早朝のキャットロードに人通りは少ないが、喧噪とまるで無縁なわけではない。アーケードに軒を連ねる各店舗は仕込みや仕入れに忙しく、慌ただしく開店の準備に追われている。騒がしく、活気に満ちあふれ、寝子島に根差す者なら誰しも愛おしく感じるだろう、いつもの光景だ。
そんな中を
春名 あきらは、さわやかな朝の空気を揚げ物のにおいを鼻でいっぱいに吸い込みながら歩く。
「今日も忙しそうやなー。お店やるんも大変やんなあ」
「あらお嬢ちゃん、朝から元気で可愛いわね! 可愛いから、おばちゃんとこのコロッケ、一個おごったげる。ほれ、食べていきなさいな」
「わ、ええの!? おおきになーおばちゃん!」
「それ食べて、今日も一日頑張るのよー♪」
商店街では時おり、こんな光景も見られた。人と人との距離が近い寝子島だから、親切や施しやご馳走することにためらいが無いのだ。
「へへ、ラッキー。これで午前中は乗り切れそうやな!」
さっそく揚げたてアツアツコロッケをほおばり、なんとも幸せそうに微笑んだ。
放課後。
椎井 莉鳥はアーケード下のベンチにひとり腰かけ、ふう、と深く息をついた。手にはまだあたたかいコーヒー。
足りなくなった文具類をキャットロードの一角にある店で買いそろえ、すぐにも帰宅して受験勉強へ取り組むはずが、なんとはなしにひとごこち。
まだ黄昏れには早く、行き交う人々は学生かお年寄りくらいのものだが、思いのほかカップルが多い。手を繋ぎ、ひとつのイヤホンを片方ずつで聴き、ドリンクやらクレープやらをシェアする。
ぼんやりとそんなシーンを眺めていると、莉鳥の脳裏に浮かぶ顔がある。
遠くに行ってしまった彼も、かつてはいつだって手の届くところにいたものだ。今では莉鳥が手を伸ばしても、つかまえるのは空気だけ。
ぽっかりとあいた穴を埋めるかのように部活動へ打ち込んだが、それも先日引退し区切りをつけたばかりだ。
今は勉学が親しき友、といったところだろうか。
(……もう、忘れるべきね)
振り払うように首を振り、コーヒーをすする。
人の流れは、いつまでも途切れることはない。
深夜にこんなところを歩くのは自分くらいのものだろうと、
三条 神無は思っていたのだが。
「人気のないアーケードに、珍しい。先客かしら」
日が落ちてからの放浪は神無の専売特許ではないらしい。いつもは桜台墓地などへ向かうのだが、今夜は何か予感があり、深夜のキャットロードへ赴いてみた。
良きにしろ悪しきにしろ、どうやら予感は当たったらしい。
「こ~んな時間に、悪い子だなぁ。ま、ちょうど良かったけどね~」
黒白 滴が青く瞳をぎらつかせ、神無を見据えていた。
彼女を囲むように、やはり青い輝きを内包する奇怪な闇がとぐろを巻いている。
「この力、使えば使うほど馴染んできてねえ。楽しくなってきちゃった。実験台になってくれないかなぁ?」
「お断り……といっても、聞いてはもらえなさそうね」
日が昇って沈むまで、この道をどれだけの人々が往来するのだろう。
並ぶ店々に、コロッケの一つに、少し錆びたベンチに、踏みしめたタイルの一枚に、どれほどの想いが去来するだろう。
日は昇り、月が満ちる。
墨谷幽です。よろしくお願いいたします~。
春名 あきらさん、椎井 莉鳥さん、三条 神無さん、ガイドへご登場いただきましてありがとうございます。
ご参加いただける際は、ガイドのイメージによらず、ご自由にアクションをおかけくださいませ~。
このシナリオの概要
シーサイドタウンのアーケード型商店街、キャットロードを舞台にしたフリーシナリオです。
朝方はお店のスタッフさんたちが準備に忙しくしていたり、清廉な朝の空気を感じられるでしょう。
昼間~夕方は活気あふれる商店街で、美味しいものを食べたり、楽しくデートしたり、幅広く楽しめます。
夜は人気が失せ、明かりも落ちた頃、青い闇をまとった黒白 滴が現れます。バトルな予感。
どんなアクションでも大丈夫です。
自由な発想で、お楽しみください。
NPCについて
NPCは、登録済みのキャラクターでしたら誰でも登場可能です。
また、墨谷のシナリオに登場したNPCでしたら、登録・未登録問わず登場OKです。
ただし、不自然でないシチュエーションに限ります。登場が難しい場合もありますので、ご了承ください。
こんなNPCと絡んでみたい、なんてリクエストがありましたら、お気軽にご指定ください。
細かく指定もOKですし、マスターにおまかせもOK。
Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
NPC・Xキャラともに、いつもとは違った肩書きや人物像を指定しても構いません。
以上になります。
それでは、ご参加お待ちしております~!