◆満井家
あちこちからミンミンゼミの鳴き声が聞こえてくる、夏の盛り。
「行ってきます」
「孝明くん、ちょっと待って」
カバンを肩に掛け、靴を履いて玄関から出て行こうとする
長田 孝明を、叔母の満井 香奈枝が呼び止めました。
ドアノブに手を掛けたまま振り返ると、香奈枝がのれんを上げて台所から出てきています。
呼び止めたのは何か用事があるからでしょうに、香奈枝は明らかに言葉を続けるのをためらっています。
心を決めかねているのか、それともよほど言いづらいことなのか……急かさずじっと待っていると、やがて香奈枝は思いきった様子で孝明に告げました。
「夕方、道江さんのお墓参りに行こうと思っているんだけど……孝明くんも、行かない……?」
その名前を聞いた瞬間、孝明の心が凍りついたように香奈枝には見えました。
道江というのは孝明の母親です。6年前、息子の孝明を道連れに無理心中を図り、彼女だけ死亡したという事件がありました。当時の孝明はまだ幼かったのですが、寝ていたとき首を絞められたことを覚えていました。
それを知る香奈枝は今まで誘うことをためらっていたのですが……あれから6年が過ぎて。もうそろそろいいのではないかと考えたのです。
期待の眼差しを向けてくる叔母を見て。
「……わかりました。それまでに帰ります」
孝明はぼそぼそつぶやくと、塾の夏季講習があるから、と家を出ました。
◆雑貨店『memoria』
朝方まで工作室にこもって夏の新作を仕上げていた
中山 喬は、昼過ぎに起きて台所へ向かったところで
密架(ひそか)と出くわし、少し驚きました。
「まだ行ってなかったのか」
「あ、うん。ちょっと忘れ物しちゃって」
これ、とマッチを見せます。
「ねえ。喬も行かない? たかしさんはあなたの伯父――」
「行かねえ」
即答でした。
「ゆうべも話したろ。つーか、毎回言ってんだろ。行きたいならおまえだけで行けよ」
「……そうね。ごめんなさい。
冷蔵庫に冷麺作って入れてあるから。ちゃんと食べなさいね。この前みたいに億劫がって食べなくて倒れたりしたら大変よ」
「ハイハイ」
生返事であくびをかみ殺しながら台所へ向かう喬の背中に、密架は、「じゃあ行くわね。夕方には帰るようにするから、お店番をお願いね」と言い置いて、花束と、線香等の入った小さなバッグを手に、墓参りに出掛けていきました。
◆猫屋敷家
「うあー、もうこんな時間ですー!」
猫屋敷 姫はばたばたと廊下を走ります。
その足音というか振動は、お茶とお茶請けを傍らに、縁側で猫たちと日なたぼっこをしている
猫屋敷 宝の元まで届いていました。
「なんだね、幾つになっても落ち着きのない。少しは年頃の娘らしく、楚楚とした風情で――」
「ねえねえ! 小さな花束がいっぱい入った袋、見なかったですか? 昨日買って、玄関に置いてあったはずなんですが?」
からりと障子戸を開けて、姫が早口でまくしたてます。
全然自分の言葉が耳に入っているふうでない孫の様子に宝はため息をつき、中庭の一角を指さしました。
「昨夜のうちから向こうでバケツに浸けてるよ。暑さに負けて、しおれかかっていたからね」
「あー! ありがとうです!」
中庭に下りて日陰のバケツに向かい、中の花束を袋に移し替えてやはりばたばたと戻ってきた姫の手元をじっと見て、宝は聞きました。
「
それも持って行くのかい?」
それ、というのはもちろん左手に握られたピコピコハンマーです。
祖父の質問に
「もちろんなのです。これは私の正装であり、もう体の一部と言ってもいいのです」
ふんす、と鼻息強めで答えると、縁側や中庭にいて、じーっと自分を見つめてくる猫たちに向け、
「任せるのです! おまえたちの分も、しっかりお参りしてくるのです!」
と、にっこり笑って言いました。
こんにちは。またははじめまして。寺岡といいます。
猫屋敷 姫さん、猫屋敷 宝さん、ガイドにご登場いただきありがとうございます。
ご参加いただける場合、ガイドのイメージにかかわらず、自由なアクションをお書きください。
今回のシナリオは
「お墓参り」
がテーマのフリーシナリオです。
お墓参りって、今を生きる自分へとつながる連綿とした歴史を感じる行為だなあ、と思うわけです。
話でしか聞いたことのない先祖や、幼いときに亡くなった祖父母、最近亡くなった家族。彼らについて話したり、考えたりすることで、皆さんのキャラクターの人生を少しでも厚く、深みを増すことができたらと思いました。
もちろん幽霊の方も、自分が亡くなったときの状況や思い残したことなどを振り返ることができると思います。
また、ガイド本文ではそれぞれお墓参りに行く姿を書いていますが、必ずしもお墓へ行かなくても構いません。
例えば、店番をしている喬の元へ行き、お墓参りから連想される話題で話してもいいのです。
お墓参りに向かう道中の会話だったり、帰り道の話でもいいと思います。
婚約者について行って、ここのお墓に自分もこの人と一緒に入るんだなあ、と思いを馳せたりするのとかもありかも。
行く先の参考として、以下のような場所があります。
◆桜台墓地
シーサイドタウンの北側(地図上のH-7)にあります。
古くからある墓地で、墓石は新旧いろいろ。一部の墓は崩れたりしていて夜はうす気味悪いものの、昼間は日当たりの良い墓地です。
最近管理人が変わったのか、垣根用植物や草むしりなどの手入れも行き届いています。
◆動物霊園
旧市街にある、猫の島である寝子島に古くからある動物霊園です。
寝子島神社の耳福池のそば、鎮守の森に隣接した静かな場所です。
この他にも、(親の実家等の関係で)島外にある墓地・霊園でもOKです。
◆NPCについて
登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
Xイラストのキャラクターを描写する場合
PCとXキャラの2人あわせて「1人分」の描写なので、無関係の行動などはお控えください。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
以上になります。
それでは、ご参加お待ちしております。