寝子暦1372年4月――
志波 拓郎は木天蓼大学の体育学部へと入学し、19歳となった。
寮からシーサイドタウンのアパートに移り、完全に自立した生活を求められ半月は過ぎた頃。幾分か心にも余裕が出てきたので、改めて新生活に足りないものはないかと部屋を見渡す。
高校と違って私服な上、身体を動かすから運動着なども含め着替えやタオルは多めにいるだろうし、スポーツドリンクやプロテインのストックも切らさないようにしておきたい。
(……なら、収納棚もいるか? でも急ぎかと言われると)
ざっと必要な物を書き出して、拓郎は暫し悩んだ。頭では重要度は分かっているつもりだが、見誤ってはいないだろうか。
(寮なら困っても、最悪友達や寮母さんがどうにかしてくれたけど……)
隣の壁に目をやって、拓郎は頭を振った。確かに背に腹はかえられない状況になれば、兄である
志波 武道を頼ることも出来るだろう。しかし、折角の大学生活なのだ。大人としてスタートを切りたい思いもあって、拓郎はできる限り武道を頼ることのないようにしようと考え、自立した生活を目指そうとする。
けれども、初めての一人暮らし。
今後何が必要になってきて、意外とこれは使わなかったなんていう情報は、隣に住む兄の方が持っている。
苦渋の決断の末、拓郎は武道にメッセージを送ることにした。
……しかし、待てど暮らせど返事がこない。
いや、実際はメッセージを送ってまだ30分程度だ。いくらいつもの武道なら秒で返信するからと言って、焦りすぎだろう。
もし連絡できないとすれば、講義や稽古など真剣に取り組んでいるときに限られるし、そうであっても1時間もすれば慌ただしく返信が数度に渡って飛んでくる。
けれど、今日は休日――武道からの返事がないことは、拓郎に異常事態を知らせていた。
(何か用事か?)
そう考え、ここ数日の様子を振り返る。
引っ越して数日、まだ部屋に慣れないだろうと食事に誘ってくれたり、ルームメイトが居なくて寂しいなら泊まりに来るかと騒いでいたり。入学式の準備で忙しいときは、聞いてもないのに謝ってきて。
それから新学期が始まり……お互い講義の時間がずれることも、友達と出かけて留守にすることも、やっぱり聞いてもいないのに伝えられていて。
「……今日は何も聞いてない、けど」
言い忘れただけならいい。逐一、兄の動向を知りたいわけでもないし、知られたくない用事のひとつやふたつだってあるだろう。
それでも、やっぱり拓郎は何かが引っかかった。
――いつでもウェルカム!
そう言って押しつけられた合鍵の存在を思い出して、もう一度隣の壁を見る。
(数日スマホが静かなのも、気になるな)
何もなくても絡んでくる武道が大人しい。やっぱりこれは、1度様子を見に行くべきだと、拓郎は立ち上がった。
「……はれ? たー坊、どっした~?」
突如玄関が開いた音に振り返り、何事もなさそうに笑う武道は――明らかに風邪を引いていた。
声はガビガビだし、顔は赤い。呼吸だってゼーゼーと浅く、体調不良なのは誰が見ても明らかなのにも関わらず、武道はヨロヨロとファイルの山をかき分けていた。
「なんで寝てない? なんで起きてる?」
「レポの資料整理のキリが……あ、実は俺さぁ、風邪ひいちゃったみたいで☆」
パラパラとファイルを捲り、これじゃなかったなぁとぼやいて別の本に手を伸ばす武道を見て、さすがの温厚な拓郎も限界だった。
「寝てろ病人!」
「病院行って薬あるし……」
「なおさら寝ろ!!」
何とか机から引っぺがして、ベッドに放り込む。そこまでされて、ようやく武道は自分が風邪気味ではなく、いつも通り拗らせてしまっているのだろうと自覚した。
「……うつすと悪いから、暫く来ないでほしーなぁ、なんて」
「いいか、病人には選択肢はない。食べて薬飲んで寝るのを見届けるまで、俺は来るからな」
毅然とした態度を示す拓郎を追い返せる言葉もまとまらなければ、力もない。武道はへらりと強がるように笑みをこぼしたかと思えば、大きく咳き込んだ。
「部屋、勝手に触るぞ」
まずは冷蔵庫を開け、食品らしき物が残っていないことに舌打ちをする。ゴミ箱の中にもドリンクゼリーの残骸があることから、ここ数日の食事事情は容易に想像がついた。
ひとまず適当なビニール袋で氷嚢を作って首や額を冷やしておくように言付け、拓郎は必要な物を買いに出かけることにする。
そうして自室へ財布を取りに戻り、近所のスーパーまで赴いて。拓郎ははたと思い返す。
「看病……できる、のか?」
自分の面倒を見るのと、誰かの面倒をみるのは大きく違う。
料理の腕やその他諸々……心配事は尽きないけれど、今は行動するしかない!
そんな弟の奮闘劇があるとも露知らず、武道は既に感涙していた。
「たー坊も大きくなったナァ……」
しっかり者に育ち、手厚い看病が受けられるようになるなんて。ついこの間までの関係なら、心配はしてくれても看病までは名乗り出てくれなかったのではないだろうか。
「おっと、俺もこうしちゃいられないか?」
そんな拓郎が少しでも負担なく看病できるようにしたい。
もう少し部屋も片付けて、探し物がしやすいようにメモを貼って、それから……。
「……っとぉ?」
身体を起こした武道は、ぐわんと頭が揺さぶられてベッドから転げ落ちてしまう。
拓郎が戻ってくるまでの間にベッドに戻れるか――ここでも小さなバトルが勃発しようとしていた。
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、志波 武道さんと志波 拓郎さんのプライベートが満載なシナリオです。
概要
■日時ねこぴょんの日から1ヶ月ほどの、4月下旬のお話です。
時間帯は、お好きに設定して頂いて構いません。
■状況
拓郎さん:スーパーやドラッグストアなどに買い出し中です。
必要があれば、寝子高職員と遭遇して、看病に纏わるヘルプを教わることも出来ます。
武道さん:拓郎さんに「寝ていろ」とベッドに押し込まれたにも関わらず、脱走を試みてしまいました。
戻られる前まで、自由な時間があります。再び資料整理をするも良し、大人しく寝るも良しです。
■できること
基本的にはお二人での話となるので、制限はございません。
スポドリの濃さで喧嘩したり、手作りパフェを無理して食べたり。
ガイドに縛られず、自由なアクションで日常を謳歌して頂ければと思います。
もちろん申請いただきました内容も、描写可能ですのでご安心くださいね。
NPCとXキャラ
今回登場とお伺いしてますキャラクターはいませんが、必要に応じて出演させることは可能です。他のマスターが個人で管理していないキャラクターに限りますが、お気軽にどうぞ!
※ 独自ルール ※ - こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい -
浅野が担当するシナリオでは、 様々な短縮表記が可能 です。◆参照シナリオ◆
明確に寝子暦1372年3月の卒業式より『前』であるシナリオと確認でき、
かつ、事実を確認するだけで良く、深い読み込みがいらないもの。どうしても前提にしてもらわないと困るもの。
これらに関しましては、できる限り参考にしますので『URLの一部』をお知らせ下さい。
【例えば】シナリオID3242の9ページと、トピックID2853の181番目の書き込みを参照依頼する。
【記入例】T/2853/181の結果を受けてS/3242?p=9で●●を成功。●●の情報はある前提の行動です。
シナリオは『S』、トピックは『T』と先頭に表記し、 IDから該当ページまでのURLは省略せず 、
そのまま提示して下さい。(たまに間違っていて、わからない時があります……)
※過去参加して頂いた浅野のシナリオに関しても、記憶違いを避けるためにご協力頂けると助かります!
(そのため、1度お知らせ頂いた内容であっても、必要な場合は都度お知らせ願います)
※必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、 少しであれば 確認させて頂きます。
※但し、こちらは全てに目を通すと確約をするものではなく、あくまで余力があればとなります。
◆Xキャラ◆
Xキャラ図鑑もトピックなので、同じ手順で短縮可能です。
【図鑑に詳細がある場合】 X/2892/(書き込み番号)
【イラストに詳細や補足がある場合】XI/(イラストID)
※両方記入して頂いて大丈夫です! それでも不足している情報がある場合や、
まだ詳細がないキャラクターは、お忘れなくアクションに口調や性格などのキャラ設定を記載してください。
◆持ち込みアイテムや参照イラスト◆
カプセルギアなどアイテムを持ち込む場合や、服装・性格説明の都合で参照して欲しいイラストがある場合は
それぞれの『ID』をお知らせ下さい。
【例えば】牧 雪人が『【カプセルギア】ボナパルト2』をアイテムとして持ち込む場合。
【記入例】CG/206
カプセルギアを『CG』、その他マイリストを『ML』、アイテムを『I』と先頭に表記して下さい。
【例えば】牧 雪人が『【カプセルギア】ボナパルト2』のイラストのみ所持している場合。
【記入例】IL/11932
『IL』と先頭に表記して、IDをお知らせ下さい。
※なお、アイテムやマイリストは、アクション送信時の情報が保存されません。
執筆期間中に編集を行うと、アクションと齟齬が出てしまう可能性があります。
投稿締切から1週間は 、該当のアイテムやマイリストを編集しないようにご協力ください。
それでは、よい1日をお過ごし下さいね!