――泣いても笑っても、これで決まる。

　２日間かけての第二次試験が終了し、受験生たちは様々な思いを抱えて会場を退室しはじめた。
　気の抜けた顔、ミスに気づいて青ざめた顔。そして全力を出し切って満ち足りた顔をしている者もいる中で、八神 修はほわほわと穏やかな笑みを浮かべていた。
　その手には、大事な手作りのおまもりが握られている。

（ありがとう、無事に試験も終わったよ）
　ちょっと歪な猫でさえ愛おしいのは、一針ごと心をこめて七夜 あおいが作ってくれたからだ。
　ぎゅうっと握りしめれば、ぽかぽかと心を温めてくれる笑顔が思い浮かぶようで、修はそのままキャンパスを後にしようとし――慌てて振り返って一礼した。
　この２日お世話になった試験会場。きっと春になったら、新たな気持ちでここに立っていることだろう。
　落とさないようにお守りを鞄に忍ばせて、今度は手編みの手袋をきゅっと装着。これまたあおいの心がこもった物なので手放したくないけれど、春になれば一旦休暇を与えないと。

　楽しみな春。夢に向かっての一歩を踏み出す季節は、とても待ち遠しい。
　なぜならあおいが、告白の返事をくれると約束しているからだ。

　……もう少し遅れてこいと願う春。卒業を迎えるのは楽しいことばかりではない。
　あおいの進学先は九州で、気軽に会える距離ではなくなってしまうからだ。

　まあでも、実際は飛行機でも新幹線でも乗れば日帰りで行ける国内だ。
　授業中に盗み見たり、講義の合間にカフェテリアで一緒に予習をしたりということが出来なくなるだけで、さして大きな問題でもないだろう。
　違う職を目指しているのだから、どうしたって会えない時間は増える。でもいつかは、重なる時間も増えていくのだと信じているが。

「さて……どうしようか」
　今こうして受験から解放された修にとって、結果が出るまでは一足早い春休みのようなもの。それは、一足先に推薦で進学先が決まっていたあおいも同じ事だ。
　学校は自由登校、急ぐ手続きもない。もしかしたら、あおいは引っ越し準備があるかもしれないが、リフレッシュも必要だろう。
　遠い地へ行ってしまうあおいと、寝子島の思い出巡りをするのもいい。卒業を惜しんで通学するのもいい。彼女と過ごせるなら、どんなささやかな時間でも他には代えがたいものになるはずだ。
　何か良い案はないものか。考え込む修の前に、ふと鮮やかなポップが目に入る。
（旅行か……）
　春休みや連休にむけての早割プランなどと一緒に、卒業旅行の文字が飛び込んできた。
　確かに今はそのシーズンではあるけれど、準備をするとなれば１月中。少々出遅れた感は否めず、残り福はあるだろうかと旅行会社の店頭を眺める。
　近隣の県へ日帰りで果物狩りに行ったことも、知人の代わりにと北海道へ行ったこともあるけれど、さすがに理由なく真正面から誘えば彼女も困惑してしまうだろう。
（日帰りも慌ただしいし、あおいが安心するメンバーを今から揃えるのもな）
　彼女が心ゆくまで楽しめるようエスコートするのが修の役目。一緒に行きたいからと無理強いするつもりは一切ないし、行き当たりばったりといった軽率なことは控える方だ。

　――というのは嘘ではないけれど、あおいと旅行には行きたい！

　ちらりとおまもりに目を落とせば、なんだか心を見透かされているような気がする。
　その中に包まれた『がんばれ♪』の文字を思い返して、修は心に従うままパンフレットを取った。
「でもさすがに、泊まりで旅行がしたいからって綿密な計画を立ててたら……」
　なんとも言えない顔で困惑する彼女の顔が思い浮かぶようで、つい苦笑してしまう。
　そもそも、今から飛び込みで参加出来るツアーなんかがあるのだろうか。やはりもう少し考え直したほうがいいかもしれない。
　そう思案する修の前に、旅行会社のスタッフがいくつかチラシを持って現れた。
「よろしければ、中でお伺いいたしましょうか？」
「いえ……予算や同行者も決まっていないので」
「で・し・た・ら！」
　ずずいと差し出されたチラシを、思わず受け取る。スタッフの手書き文字とＱＲコードのついた、モノクロコピーの安っぽい紙ではあった。
　けれどもその内容は、修の憂いを晴らすには十分だったのである。



「あおい、お疲れ様旅行に行かないか？」
「卒業旅行じゃなくて？」
　後日、あおいの時間を少し貰って、修は作戦決行に出た。
　といっても、ここからは正直ノープランだ。こんな博打な誘い方、試験開けのテンションでもなければ行わなかったかもしれない。
「別の名前にしておけば、またあおいと旅行にいけるかもしれないしね」
　くすくすと笑って取り出したのは、例のモノクロチラシ。
　綺麗な風景の写真も、行き先も書いていないこれは、一見して旅行の案内だとは思えない。
「キャンセルが出てしまった旅行パックに、格安で申し込めるみたいなんだ」
　出発日までは３日となかったりするし、場所も内容も何が飛び出すかわからない。もちろん人数だってまちまちだから、事前にグループを組んで狙うのはもっと難しい。
　でも、日帰りから宿泊までお得になっているから、興味があればと思って誘ってみた。
　といえば、あおいも修の誘いを無碍にはしない。どころか前向きに検討してくれているようだ。
「あ、こっちはどう？　『全てお任せお祝いパック』っていうの」
「卒業生なら、予算と人数だけ指定して残りはお任せ……へぇ、一言だけなら希望条件を書けるのか」
　これであれば、あおいも色々と考え込むことなく旅行に行きやすいのではないか。もう一度、一緒に行ってくれるかと聞こうとしたけれど、その顔はすでにワクワクとしている。
「じゃあ、予算も希望もあおいに任せるよ。俺の希望は、あおいが来てくれることだけだから」

「……もう！」
　楽しみだねと笑いながら申し込むあおいは、何と希望を書いたのかは教えてくれなかった。
　代わりに教えてくれたのは――１泊旅行が決まったという知らせである。

担当ゲームマスター

浅野 悠希

マスターコメント

サンプルアクション（1）

プレイヤーの目的・意図

特にサンプルはありません

キャラクターの目的・理由

進展はあるのかな、どうなのかな!?

キャラクターの行動・手段

ガイドに縛られすぎないで楽しんで下さいね！