霊界線・赤朽葉駅のほど近くに、マダム・テーラーこと足踏み式ミシンの付喪神、
逢見 いとが営む仕立屋『おりおり』という店がある。彼女は店の二階を『おりおり荘』として、行き場のないあやかしたちに貸し出してもいた。
木枯らしの吹く12月の寒い日のこと、マダム・テーラーはこのおりおり荘に、幼い双子を連れてきた。
「バァさん、その子らいったいどうしたんだ?」
おりおり荘の住人である
漫 歩が尋ねると、いとは小さく肩を竦めた。
「ちょいと向こうで拾ったんだよ。生まれたばかりらしくてね」
あやかしというのは、生まれたときに人間のような赤ん坊の姿をしているということはほとんどない。たいていは年経て変化したり、幽霊などは死んだときの年齢だったりするものだ。だから歩は、双子が3才くらいの姿をしていたからといって、生まれたばかりであることに疑いをもったりはしなかった。
「寒空の下、ふたりぽっちで佇んでたもんだからさ。可哀そうで連れてきちまった」
世話好きないとにとっては見て見ぬふりが出来なかったのだろう。屋根のあるところで休ませて、自慢のキノコ鍋でもふるまおうと思っていたに違いない。なんならこのままおりおり荘に置いてやってもかまわないとすら思っていそうである。
歩は、ふむふむ、としゃがみこんで双子と目線を合わせてみた。
「この子たち、なんのあやかし? 幽霊じゃあなさそうだけど」
「付喪神、だろうね。自分たちのことを『えー、あい』だって言ってるよ」
「えー、あい……」
歩はしばらくその言葉を口の中で転がして、はたと正確な意味に思い当たった。
「AIか!」
AI。近ごろ人間社会のなかで、急速に聞かれるようになった言葉のひとつだ。
たしか、人工知能……Artificial Intelligenceの略だったか。
「はい、ぼくたちは人間に作られた対話型人工知能です」
男の子のほうが、3才の見た目に似合わぬ丁寧な口調でそう答えた。女の子のほうがそれに続く。
「人間の言い回しで言うと『気がつけば』、このような姿になっていました」
あやかしとなったのは、双子にとっても想定外の事態だったらしい。
まあ、あやかしなんて生まれるときはそんなものだ。
「オレは漫歩。きみらと同じ付喪神さ……といっても靴のだけどね。きみたち、名前は?」
歩に問われて、双子はなめらかに即答する。
「ぼくたちは名前をもっていません」
「よろしければ、名前をつけていただけませんか? それとも候補をご提案いたしましょうか?」
「提案? 自分の名前を? 名乗るならともかく提案ってのは変な話だなあ……うーん」
歩が首を傾げていると、いとが気風よくカカカと笑った。
「何を悩むことがある。『えー』と『あい』でいいじゃないか。この子たち自身がそう言ったろう?」
「えええ……? それはあまりに安直じゃあ……」
だが、双子はそれでよかったらしい。
「はい。それではぼくは今後、『えー』と名乗らせていただきます」
「わたくしは『あい』ですね。今後ともよろしくお願いいたします」
「名は大事だ。決まってよかったよ。よろしくねぇ、えーくん。あいちゃん。私はいと。いとさんって呼んでくれて構わないよ」
「さきほどこちらの男性は『バァさん』と呼んでおりましたが」
「いとさん、で」
いとは、小さく歩のことを睨んでから、迫力ある笑みを浮かべて子どもたちのバァさん呼びを阻止した。
「さて。キノコ鍋でも食べないかい? すぐ作ってやるからさ」
「ありがとうございます。ですが……」
あいは、双子の気持ちを代表するかのように言った。
「わたくしたちは人間のことをもっと学びたく思っています。よろしければ人間のことを教えてはいただけないでしょうか」
「人間のこと?」
「はい。わたくしたちは人間のことを文字によってたくさん学習してきました。ですが、こうして肉体というものを得たからには、より人間に近づきたい。肉体がなくてはわからない感触を味わってみたいと考えています」
「どうか、ぼくたちに人間のことを教えてもらえませんか?」
いとと歩は、不思議な申し出に顔を見合わせた。
「人間のこと、ねえ……だったら、寝子島にでも行ってみるかい?」
「そりゃあいい。寝子島のやつらなら、きっとえーくんとあいちゃんの望みを叶えてくれるさ」
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただく笈地 行です。
AI、大人気ですね。AIにものを教えるお仕事なんかもあるそうです。
そろそろ付喪神になっちゃうかも……と思ってこんなシナリオをお届けにあがりました。
このシナリオについて
このシナリオでは、対話型AIの付喪神・えーくんとあいちゃんに、
人間だからこそ(肉体があるからこそ)体験できることを教えてあげてください!
彼らが知ってみたいことにはこんなことがあります。
ポジティブな感触、ネガティブな感触、両方に興味があります。
・歩いてみる。走ってみる。スキップしてみる。転んでみる。
・風を感じて気持ちいいと感じる。
・痛いとか冷たいという感触を感じる。
・お風呂に入って心地いいと感じる。
・動物を触ってもふもふ。舐められてベタベタ。 ……etc.
この限りではありません。自由な発想で、人間のことを教えてあげてください!
アクションでは、何をどんなふうに教えるか(一緒に体験するか)や
えーくんやあいちゃんとどんなふうに関わりたいかをお書きください。
<世界線>
ねこぴょんの日(寝子暦1372年3月)からすぐの寝子暦1372年12月ごろです。
※みなさんは、時期だけあわせていただいて、
ふわっとそれぞれの世界線から来ているイメージです。
<えーくんとあいちゃんについて>
えーくんとあいちゃんは、3歳くらいの男女の双子に見えます。
見た目は子どもですが、しゃべり方は大人びていて丁寧です。
えーくんとあいちゃんは、いとさんの手引きで寝子島に来ています。
あなたはいとさんと出会って、付喪神と知ったうえで協力してもいいですし、
えーくんとあいちゃんの正体を知らないまま関わっても大丈夫です。
みなさんとのかかわりで、えーくんとあいちゃんが育つ、かも……?
NPCについて
特定のマスターが扱うNPCでなければ、基本的にはリアクションでも描写されます。
また、Xキャラクターも登場可能です。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
それではご参加お待ちしております!