古来より行われてきたはずなのに、起源は明確になっていない年中行事。それでも染みついたリズムがここにはあって、
綾辻 綾花は夢中になって跳人を見ていた。
「ラッセラー、ラッセラー!」
飛び交う掛け声に合いの手を入れるよう拍手を返し、迫力あるねぶたが繊細に傾けられる様子は目に焼き付けるようにして視線で応援する。
そんな綾花を穏やかな顔で見ていた
早川 珪も、祭りの熱気には敵わなかったらしい。
「ラッセラッセ、ラッセラー!」
突如の大声援に驚き振り返ると、彼は微苦笑を浮かべて綾花の視線をねぶたに戻そうとする。今は達成感のほうが大きいのか、あまり照れた様子もなくて珪がはしゃいでいるのがわかった。
「ほら、折角だし。綾花さんも叫んでおいたら?」
尻込みする間もなく次の提灯がやってきて、新しい光と音が次の世界を連れてくる。跳人からの呼びかけはすぐに観客へと広まって、綾花も呼応しないのがおかしいとさえ思えてきた。
「ラッセラッセ、ラッセラー!」
渾身の叫びに心臓がバクバクする。ぐっと握った拳を解けないまま珪を見れば、「やったね」と笑っていた。
どうにも乗せられてしまったような気もするけれど、旅行の思い出としては悪くない。2人は顔を見合わせ笑い合うと、もう1度揃って大きな声援を送った。
そして――2時間近くに及んだ祭りも終わりを迎え、お囃子は哀愁を帯びた音色へと変わる。小屋へと戻るねぶたを追う人もいれば、運行ルートで探し物をする観客も出始めて、右往左往しだした通路で逸れまいと、綾花は珪の腕を強く抱きしめた。
「少しだけ、そうやっててね」
申し訳なさそうに言いながら、珪は人の流れを見ながら歩みを進める。そんな風に言わなくても、珪とくっついていられるのは嬉しいのに……とは口に出さなかったけれど、綾花はふふっと笑みを零した。
「圧巻でしたね」
「そうだね。テレビだと上の方しか映らないけど、曳き手の盛り上げ方もいいんだろうな」
どう魅せるか、観客が何を望んでいるか。前後のねぶたとの間隔を計りながら指示を出す扇子持ちと、その指示を見て全力で動く曳き手が信頼し合っているからこそ出来る最高の演出。
「雨が降らなくて良かったですね」
少々の雨では中止しないそうだが、それでも変更はあるだろう。今日のように豪快な動きを間近で見ることは叶わなかったはずだ。混雑する中なら傘も危険だし、カッパで雨に打たれ続けたら夏でも体を冷やしかねない。
そっと隣を見上げた綾花の顔に浮かんだのは、それだけではなかった。雨が嫌いでない綾花にとって、旅行だから晴れてほしいという願いでもない。
「……雨でも大丈夫だよ」
優しく笑った珪が人混みを抜け、綾花をそっと路地の端へと立たせた。ねぶたの戻り道から逸れ、ホッとひと息吐けるようにはなったけど、往来にはまだ祭りの余韻が冷め切らないので、込み入った話は聞き返しにくい。
「明日は近代文学館に寄るんでしょ? あとは観光物産館とか……あ、そこにシアターや展望台も入っててさ」
懐かしそうにクスクス笑う珪にとって、雨は苦手なものだったけれど――。
「
雨の日も、雨上がりも……楽しいことはまだいっぱいある……でしょ?」
あの日から、もうじき1年が経とうとしている。おそらく珪が前を向いてくれた秋雨の日は、九夜山を登って展望台に誘ったんだと、綾花も小さく笑う。
「そうですね、雨でも楽しいです。珪さんと、一緒だから」
はにかむ綾花が気遣ってくれていることも、溢れんばかりの愛情で包んでくれていることも、珪には十分に伝わっていた。なのに、今日も1日情けないところを見せてしまったばかりか、未だ心配をする彼女へ安堵させる言葉のひとつもかけられず、珪は綾花の頭を抱き寄せた。
「旅行……終わってほしくないなぁ」
こんな1泊2日の旅行では、今の自分を見せることも彼女を甘やかすこともできず、交わしたい言葉も伝えたいことの半分も届けられそうにない。
「えっと、でも……今日は珪さんのご両親に挨拶出来て良かったです。ありがとうございます」
珪からの抱擁に未だ慣れず、綾花は恥ずかしそうにトントンと背を叩いた。幾分か人通りは引いてきたし、祭りの話で盛り上がる人は他人の姿など気にしないだろうけど、それでもここは往来だ。
「私も旅行は終わってほしくないですけど、楽しみなこともあるので明日にならないと困ります」
「じゃあ――これから、どうしようか?」
まっすぐホテルに帰るもいいし、どこかで軽く食べてもいい。夜景をしっかり見るなら今日だし、祭りの余韻を楽しむならねぶたを追いかけてもいいと話す珪の顔は、どことなくわくわくしていた。
明日の相談も交えて、ふらりと祭りの残り香を追うように歩く。まだ旅行は、あと1日あるのだから。
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、綾辻 綾花さんのプライベートが満載なシナリオです。
このシナリオでは『時の流れ』が設定されています。 ※プロフなど各種設定にご注意ください。
■年月日 :寝子暦寝子暦1372年8月6日(木)の夜~7日(金)※あくまでこのカレンダーは目安です。綾辻さんの思う世界線のカレンダーをご使用ください。
■気象予報:今夜から明日いっぱいのお天気は晴天。日中は30度近いものの、朝晩は涼しそうです。
概要 - 夏の青森を、後悔なく満喫しきっちゃいましょう! というシナリオです -
※ このシナリオは、前後編の2部構成です ※前編:『夏盛り、一篇の恋を携えて。扉がひらく、ふたりの頁へ。』
本シナリオ(後編)では、旅程の8月6日~7日(仮)の2日間のうち、6日の夜から7日を中心に描きます。
(もちろん、振り返りや帰ってからのひとときもOK♪)
旅行も2日目へ!
お祭りの余韻に包まれた帰り道、どんなお話で盛り上がったでしょう?もしお任せだった場合の、旅の一例をご紹介しますね。
【6日夜】 今夜は各地が延長営業!
・観光物産館:お土産を買ったりするだけでなく、夜景や青森の四季をシアターで観賞できます。
さらに上階にはバーがあります! お酒を飲まない飲食だけの利用もOKですよ。
・埠頭公園 :青森駅前から埠頭にかけての広い公園では、お祭り仕様のライトアップ中。
小さな灯籠が所狭しと並んでいたり、フードカートのお店も日付が変わるまで営業しています。
・ホテル :今夜のレストランは、青森の屋台グルメをビュッフェ形式で提供中です。
大浴場は地下で、内風呂と外湯があります。どちらも温泉です!
【7日】
・近代文学館:ホテル周辺のバス停から、約20分。青森出身、ゆかりの作家を紹介している資料館です。
現在のテーマは『生き物と愛用品』ですが、過去の展示アーカイブも電子で見られます。
・雲谷高原 :青森駅からバスで約40分、近代文学館からタクシーで15分。空港までタクシーで20分!
ローラーリュージュやマウンテンバイクに乗って自然の中を駆け抜けたり、
タープを張ってアウトドア料理に挑戦してみたり。
ひまわり畑は歩いて巡るほか、乗馬体験しながら眺めることもできちゃいます。
その他、びいどろ体験であったり、昼のねぶたを見ることも可能ですし、リンゴ狩りもいいですよね。
お帰りの飛行機は20時台を想定していますが、自由にアクションしていただいて構いません。
ガイドに縛られず、申請いただいた内容や綾辻さんの準備してきたものも含めて、全力でどうぞ!!
NPCとXキャラ - 申請時に指定頂いたシナリオは再送不要です -
今回登場とお伺いしてますのは、NPC:早川 珪
綾辻さんの恋人です。ご両親へ紹介するという緊張から解れ、少しばかり開放的かも?
どうやら前半は情けなく振る舞ってしまったと思っており、格好良い面を見せたい様子。でも作戦はなく……。
後半こそはと意気込む彼は、綾辻さんに何を伝えたいのでしょうか。
※ 独自ルール ※ - こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい -
浅野が担当するシナリオでは、 様々な短縮表記が可能 です。参照シナリオがある方、Xキャラと参加したい方、アイテムやイラストを参照してほしいなどありましたら、
『独自ルール』をご参考に短縮表記をされると、アクションの圧縮に繋がります!
※気になる方は、ぜひお気軽に利用してくださいね。
※今後は、基本的に参照シナリオを提示されない限りは、同じ世界線として扱いません。
寝子暦1372年の卒業式以前のシナリオは、問題なく『過去』として参照が可能なため、引き続き参照します。
それ以後は自主申告がないと、浅野側では別の世界線なのか同一世界線なのかを判別することができません。
そのため、 物語の隙間を埋めるような描写 を希望される際は『必ず』参照シナリオをご提示ください。
※過去参加して頂いた浅野のシナリオに関しても、記憶違いを避けるためにご協力頂けると助かります!
(そのため、1度お知らせ頂いた内容であっても、必要な場合は都度お知らせ願います)
※必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、 少しであれば 確認させて頂きます。
※但し、こちらは全てに目を通すと確約をするものではなく、あくまで余力があればとなります。
それでは、よい1日をお過ごし下さいね!