっちに来る!?
ちょっと弾むように、その上おぼつかない足取りが何ともかわいらしい。
幸がすう、と息を吸い込み
「かわいければ、何しても許されると思ってるんでしょう!?」
内容は別として、鋭い声を発した。
すってーんころりーん
置き去りになったキャンディボールに躓いて、仔猫が転んだ。
「早く! 今のうちに、逃げて!!」
子供達を庇ったまま、幸が促した。
●もふもふしたりされたい人、集まれ~!
携帯電話の向こうは、大騒ぎになっている。
一刻も早く、人手を集めて向かってやるべきだろう。
貴方は顔を上げた。
「ねえってばー、教えて~。仔猫がどうしたのー?」
しかし。まずは好奇心旺盛な ののこさんを、どうにかしようか。
マスターより
メシータです。どう見てもコメディ……のはずです。
かわいい仔猫を、全力で楽しみたい! そんな願望を形にしてみました。
●場所
旧市街にある、児童公園です。
シナリオガイドに登場した子供二人と勉がいるだけで、他に人目はありません。
しかし、ミエコが公園から出てしまえば、その限りではないでしょう。
公園にはジャングルジム等の遊具があります。
そこそこ広く、スペースについての心配はいりません。
●登場NPC
・ミエコ
生後2ヶ月のメス。三毛で、性格はやんちゃです。
ろっこん『大きいにゃんこ』の力で、巨大化しています。
言葉は通じません。
動くものを能動的に襲いますが、パワーは弱めのため、『ひと』でも問題なく対処に当たることが出来ます。
しっぽの先のヘアゴムを外せば、元のサイズに戻ります。
尚、ミエコのしっぽについているヘアゴムの玉は、ボウリングの玉くらいのサイズ。
プラスチックで取っ掛かりがないため、掴んでもつるつる滑ります
<ミエコ予想行動パターン>
前足ではたく→地面に転がされます、にくきゅうです
押さえつけてぺろぺろする→くすぐったいです
しっぽを振る→吹き飛ばされます、ほわほわです
爪で切り裂く→案外鋭い仔猫の爪、服とか切れるかも
・野々 ののこ
純真なので、別の話題を振って誘えば、疑いもせずほいほいついて行くでしょう。
彼女がフツウじゃない現象を目にする事は、極力避けてください。
・勉(ツトム)
近所に住むミエコの飼い主です。PC到着時には、ミエコに蹂躙されてボロ雑巾のように転がっています。
・飯田 幸(ハンダ ユキ)
拙作『降る雨』にて、救出された娘。寝子高生です。
PCの皆さんが到着するまで、ろっこん『不幸体質』で時間稼ぎをしています。
(不幸体質:空腹時に罵る事により、対象にちょっとした不幸をもたらす)
PC到着時、ミエコの相手でヘロヘロになっていますが、もれいびなので放置して大丈夫です。
・子供二人
ミエコの尻尾に、ヘアゴムをつけた幼稚園児。近所の子供です。
スタート時、ジャングルジムの中に避難しています。
ミエコに見つかって、手(ちょっかい)を出されたら、怖がって泣き叫ぶでしょう。
以上、よろしくお願いします。