プログラムの綻びを探るデバッガーがオブジェクトの当たり判定の穴を踏み抜くがごとく、
壬生 由貴奈は道を<外れ落ちた>。
目の覚めるような鮮やかな青空を落ちてゆく。四肢をもぎ取られそうな風圧に耐え、剥離してゆく意識を必死に繋ぎ止める。
なぜ。なんの変哲もないアスファルトを歩んでいたはずだ。雲を貫いて落ち、目に飛び込んでくる寝子島の全景を美しいと思う余裕はない。なぜ。危なげなく地に足つけていたはずが、気が付けば落ちている。
やみくもに手足をかく。なんらかの術を模索する。しかし冷静なつもりでも正常な思考など巡らず、成す術もなくシーサイドタウンの裏路地のアスファルトが近づいてくる。
時速数百キロ、10000メートルの自由落下を終え、由貴奈はコンクリートブロックとキスをした。
「………………」
失墜し肉体も魂も粉々に砕けたものと思いきや、由貴奈は気がつけば奇異なる空間に囚われていた。
黄色い壁。黄色い天井、黄色い床。黄色い廊下が続き、黄色い部屋がいくつも連なる。
壁には規則正しくダマスク模様が並び、途切れることがない。壁の染みになんとはなしに指を触れ、廊下の奥を見据える。
人の気配はまるで感じられず、風の音や水道の音、一切の生活音や環境音は皆無だ。
「まーた妙なことに巻き込まれたみたいだねぇ」
つぶやきも黄色い壁に吸い込まれて消える。
アパートメント。オフィスルーム。そのような作りではあるが、家具や調度品の類はおろか、窓の一つさえない。天井に据えられた、これまた規則的に並ぶ蛍光灯がぼやけた光を灯している程度で、ただひたすらに黄色の壁紙が繰り返されるばかりだ。
人の手による造形、建造物ではあろう。しかし由貴奈の聡明をもってしても、ここがなんのための施設であるか、その意図には塵ほども想像がおよばない。本当に人間の意思が介在して構築されたものかどうか、その確信すらも曖昧だ。
廊下を歩いてみる。時に真っすぐ伸び、時に枝分かれしながら広がる空間はまるで、迷宮のようだ。
歩けど歩けど景色は変わらず、黄色い壁が連なるばかり。どこまで続いているのか。終わりはあるのか。
「!」
唐突に由貴奈の目に飛び込んできたなにかがかすかな期待をあおり、駆け出した。
前方、廊下の曲がり角に人影が座り込み、壁にもたれている。
「……不気味」
曲がり角と思ったら、柱だ。空間に延々と、直径2メートルほどの柱だけが並び立っている。
背筋に冷たい気配が走った。人影には中身が無かった。
いわば宇宙服のような、明滅するランプや装置がくっついた堅牢そうな防護スーツだ。脱ぎ捨てられたばかりなのか、内側にはぬくもりが残っている。
脱ぎ捨てた理由は、頭部のバイザー部に開いた大穴と、背中の鋭いなにかに引き裂かれたような痕跡だろう。
柱の裏におびただしく散った赤黒い染みを発見するに至り、努めて維持してきた平常心が揺らぎ始める。
スーツの主の断末魔か、あるいは壊れた拡声器ががなり立てる歪なプロパガンダか。それとも意味などなく言語ですらないのか。突如として多重に軋みを上げる爆音がにじり寄り、由貴奈の不快をあおる。
柱の向こうに垣間見える何者かの影は巨大で、細く捻じくれていて、奇怪に揺れていた。
「なんか……ヤバそうだねぇ」
ポーチから素早く取り出した三種のクッキーを口へ放り込み、かみ砕く。
砕けたスーツの残骸の金属片を取り上げ、掲げた。指先よ震えるなと、か細く念じながら。
墨谷幽です。よろしくお願いいたします~。
暑いのでホラー風味なシナリオでもいかが。
壬生 由貴奈さん、ガイドにご登場いただきましてありがとうございます。
ご参加いただける際は、どうぞガイドのイメージにはこだわらず、ご自由にアクションをお書きくださいませ~。
海外SNSで人気が爆発し定着した、ネット発の都市伝説『The Backrooms』。ご存じでしょうか。
興味があればwikiや動画など検索して覗いてみると、当シナリオもより楽しめるかもしれません。
もちろん、知らなくてもまったく問題ありません。
いっちょ恐怖体験してみっか、くらいの感じでお気軽にどうぞ~。
このシナリオの概要
プログラムのバグのように、なんの変哲もない地面の裏側に吸い込まれたり、
壁の中にめり込んだり、空中の見えない階段を登ったり、一瞬にして別のどこかへ飛ばされたり。
理不尽かつ道理に合わないきっかけで<外れ落ち(noclip)>、
あなたは無限に広がる『The Backrooms』へ迷い込んでしまいました。
Backroomsは黄色い壁、天井、床が延々と続く謎の空間です。『際の空間』とも呼ばれます。
どこまで行っても終わりはなく、真っすぐな廊下が伸びていたり、
曲がりくねっていたり、小部屋があったり、そこから別の部屋へ繋がっていたり、
単調かつ狂気を招く迷宮の様相を呈しています。
さらにどんどんと先に進んでいけば、黄色い空間はBackroomsを構成する、
一つの要素に過ぎないことに気づくかもしれません。
Backroomsは無数の階層によって成り立ち、各階層は多様性に満ちています。
多くは人工的な構造物に見え、時おり自然物が存在し、低確率で何もない深淵(void)へ落ちることもあります。
階層同士の繋がりはひどく曖昧であり、明確な出入り口や移動を認識することは稀です。
Backroomsの階層に共通しているのは、己を除く人の気配を感じられないこと。
そしてあなたの命を脅かす、なんらかの現象、物体が存在するということ。
かつてこの空間へ迷い込んだ人々の中には、Backroomsを調査したり、
何らかの形で活用しようとした者もいたようですが、おそらく、試みの多くは成功しなかったようです。
あなたが空間をさまよううち、そうした痕跡に出会うこともあるかもしれません。
この謎めいた空間で、あなたは高い確率で死んでしまうでしょう。
あるいは死なないまでも永久をここで過ごすことになったり、
ごく稀に生き延びて帰還することもある……かもしれません。
いずれにしろドラマチックな物語には期待できず、
多くは理不尽で奇妙な結末となることでしょう。
アクションでできること
アクションに多くの文字数を費やす必要はありません。
プレイヤーの皆さんができることは、以下の数点です。
・頭に浮かんだ3ケタの番号を、
【NK-○○○】
の書式でアクションに書く
例)NK-280
NK-648
・恐怖に直面したとき、PCさんが取りうるリアクションや傾向を挙げる
例)「ひやーっ!」と叫んで一目散に逃げだす
負けてなるかと立ち向かう。結果ひどい目にあってぼろぼろに
・指定イラストを設定する
・祈る
あとはマスターがイメージをふくらませて、リアクションを執筆します。
公開されるまで、どきどきしながらお待ちください。
NPCについて
NPCは、登録済みのキャラクターでしたら誰でも登場可能です。
Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
なおNPCも死にます。あらかじめご了承ください。
以上になります。
それでは、ご参加お待ちしております~!