星幽塔の第二階層に
ペルラ・サナーレの姿があった。羽ばたくように羽耳を動かす。軽やかな足取りで白いワンピースのスカートは柔らかく広がった。
幾つもの水路橋を渡る。気分は上々。晴れ渡った空を眺めると笑みが零れた。
廃墟となって久しい都市を横切る。現れた木々の中に分け入ると鼻をひくひくさせた。
「温泉の匂いがします」
歩く速度が上がった。その矢先、大きな一歩が地面を突き抜ける。声を上げる間もなく、見えない落とし穴に吸い込まれていった。
ペルラは木々に囲まれた薄暗いところで立ち尽くす。青い瞳は周囲を窺う。
「落ちたと思ったのですが……」
代わり映えしない光景に小首を傾げる。
少しの間で冷静になれたのか。大きく息を吸った。
「温泉の匂いです」
明るい表情を浮かべ、一方に向かって力強く歩き出す。
正面に光が滲む。木々の終わりが見えてきた。
笑顔で踏み込んだ瞬間、白い湯気に全身を包まれる。目の前には赤い池のようなものがあった。
「……どのように形容すればいいのでしょう」
見た目は血の池地獄。ペルラは傾いだ看板に近づく。木製で表面はかなり汚れていた。掌で擦ると掠れた文字が部分的に現れた。
「霊界温泉……鉄泉、心を……変化……」
それ以上は顔を近づけても読み取れなかった。当初の目的を達成したこともあり、すぐに笑顔となった。手早く衣服を脱ぎ、適当な枝に引っ掛けた。
いそいそと温泉の縁にしゃがみ、指先を入れて温度を確かめる。その状態で円を描くように動かしてみた。
「良い湯加減です」
掌の掛かり湯を済ませてそろりと入る。肩まで浸かって大きく息を吐いた。縁の部分を枕代わりにして白く煙る空を見やる。
「身体の芯まで温まります」
掌に赤い湯を掬い、顔に掛けた。何度か繰り返していると異変が生じた。頭が勝手に持ち上がる。
誰かに押されたと思ったのか。不思議そうな顔で後ろを振り返る。取り巻く木々があるだけで人影はなかった。
ペルラは立ち上がる。周囲を見ながら温泉を出て、ようやく気付いた。両足が猛禽類のような形状に変化していた。
しゃがんだ状態で見詰めても変わらない。鋭い鉤爪は地面に食い込んでいる。
「これが私の姿?」
後頭部に掛けて三対の翼が生えている。手首や足首には拘束具のような物が嵌められていた。ほとんど重さは感じず、自由に動かすことが出来た。
「珍しい効能ですね」
何とも言えない表情でペルラは三対の翼をゆっくりと上下させた。
ペルラ・サナーレ様、ダークキャンペーンのご当選、おめでとうございます!
ダークなイラストから想像を膨らませた本シナリオは、何故か真逆のほんわかした内容に仕上がりました。
シナリオガイドに縛られず、自由にアクションを綴ってください。
詳細を以下に記します。アクションの参考にしてください。
∞§∞ 今回の舞台 ∞§∞
目に見えない落とし穴の発生(星幽塔、寝子島など)によって霊界に飛ばされる。
霊界の正確な位置は不明。木々に覆われた場所で温泉が湧いている。管理者はいない為、誰でも自由に利用できる。
隠れた名湯として霊界では知られているとか(地元住民や野生動物の有無はアクション次第)。
∞§∞ 血の池地獄 ∞§∞
鉄分を多く含んだ鉄泉。赤い見た目で血の池地獄と呼ばれている。
近くにある看板には簡単な説明と注意が記されていた。風化が激しく、今では解読不能となっている。
看板の内容
『霊界温泉、通称、血の池地獄は鉄分を多く含んだ鉄泉になります。
疲労回復などの効能の他に心を反映した姿に変化することがあります(アクション次第)。
個人差はありますが短い時間の為、翼が生えたとしても大空を飛行する等の危険な行為はお控えください』
∞§∞ 帰還の方法 ∞§∞
温泉による変化は短く、元の姿に戻る頃には自動で送り帰される(場所や方法はアクション次第)。
説明は以上になります。
温泉の効果で秘められた姿になることができます。
心の奥底に押し込めた姿となって一波乱、なんてことも可能です。
懐の深い霊界で思う存分、暴れてください。