寝子暦1372年、春。いろいろあった寝子島の桜は、そのせいという訳ではないだろうけれど、例年以上に長く花を咲かせていた。
猫たちがぴょんと跳ね、神魂があらかたなくなり、桜色の猫が現れもしたこの日々を、満開の桜はずっと見守っていたけれど。ついに年度末となった3月末日の今日は、なんだかとっても風が強い。
強風に揺れる桜を見上げ、
御薗井 E セレッソは呟いた。
「桜が散っちゃうナノ」
そんなセレッソの上にもひっきりなしに、はら、はら、はらと桜の花弁が降り注ぐ。暖かくなってきた日和につれて、薄くなった春の上着にもそれらは舞い降りて――そっと、そのひとひらを手に取った。
薄紅色の小さな花弁が、セレッソの手の中で柔らかく揺れる。
「お花見するなら、最後のチャンスなのヨ」
そう、呟きはすれど友だちにどんどん連絡する程のアクティブさは、今のセレッソにはない。ゆえに、ひらひらと風に舞う桜をただ眺めながら、セレッソが足を向けたのは寝子ヶ浜海浜公園だ。
幾つもの桜の名所がある寝子島だけれど、大勢で集まれるお花見スポットと言えば多くの人が思い浮かべるのがここ、寝子ヶ浜海浜公園だ。だからわざわざ連絡はしなくとも、ここなら誰かしら、お花見をしている人も居るだろう。
そんなことをぼんやりと思っていたセレッソは、果たして行く手に見えてきた公園の入口に佇む、知己を見つけてぱっと顔を明るくした。
「あ!」
そうして声を上げたセレッソに、向こうももう気付いている。
薄野 五月――いつも会っていても、待ち合わせをしたわけでもないのに偶然会えたら、なんだか喜びもひとしおだ。
ゆえに五月とセレッソは、顔を見合わせてにっこりする。
「会っちゃったね」
「会っちゃったナノ!」
「会っちゃったアルよ!」
そうして2人キャッキャと喜びを分かち合っていたら、ふいに3人目の声がした。あれ、と瞬いてからそちらを振り返れば、そこに居たのは
畑中 華菜子である。
どうやら華菜子は、ラーメンの配達中に偶然通りがかったようだった。手に下げた岡持ちを軽く掲げてそう言った、華菜子になるほどと五月とセレッソは頷いて。
せっかくだから一緒にお花見しないかと、誘えば嬉しそうに頷きながら、「この配達が終わったら時間ができるアル~」と手を振って人混みに消えていく。その背中を見送っていたら、代わりにやってきたのはうどん屋さん――じゃなくて、
瞬城 真魚であった。
「あ、真魚さん」
「真魚チャン!」
「テンション高いわね」
刹那、驚き顔で瞬いた五月と、嬉しそうに両手を振ったセレッソの声が見事にハモる。それに、真魚はほんの少し呆れたような顔をしたけれども、よく見ればどこか嬉しそうだ。
それに気付き、五月とセレッソがまたキャッキャと喜んで。そんな二人を前に真魚が冷静さを装う――その様子を、遠くから
浮舟 久雨は眺めていた。
「むう……」
約束をしていたわけでもないけど、偶然出会った友人に声を掛けないのも座りが悪い。だが、いきなり声を掛けて邪魔をしてしまっても申し訳ない。
行くべきか、やめるべきか。久雨が静かに迷っていると、パシッ、と肩を強めに叩かれた。
なんだ、と振り返れば
如月 庚が、久雨と遠くの3人を見比べながら、よお、と笑う。
「知った顔がチラホラいるんじゃねえか? いこうぜ」
「むう。いくか……あぶないっ!」
――ドンッ!
「キャッ!」
そう言いながら歩き出した庚が、だが誰かとぶつかりかけたのを見て久雨は声を上げ。だが時すでに遅く、少々勢いよくぶつかった庚はとっさに相手を支えた。
バシャン! 相手が持っていたコップから、ビールが半分ほど地面に零れ落ちる。
「お、わりぃ……って、みっちゃんかよ」
「もう~、どうしてくれるのよぉ」
慌てて謝った庚は、当の相手を見て安堵と呆れの息を吐いた。寝子高生からは『みっちゃん』『みわちゃん』などと呼ばれて親しまれている、恋バナ好きで有名な
久保田 美和先生だったのだ。
ゆえに気やすい気分でそう言った庚だが、美和先生は零れたビールの方を残念そうに見降ろしている。そんな美和先生から視線を逸らし、彼女が来た方へと振り返ればそこには、2人分のビール。
どうやら美和先生は、誰かと一緒に来ているらしい。恐らくはついに最近できた、あの恋人だろう――名前は忘れたけど、あの。
そこまでを確かめて、にやり、庚は笑う。
「会っちまったなぁ」
「会っちゃったわね」
そうして言った庚に、言われた美和先生はひょいと肩をすくめた。面白いことには目のない寝子高生やその卒業生たちに見つかったとなれば、恋人とふたりで静かに花を愛でるというわけには、もういかない。
困り顔の美和先生は、だがなんだか凄く嬉しそうな顔で言った。
「みんなでお花見、しちゃおうか」
――それはどこか、悪戯めいた響きだった。
いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月と申します。
おそらく最後の、最後の最後の大規模なお花見シナリオを担当させて頂けることになりました。
シナリオガイドには、御薗井 E セレッソさん、薄野 五月さん、畑中 華菜子さん、瞬城 真魚さん、浮舟 久雨さん、如月 庚さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
あくまでもイメージですので、もしもご参加いただけますときはガイドに囚われずにご自由にアクションをお書きください。
概要
オーバータイムではありますが、今回は「寝子暦1372年3月末(日曜日)」限定です。
満開から一転、桜が一気に散り始めた寝子島です。
風が強く、今日一日でずいぶん散りそうです。
とはいえ、気温はポカポカあったかいので、屋外でも楽しく過ごせます。
ひさしぶりの友だちと、家族や恋人と、自由に過ごしてください。
みなさまの3年間の思いなどに触れるのもよし、ただワイワイやるのもよしです。
主なお花見スポットは寝子ヶ浜海浜公園ですが、他のスポットも歓迎です。
各自の家や店、仕事場。そして春休み中の寝子高に理由を付けて入ってしまうこともできます。
以下の選択肢からひとつかふたつ選んで、アクション冒頭に【A】~【D】の記号をお書き添えください。
【A】寝子ヶ浜海浜公園(屋台あり。ステージでのイベントには歌やダンスでの出演も大歓迎)
【B】寝子島神社と参道商店街(屋台あり)
【C】寝子高(部活もOK。出入り時は自由。先生はいたりいなかったり)
【D】その他どこでもご自由に。
NPCとXキャラについて
登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
不自然でなければA~Dまで、どこでもOKです。
1人のNPCに複数のPCさんがご希望された場合は、短い時間で、個別に、一箇所のみとなります。
お友だちとの交流を優先していただくことをお薦めします。
今回はオーバータイムではあるものの、オーバータイム前の気分を大切にしたいので、
ねこぴょん後の関係性の変化などはあまり反映できません。
Xイラストのキャラクターを描写する場合、
PCとXキャラの2人あわせて「1人分」の描写なので、無関係の行動などはお控えください。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
それでは、みなさまのご参加を心待ちにしております!