ふわふわと宙を舞う黒い霧――【魔階72柱の一人・ロマリス】は前回の戦いで受けたダメージの回復を待っていた。
せっかくゲットした死体も破壊され、活動エネルギーである魔階の物質【ラーシュ】の回収も失敗。完全に振出しに戻ってしまったのだ。
「あの人間共……あたしの身体をバラバラにしてくれちゃってっ! 全くもう、また最初から集め直しじゃん!」
いらいらしながらロマリスが浮遊していると、寝子島スタジアムの裏手。通りからは見えない位置で数人の男性に囲まれている女性を発見する。
女性は言い寄られているようだが、まんざらでもなさそうな様子で男たちを値踏みするような視線を投げていた。
「あはははっ良い身体はっけーん。そいじゃ、エサもある事だしぃ使わせてもらいますかぁ」
ロマリスは女性目掛けて急降下すると、その身体に纏わりつく。ぎゅううっと彼女の首が締まった。びくんっと女性の身体が震える。
「あ、ぎっ、ぐふぅうう!?」
「ごめんねぇ? 魂あると邪魔だからさ、入れ物だけほしーの。あたしは」
しばらくもがいていた女性だったが、そのうち手がだらりと下がる。絶命したのを確認すると、ロマリスはするりと女性の体の中に入った。
びくびくっと痙攣してから、女性は目を開ける……すると人の物ではない、金色の瞳が輝いていた。
「さぁて……生身の身体もいただいたことだしぃ、次はお食事よね? んふふ、ほらぁこの身体ぁ……味わいたいんでしょう?」
ロマリスが服をはだけながら、誘うように腰を振る。男たちはごくりと生唾を飲み込んだ。
「纏めて相手してあげるから、はやく……もう我慢できないの」
彼女が手招きすると、男たちは我先にとロマリスに群がった。
◆
「さて、お腹もいっぱいになったことだし、いひひ……できるかなぁっと」
物言わぬ死体となった男たちを重ねた上に座るロマリスは背中をぐっと伸ばす。すると背中から悪魔の翼が現れた。髪色も茶色から、次第に翡翠色へと変わり所々に赤いメッシュが入った。胸サイズは少々小さくなり、手ごろなサイズ感へと収まった。顔つきも美人系から可愛らしいロリ少女へと形が変貌する。
腕をぐっと前に伸ばすと、片腕だけ翡翠色の装甲を纏った悪魔の腕へと変わった。同じく翡翠色の爪をロマリスは眺める。
「腕は片方だけかぁ……ま、これだけの生気じゃしかたないよね。羽と姿が再現できただけでもいい方かなぁ」
スタジアムから歓声が響く。どうやら何かの試合をしているようだ。ロマリスにはそれが何か、理解できてはいない。
羽を広げてふわっと浮かび上がると、ロマリスはざばさと空へと舞い上がった。高度を上げ、眼下に広がるスタジアムを見下ろす。
「丸い玉を追いかけてんの? なんで? ま、いっかぁ……人がいっぱい集まってるってことはぁ、ご飯がいっぱいってことだもの」
にやっと笑ったロマリスは腕を大きく掲げると大量のコインを放出する。金色に輝くソレはスタジアムを囲うように広がっていき、瞬く間にコインのドームでスタジアム全体を覆ってしまった。
急な出来事でざわめく人々の中、スタジアムの中心にロマリスは降り立つ。コインを新たに生み出し、コインで人型の下僕【コインシモベ】を何体も作り出す。
「あはははは、いっぱいいるじゃん! これだけでお腹いっぱいになっちゃいそう! いいね、いいねぇ……あはは、やっぱ魔階出てきて正解だわ、あっちよりもこんな手軽に力を上昇させられるなんてね!」
「君、何やってるんだ! ここはコスプレ会場じゃないぞ!」
警備員らしき人物がロマリスへと駆け寄って彼女の腕をがしっと掴む。ぎろりとロマリスは警備員を睨みつける。
「あのさぁ、めっちゃ痛いんですけどぉ? 人間風情が……勝手に触れるなぁッ!」
ロマリスは警備員の頭を掴むとそのままぐしゃりと潰す。それを見ていた会場にどよめきと、悲鳴が響き渡った。ここにきて、人々はやっと逃げようと席を立った。だがもう遅い。出入口は彼女の作り出したコインの壁で塞がれており、突破は不可能だった。
「いやだぁぁあ、死にたくない!」
「だ、誰かっ! 助けてよ! お願い、誰かぁぁああ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図と化すスタジアムにロマリスは満足そうな笑顔を浮かべた。
ばさっと飛び下がると適当なスタジアムの座席に降り立つ。逃げる男性の一人を押し倒すとその衣服をびりびりに裂く。
「あはは、めっちゃいい顔してんじゃん? そういうの、そそっちゃう……それじゃあ、楽しもっか。あ、お前たちも好きに食らっていいよ、女はいらないから好きにして」
ロマリスの言葉に従うように異界の紙幣で身体を更生された【札束シモベ】が現れ、逃げ惑う女性たちを襲って生気を奪っていく。
それからしばらく……ロマリスと札束シモベによって人々の生気が奪われ続けた。奪い取られた人間は絶命し、その場に転がされる。
「あっはっはっは……まさに入れ食いって奴ぅ? これなら邪魔も入らないしぃ、めちゃイイじゃん! 力も溜まるし……あっは、このまま完全顕現とかも夢じゃないかも?」
そういうロマリスの手足はそれぞれ翡翠色の密着型装甲で覆われている。身体の各部位も密着装甲が多い、守備力も上がっているようだ。
翡翠色の背部装甲を展開し、それぞれを変形させて巨大な砲身を作り出すと、ロマリスは適当なスタジアムへと銃口を向けた。
「それじゃあ、試し撃ちといこうかなぁ? いひひ、それじゃあ……ばいばぁーい」
緑色の粒子が急速に銃口へと収束し、一瞬輝くと翡翠色の極太ビームが放たれた。それはまっすぐに飛び、スタジアムの一部分を消し飛ばす。勿論、そこにいた人々諸共。
「あっは、あっちほどの威力はないし連発無理だけどぉ……十分威力出るじゃん! いいね、もっと生気集めちゃおっかぁ! あは、あはははははッ!」
「そこまでだっ! お前の好きにはさせないっ! とうっ!」
スタジアムの天井をぶち破り、白いスーツ姿の男――ヒーローストレイト……【
風雲児 轟】と刀を携えた【
御剣 刀】の二名が現れた。
轟の拳が着地と同時に地面を揺るがし、コインシモベを吹き飛ばす。反撃とばかりにロマリスの飛ばした小型端末から放たれた複数の細いビームを刀で弾き返しながら接近、御剣が横薙ぎに刀を一閃。咄嗟に作り出したコインの盾と刃が削り、火花を散らした。
ロマリスは空に浮かび上がると、苦々しい顔を浮かべた。
「ちいっ、、また邪魔するの!? あんたらこの島の異能者どもがぁっ!」
「ああ、勿論だ。この島の平和を脅かさせるわけにはいかない」
「その通りだっ! 俺たちがいる限り、お前の悪事は打ち砕いて見せるっ!」
戦闘態勢を取る御剣と轟を前にぎりっと歯ぎしりをしていたロマリスだったが……あることに気がつき、にやりと口の端を歪ませた。
「あんたらはヒーローってわけだ……じゃあさ、これだったらどう?」
ロマリスはコインシモベに無作為に選んだスタジアムの人間を持ち上げさせる。首をぐっと締め上げられ、男性は苦しそうに呻いていた。
「そっちが反撃する度、あたしらは一人、人間を殺す……気にしなければあたしを倒せるでしょうね。でも、あんたらはヒーローなんでしょ? 人間、見捨てていいのかなぁ?」
「ちっ! きたねぇぞっ! 正々堂々勝負しやがれっ!」
轟の慟哭を嘲笑うようにロマリスは彼に急接近すると力任せに殴り飛ばす。吹き飛びながらも轟は体勢を整え、辛うじて着地する。
「……風雲児ッ!」
「正々堂々と勝負? そんな真似してたら負けるじゃん? あっははは、ねぇ、刀持ったお兄さんも……遊んでくれるんでしょ? ほら、ほらぁあ!」
次々と繰り出されるロマリスの鋭い爪による連撃を辛うじて御剣は刀でいなしていく。だがビームも織り交ぜられたその攻撃は次第に彼の身体を傷つけ、出血させていった。
「あははは! すごいっすごいっ! 人間の癖にめっちゃやるじゃん! もっと遊ぼ? あたし、楽しくなってきちゃった!」
一方、スタジアムの外では悪魔の少女【ダスト】と猫のテオだった。
「ここらの空間はどうにかした、後はそっちの仕事だ。ちーあの奴は異界周りで動けないからな」
「お任せくださいよぉ。お店を黙認してもらってるわけですしぃ、こういうお仕事はやらないとですからぁ」
頼むぞ、とだけ言うとテオは姿を眩ませた。
「そっけないですねぇ。ま、いいです……さて、お仕事と行きましょうかねぇ」
悪魔の羽をばさっと広げ、ダストは集まった寝子島の仲間たちと共にスタジアムに挑むのだった。
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
突如として占拠された寝子島スタジアムでの凶行……ロマリスの企みは止められるのでしょうか。
御剣さん、風雲児さん、ガイド登場ありがとうございました。勿論、ガイド以外のアクションもOKです。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。
※なお、このシナリオではろっこんが強力に描写される場合があります。
※アブナイ目にあうのはアブナイルートを選択した希望者のみです。
希望がない限り、アブナイ目にあうことはありませんのでご安心ください。
◆勝利条件
ロマリスの撃退
※勝利条件を満たせば、スタジアムの一般人の記憶は曖昧になり、
恐ろしい体験も忘れてしまうだろう。
◆敗北条件
スタジアムの人間の全滅
◆敵の動向
ロマリスはスタジアムに現れた寝子島の人間と戦闘中。
楽しみで人を殺すような性格なので、説得は不可能。
スタジアムの人間を人質に取っている状態の為、それをどうにかしない限り、反撃すれば人質が一人ずつ殺されてしまう。
それぞれのスタジアムの席にはコインシモベ、札束シモベが多数配置され、人々から生気を奪い続けている。
◆予想される敵
ロマリス
:魔階からやってきた72柱の悪魔の少女。
コインや金品を操る能力を持っている。
人間の生気を吸収した結果により、力がだいぶ戻ったらしく翡翠色の装甲が各部位を覆っているようだ。
背中の装甲を展開し、巨大な砲身を作成、チャージ後一気に極太ビームを放つ大技を持っている。なお連発はできない模様。
その他、小型端末を飛ばしビームによる多方面からの攻撃など遠距離系の技が多く、弾幕によって近づかせない戦い方を特徴とする。
接近戦は苦手だが、それでも一般の男性よりは圧倒的に力が強い。
コインシモベ
:力を増したロマリスの影響でより強く作り出されたシモベ。身体に翡翠色のラインが走っている。
衝撃にかなり強くなっており、簡単には崩れない。
動きは遅いが怪力でパワーに頼った戦いを得意とする。
なお、頭が悪いので連携などは苦手。
札束シモベ
:力を増したシモベ。紙幣で作られている為、燃えやすいのは相変わらずだが
水の魔法を扱うようになっており、簡単な火なら自ら鎮火する。
触れた相手から生気を奪うのは変わらず、新たな能力として飛ばした紙幣を張り付かせ、そこから遠隔で生気吸収を行えるようになっている。
吸収した力はその都度、ロマリスに送る為に彼らが存在する限りロマリスのエネルギーが尽きることはない。
◆予想されるルート
1:ロマリスの攻撃を耐え抜く
同行者:ダスト
他のメンバーがコインシモベ、札束シモベに囚われた人々を救いだすまでロマリスの猛攻を耐え抜くルート。
反撃してしまえばロマリスによって反撃の回数分だけ人質が死亡する。
2:コインシモベを秘密裏に倒す
ロマリスが戦闘に夢中になっている間にコインシモベを討伐し、人々を救いだすルート。
何らかの方法でロマリスの視界を遮断すれば、倒しやすくなる可能性がある。
3:札束シモベを引き付ける【アブナイルート】
女性に引き寄せられる特性を利用して札束シモベを引き付けるルート。
触れられると生気を奪われるので注意が必要。
◆支給される装備
ダストから貸与される装備。
全て彼女のお手製であり、中々に癖がある。
A:電磁式ブレード
電磁力を利用した動力により、切れ味を増大させた機械式の刀。
トリガーを引くことで電磁力の出力を調整、斬れ味を変化させる。
フルパワーでの稼働させると装甲が展開、排熱しながら30秒間切れ味が最大まで跳ね上がる。
だがフルパワー稼働時の負荷は人体には凄まじく、しばらく腕が使い物にならないだろう。
B:ディフェンドシールド
小型のシールドが複数連結された大型のシールド。
持ち主の精神力に応じて、硬度が上昇する精神感応金属【ラシュメタル】を使用している。
強い精神力の持ち主が使用すれば、シールドを展開、ビームのバリアフィールドを展開して広範囲を守る芸当も可能となる。
反面、精神への負荷が強く、長時間の使用は想定されていない。
C:ラシュ・ハードガン
ダストが作り出す謎の粒子【ラーシュ】を用いた小型のハンドガン。
エネルギーとして光圧縮したラーシュを撃ちだす為、鋼の鋼板すら撃ち抜く威力を誇る。
反動は無いに等しく、操作に不慣れな者でもアシスト機能により狙いが付けやすい。
D:転換カプセル
飲むことで一日だけ、男性が女性化することができる不思議なカプセル。
ひとつで貧乳女子、ふたつで巨乳女子に変化する。
女性が飲むと大人の場合、高校時代まで若返る。若い場合は上記の乳サイズぐらいしか変化はない。
副次効果として、身体能力が二倍になる。
◆登場キャラ
ダスト
:かつて寝子島の民に戦いを挑んだ悪魔の少女。現在では懲らしめられ、監視の下、平和に暮らしている。
シーサイドタウンでマッサージ店を営んでおり、人気は上々。
仲間たちの協力で作り上げた新しいボディを得て、より悪魔らしい彼女の姿となった。その評判も良く、客足は増えた模様。
戦闘スタイルは紫色の大剣を振り回すパワースタイルと魔法を混ぜたオールラウンダー。
攻撃を一度受けると、回数限定つきだがコピーしてストックする能力を持つ。
元々不定形の為、変身能力があり自在に姿すらコピーして見せることも。