一人の男がいる。ほどなく破滅してゆく男だ。名も無き男。少なくとも君や我々が知る必要のない名の男だ。
男は郊外で建売住宅を客に売っている。家族は妻と息子が一人、まだ幼い少年だ。太陽のように快活で美神のように麗しいと評判の妻、その遺伝子を受け継ぎどこか耽美をたたえる美少年は多才にも恵まれた。亀のごとく堅実なタチの男の人生も大いに華やぐ。
幸せな家庭か? 誰しも疑う余地はないだろう。彼は幸福か? 心は望外の喜びに打ち震えているだろう。
間違いではないが、彼はある夜ここへやってきた。一介のサラリーマンが何食わぬ顔で訪れてはやみくもに拳を振るい、顔へふたつの青タンと肋骨にヒビを刻まれながら、配管工の男の鼻骨をへし折った。
彼は普通の男だ。今もってそうだ。我々が君へ伝えたいのはそこだ。
そら、確かめるといい。今夜も彼は翼広げ羽ばたく。言うまでもないがそれは純白にして清廉な白鳥の翼ではないし、雄々しく広げ大空を支配する大鷲の翼でもない。黒ずみ粘りつくヘドロを振り払いながら鋭く飛び上がる悪魔のそれだ。
「おじさん、また来たんですか? そろそろ折るところが無くなっちゃいそうですけど」
「仕方ないさ。彼だって理解しているはずだよ」
彼はついている。今夜の相手はかの女神たちだ。
卵城 秘月と
吉住 志桜里の二人が、彼の妻などが生涯与えてくれないものを与えてくれるだろう、荒々しくも甘美なやり方で。
「くすぶる熾火の暗い熱さだけが、胸の奥底に欠けた穴を埋めてくれる。気づいてしまったらもう求めずにはいられない、私たちのようにね」
「では存分にくれてやりますか。あなたが売り渡した魂の最後の一片までもすり潰し、血も涙もまとめて飲み下しましょう」
青タン顔や包帯まみれで家が売れると、彼も本気で思ったわけではあるまい。彼が笑顔のまま発する「大丈夫」の響きの空しさをこそ、我々は好もしく思おう。
君は、どうだろうか。
なぜそこまで、と問うだろうか? 妻も息子も愛想を尽かして去り、上司には怒鳴られ疎まれ、がらんどうと化した家で味のしない豆スープをすする。致命的な一打に臓腑を痛め、帰り道の路地裏に昏倒したのは一度や二度ではない。それでいてなぜ彼は夜毎ここへ足を運ぶのだろうか、と?
愚問かな。ここへ来る者は誰もがそう、卵城や吉住が与えてくれるようなものを求めている。
そういう者が、絶えずやってくるのだから。
ようこそファイトクラブへ。以前は設立者が好んで親しんだ絵本作家になぞらえた、後ろ暗くもしゃれた名前などあったはずだが、今ではただそう呼ばれている。
さあ、堪能したまえ。暗澹たる世がもたらすくびきを破壊し、秘められた自己の全てを解放する時だ。
人を捨て、財を捨て、人生を捨てて欲した熱も愉悦も狂乱も、ここにある。
墨谷幽です。よろしくお願いいたします~。
卵城 秘月さん、ダークキャンペーンのご当選おめでとうございます!
今回はイラストやそのタイトルからイメージをふくらませ、このようなガイドにしてみました。
楽しんでいただけましたら幸いです。
また、吉住 志桜里さんにもガイドへご登場いただきました。
こちらもご参加いただける際は、自由なアクションでどうぞ!
このシナリオの概要
地下格闘場を中心に、そこへ集う人々、彼らと関わる家族や友人などの目線から、
バトルシーンや、あるいは彼らのたどる不条理な顛末を描きます。
とある廃倉庫で、夜ごとに開催される格闘クラブ。
日々のストレスを発散する場を求めていたり、幸福な人生にも満たされないなにかを感じていたり、
どこか、なにかが鬱屈した人々が集ってはルール無用の喧嘩に明け暮れる、非合法な格闘場です。
勝利したところで賞金が得られるわけでもなく、アスリートや格闘家のように名誉を得られるわけでもありません。
にもかかわらず、参加者の中には、非日常がもたらす特異な刺激の虜となり、
身体を壊してぼろぼろになっても、身を持ち崩してでも通い続ける者が少なくありません。
心置きなく暴力を振るう快楽、感じる痛みには、どうやら中毒性があるようです。
リアクションでは、
・格闘場でのハードなバトルシーン
・格闘場に関わることで身を持ち崩していく、不条理な悲劇
・知人や家族が格闘場に通い、壊れていくのを止められない無力感
などを描きます。
寝子島が舞台ではなく、IFのお話になります。
普段とは違った立場や人格で参加されるのも良いかもしれません。
自由な発想でお楽しみください。
アクションでできること
格闘クラブの舞台となる廃倉庫には、リングなどはありません。
硬いコンクリートの床に、参加者や観覧者が円となって対戦者を囲います。
ルールは特にありませんが、逃げ回ったり、露骨な急所狙いや卑劣な手を使いすぎると、
周囲からはブーイングの雨が降りそそぎます。
盛り上がらない勝負を繰り返す者には、主催者によってなんらかのペナルティが課される、
という噂もあります。
武器の使用、タッグマッチや○○人抜きなどの変則的ルールは、
対戦者の同意や観覧者の盛り上がり具合、主催者の独断などで可否が決定されます。
なおろっこんは、主催者が良しと言えば、自由に使用して構いません。
◆あなたはどんな人?
寝子島で暮らしているような、いつもと変わらないあなたなのか、
あるいはIFの世界で格闘クラブに通う似て非なる人物なのか、
演じたい人物像があれば教えてください。
特に指定がなければ、プロフィールを参照します。
まったくの別人を演じるのもアリ。
◆どんなシーンを描写したい?
対戦者と熱いバトルの模様を詳細に描写するもよし。
あるいはその闘いにおいて負った傷に端を発し、どんどん落ちぶれてゆく様を描くもよし。
そんな人物と近しい誰かとして、辛抱強く見守るも、最終的には命を落とすのを看取るシーンなどもよし。
おおむねあまり救いのない不条理な結末が描かれますが、希望があればハッピーエンドでもOKです。
NPCについて
NPCは、登録済みのキャラクターでしたら誰でも登場可能です。
また、墨谷のシナリオに登場したNPCでしたら、登録・未登録問わず登場OKです。
ただし、登場が難しい場合もありますので、あらかじめご了承ください。
Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
NPC・Xキャラともに、いつもとは違った肩書きや人物像を指定しても構いません。
以上になります。
それでは、ご参加をお待ちしております~!