何言ってんだよコイツ。殴ってやろうか。
宮小路 美沙源氏名
みちゃ子は、内心そんなことを考えているのだが、もちろんそれを表にするような素人ではない。
ここはクラブ『プロムナード』、来客の少ない水曜夜だ。指名を受けてみちゃ子は、よくしゃべる客を相手にしていた。
「……でー、先にも申した通り拙者の分類では、可変NSには二種類あって、ニャッシマーはその両方の特徴を活かした機体ということでござってな」
「そうなんですわね。駒田様の説明、とってもわかりやすくて素敵ですことよ」
嘘である。みちゃ子にはさっぱりわからない。『ニャンダム』だかなんだかのロボットアニメの話題らしいが、アニメはただでさえ不得意分野のうえに、ストーリーやグッズの紹介ならまだしも、マニアックなロボットの話なんか熱弁されても困るだけだ。先日以来二度目の来店となる
駒田というこのサラリーマンオヤジ、小綺麗な格好だしそこそこ稼いでそうだから営業をかけてみたが、まんまと指名こそせしめたものの、中身はズブズブのオタクだった。それも、自分の好きなものについてだけ延々しゃべりつづけるという、みちゃ子が一番苦手なタイプだ。
芸能関係とかスポーツとか、なんなら仕事の愚痴でもいいからよぉ、ちったあとっかかりのある話をしろや。おまけになんだ、「拙者」? 「ござる」? その意味不明の口調はやめろ。まさか面白いとでも思ってんのか。
……と、肚(はら)でさんざんに毒づいているみちゃ子であるが、この駒田はさっきからハイペースで注文してくれるしチップをはずむし、けっこう高いボトルも入れてくれるしで、上客であることはまちがいない。上場企業勤務の役職付き、四十は超えていそうだが独身らしく、趣味といってもアニメとプラモぐらいだそうで、可処分所得にも預金にも、存分に余裕がありそうだ。
吸い尽くしたるわ。
こいつからどれだけ金を引っ張れるか──みちゃ子のなかの狼が舌なめずりした。
クラブ『プロムナード』は色恋営業禁止の健全店だが、オーナーの
アーナンド・ハイイドも男性スタッフ(黒服)たちも、みちゃ子からすれば馬鹿がつくほどのお人好しで善人だから、黙って闇営業すればいいだけのこと。もっとも、いまやキャスト兼チーフ的なプレイングマネージャーの夕顔や、何かと目端の利く沙央莉と泰葉など、女性キャストのほうには油断ならない存在もあるのだが。
「可変NSといえばー」
ここで黒服
ゴンザレス・東井が「お客様。お時間となりました」と知らせにきた。
「どうなさいます駒田様? わたくし、今夜はまだ指名、いただいておりませんことよ?」
しなを作って流し目する。「延長でござる!」と再度の指名がかかることを、みちゃ子は毛ほども疑っていない。
ところが駒田は言ったのである。
「じゃあ次の指名、まみ子さんをお願い申す」
ぬわんだとおおおおおおおお!
マジ殴りかかりそうな衝動を、みちゃ子は必死でこらえた。
他のキャストならまだ許せる。それが、よりにもよって
まみ子とは! 血圧は急上昇したはずだ。
──働くのって、楽ちゃうわ。
腹立ちまぎれにみちゃ子は、目の前のハイボールをカーッと一気した。もちろん、
「あら、お名残惜しいことですわ。駒田様、わたくし、涙の別れですことよ。嗚呼このグラスが、駒田様とのお別れの盃になるわけですのね……」
などと一応、しおらしいことを述べてから。
──△▽△──▽△▽──△▽△──
夏休みだというのに
賢持 剣吉(けんもち・けんきち)が木天蓼大学まで出てきたのは、本日、学校主催の就職セミナーがひらかれるからだ。
マタ大キャリアセンターによる夏期特別講座で、企業説明会のような催しではなく、社会人としての基礎マナーや対人コミュニケーションスキルを身につけることに主眼を置いた実践的な内容である。参加費は無料、対象は学年・専攻を問わず全学生および大学院生で、希望すれば原則として誰でも受講できる。ただし各日程の定員には限りがあり、今年は例年以上に応募が集中したため、抽選のうえA〜C日程のいずれかに振り分けられる形式となった。受講者の内訳を見ると、就職活動を本格的に意識し始める二年生・三年生が中心だが、一年生や院生、四年生の参加も一定数見られるという。
七瀬、やっぱ来とらんがかー……ちっくと寂しい。
剣吉は単独参加だ。友情に厚い男を自負する彼は、「七ちゃんの分も応募しといたき!」と勝手に
倉前 七瀬の分まで参加希望を出して、おなじA日程に選ばれ喜んだものの、肝心の七瀬は「興味なかです」とあっさり不参加を表明した。司書教諭を目指しているから、というのが理由だそうだが、「だとしてもけっして無駄にはならんと思う」「採用面接のスキルだって必要じゃ」と剣吉はだいぶ食い下がった。
なのでひょっとしたら気が変わって、と一縷の望みをたくしつつ、用意された講義室の席に着いたのである。
七瀬のほかに親しい友人といえば、丈田虹子がいるのだが、彼女はC日程だった。ぱっと見た限り他に顔見知りの姿はない。
アウェイ感があるのう。
心細さもあって、剣吉は身を小さくしている。
いや、心細さのせいばかりではない。隣の席の男が、でかいのだ。大柄、しかもヘラクレスもかくやという感じの筋肉のカタマリ、肩には小さな冷蔵庫くらい乗りそうだし、その気になればチョップだけで剣吉の細首などたたき折れそうだ。
マッチョマン! 怖!
しかも彼の隣もまた目立つ風貌の男だった。真っ青に染めた髪、ちょっと怖いくらいの整った風貌はビジュアル系バンドマンのよう、しかし彼が口を開くと、
「すいじゃえもーん、結局来てもうたけど、ワイはこんな講座だかゴザだかには興味ないねんけど」
と、怒濤の濃口大阪弁なのである。
一人称なんて「ワイ」やき! ビジュアル系河内のおっさん!? 怖!
さてその講座で、何が始まるのかと思いきや、マナー講師だかキャリアアドバイザーだかの胡散臭い肩書きを持つスーツの男は、壇上でかく言いはなったのである。
「ではアイスブレイクということで、まずは手近な人とペアを組んで、お互いに質問を出し合ってください。できるだけ知り合いではない相手で。席は移動して構いません」
なんやて!?
瞬間、猿面冠者賢持剣吉の両眼は、発光ダイオードでも仕込まれてるのかというほどギラリと光った。
女子! それもかわいい女子とお近づきになるチャンスじゃ!
もちろんマッチョマンや青髪には声をかけない。急げ、急がなければキュートないしビューティフォーな女子と組むチャンスは奪われてしまう。ロケットのように剣吉は席から躍り出た。もちろん当初の目的なんて、とっくの昔に忘れている。
シャーッ! 獲物を狙う蛇さながら、さっそく剣吉が目を付けた女子は、すらりとしてクールな風貌、髪は刈り上げに近いベリーショートだがよく似合っている──。
「おまん、もし組む相手がなかったら……」
と剣吉は突進しようとしたが、
「ハァ!?」
怒りと侮蔑の籠もった氷柱のような視線をうけて、すごすごと引き下がった。
なんだアレ? という言葉すら
鈴掛 涼菜(すずかけ・すずな)は口にしない。涼菜は「組もうよ」と
桃瀬 百弥(ももせ・ももや)に声をかけた。
「でも講師の人は、できるだけ知り合いではない相手で、って……」
「できるだけ、だろ? 構うこたないよ」
どーせ私ら一年なんだし、という涼菜の声を背後に聞いて、
若いっていいなぁ──。
と修士一年の
葉山 実璃(はやま・みり)は思った。もっとも、彼女の指導院生(博士課程二年)
マリエッタ・ラシュリエからすれば、実璃だってじゅうぶんすぎるほど若いということになろうが。
とりあえず男だけは避けたかった。なので剣吉は、ワカメみたいな
もさっとしたヘアスタイルの男が「やあ、よかったら」と呼びかけてきたのを「先約があって!」とパスし、
芸術学部らしきさわやかイケメンが近づいてきたが天敵なのでダッシュで逃げ、好みのタイプの眼鏡女子を見つけたものの、こともあろうに彼女はそのさわやかイケメンと話し出してしまったので呪詛の言葉をつぶやきながら離れた。
「へー、数寄屋橋(すきやばし)さんって、四文字姓なんだ。めずらしいね」
「名前も三文字、フルネームなら
数寄屋橋 井乃梨(すきやばし・いのり)、長ったらしいでしょ?」
なんて会話をさっそく、イケメンと眼鏡女子は開始しているではないか。
見つめあって素直におしゃべりできる男女なんて爆発してしまえ!
ジタバタしているうちに剣吉の周囲では、つぎつぎペアができあがってしまった。
俺、あぶれてる!?
しかしこのとき、焦る剣吉に「あの」と声をかけてきた者があったのだ。しかも女子だ!
「ハーイ!」
全力の笑みで反転したが、剣吉の笑顔はみるみる失望へと変わった。
なんていうか……ネクラな感じやき……。
陰キャという言葉を煮詰めたような、影をずっと背負っているような、そんな女性だった。櫛をかけてるのか疑わしい黒髪、ぼろっちいジーンズによれたTシャツ……。
「あの……香澄っていいます。
香澄 玲依(かすみ・れい)……三年です……」
ぼそぼそと話す。
なんというか、ハズレ引いたなと剣吉は思った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
マスターの桂木京介です。
倉前 七瀬さん、マリエッタ・ラシュリエさん、お名前を借りるかたちのご登場になってしまいました。ご活躍させられなくてごめんなさい。でも、ご参加を心からお待ちしております!
(ご参加の際は、このガイドにこだわらず自由にアクションをおかけください)
概要
本作は
すでに働いているキャラクター
企業勤務の会社員、自営業者など、作家などの請負業も含みます。
定年退職後のキャラクターでも、継続雇用などで勤務されている人はOK。
退職したけど再就職活動をはじめているキャラクターももちろん歓迎です。
大学生・大学院生・フリーター
木天蓼大学限定ではありません。
就職活動中、あるいは「まだ一年生だけど将来の職業も考えないとなあ」とぼんやり思っている程度のキャラクターを想定しています。
高卒以上であればフリーター、無職(職探しする)でも可能です。
を参加対象として限定したシナリオとさせてください。
時期は1372年7月最終盤から8月初頭とします。
内容は、お仕事ないし就職にからめた話にしていただけると幸いです。
たとえば、
・毎日の業務が本当に忙しい。でも忙中閑あり、休憩室や屋上、行きつけの店などで数分だけほっと一息つく
・実は転職を考えている。職場に隠れて密かに職探し……いっそ異業種?
・エントリーシート書くのもう嫌! 毎回毎回ガクチカだとかエピソードとかねーっての! 無茶苦茶書いてやろうか
・いやあ、いつまでもニートしてられないしなんかアルバイトでもすっかー
・新連載のアイデアを出すよう言われていたけど煮詰まり、なのに現実逃避でずっと寝子島うろついてる。分かってる、分かってるけど手が動かないんだよ
・まだ大学一年、授業でたまたま「自己分析せよ」的な課題が出て、うっすら「自分、将来何やりたいんだっけ」ってなる。うーん
・バイト先の社会人(常連客とか)がやたら生き生き働いてるのを見て、「ああいう大人になれるのかな」、なんてぼんやり思う
なんてどうでしょう。
NPCについて
制限はありません。
NPCには『概要』のルールを適用しないので、中高生を含むすべてのキャラクターが対象になります。
ただし相手あってのことなので、必ずご希望通りの展開になるとはかぎらないことをご了承下さい。
特定のマスターさんが担当しているNPCであっても、アクションに記していただければ登場できるようがんばります。(ご期待に添えなかった場合はご容赦を)
NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、交際相手、経典を求め西国へ旅する高僧とその一番弟子のスーパーモンキーなど)を書いておいていただけると助かります。
参考シナリオがある場合はタイトルとページ数もお願いします(2シナリオ以内でプリーズ)。
毎回書いてますが、私は自分が書いたシナリオでもタイトルとページ数を指定いただけないと混乱の海に落ちていきますのでご注意ください。
それでは次はリアクションで会いましょう。
桂木京介でした!