浅い水槽の中、緋と黒の金魚がひらひらと泳いでいる。
「よーし、がんばりますよー!」
気合十分、輪っかに薄い和紙を張っただけのポイをそーっと水に差し入れて黒出目金をすくいあげ、
「やった!」
水に浮かぶお椀に一匹入れて喜んだのも束の間、一匹捕まえただけで紙はぼろぼろに破けてしまった。
「ああ、破れちゃいました……」
空色の瞳に涙を浮かべて破けたポイを見つめる水色に白猫が遊ぶ柄の浴衣姿の
リリエル・エーテライトの隣、
「まっかせて、リリエルのカタキは討ってあげるんだから!」
黄色い浴衣に花の簪姿の
メリィ・ランページが天真爛漫に腕まくりをする。
「がんばって、メリィちゃん!」
大好きな親友の声援を受けて、メリィは琥珀色の猫目をきらきらと輝かせた。
金魚すくいの屋台ではしゃぐふたりを見守るのは、寝子島神社の鳥居の両脇に立てかけられた大きな笹。梅雨明け間近の晴れた空を背にさらさらと涼しい音を立てて揺れる枝には、色とりどりの短冊がたくさんたくさん飾られている。
「そうだ、メリィちゃん! あとで短冊も書きましょう」
「たんざく?」
「お願いごとを書くんだそうです。笹の葉に結ぶとコンペイトウも貰えるそうですよ」
「コンペイトウ? なにそれ面白そう!」
金魚すくいにわたあめ、たこ焼き焼きそば、参道にずらりと並ぶお馴染みの屋台グルメに始まり、参道商店街には和菓子に洋菓子、雑貨に古本まで、たくさんの屋台が軒を連ねている。
いつにも増して楽しい参道商店街から寝子島神社までの通りを歩くのは、華やかで涼し気な浴衣を纏ったたくさんの人々。
今日はお祭り、七夕ゆかた祭り──
☆★☆★☆★☆
薄墨の雲の縁を茜の色が縁どっている。
夕暮れに染まりゆく寝子温泉の路地を彩るのは、温泉街の女将たちが手作りした和紙張りの灯籠や竹を切り出して作った素朴な蝋燭立て。
ゆらゆらと揺れる炎に照らし出される温泉街を歩くのは、街の入口で配られた提灯を手にした浴衣姿の人々。
雪色の髪にも珊瑚色の瞳にも、耳朶をいくつも飾るピアスにも揺らぐ炎を映し、
如月 蘇芳は黄昏の温泉街をひとり巡る。
(……悪くないね)
寂れているとまではいかないものの、昔からある古い温泉街のメイン通りはある程度に賑わいがあれど、ひとつ路地に入れば意外と静かだ。
湯煙漂う入り組んだ路地にもぽつりぽつりと竹灯籠が置かれていて、古びた民宿や湯治客目当ての居酒屋を照らし出している。
(何だったかな)
提灯の火に影を濃くする電柱の影、人ならぬものが映り込んでも然程気に留めた素振りも見せず、蘇芳が考えるのは街の入口で提灯を渡して回っていた浴衣姿の老女将の言葉。
(睡蓮の絵の灯籠、だっけ……?)
老女将が微笑みながら言っていたように、見つけたところで何がしかの『いいこと』が起こるなどまさか信じてはいないけれど、夕暮れの散歩のお供くらいにはなるかもしれない。
(老舗温泉宿の庭も見られるって話だしね)
古いものを見ることも、宿の女将や番頭の所作を目にすることも、上手くすれば己の演劇の糧に出来るかもしれない。
浴衣の裾を捌き、提灯の火をふわりと揺らし、蘇芳は悠然と黄昏の街を歩く。
☆★☆★☆★☆
ユキ・ナカミチが浴衣に羽織り姿で立っていたのは見知らぬ巨大建造物の前だった。
緋色の壁に青銅の屋根、朱色の柱に支えられた観音開きの門に掲げられた扁額には大きく一文字、『湯』。
「ああ良かった、人や! よう来てくれた! よう迷い込んでくれた!」
茫然とするユキの前、寝子温泉のとある温泉宿の法被姿の男が足早にやってきた。結った長い黒髪が特徴と言えば特徴の、平凡な顔つきのその男の左右の肩には黒猫とハチワレ猫、頭には白猫。両脇に抱えて三毛猫と虎猫。
「ええと、……ここは?」
とりあえず問うて返って来たのは、ここが『ねこ温泉』であること、猫による猫のための温泉宿であること。
「それでな、今日は『浴衣デー』らしいねん」
「浴衣デー?」
うん、と頷いた男──
古家 日暮と名乗った男は、猫にまみれたまま猫による猫のための温泉宿を怯えたまなざしで見遣る。
「人間が浴衣着てお猫さまを接待するん」
栗色の瞳を丸めて首を捻るユキに、日暮は『接待』の内容を説明する。
毛並みがつやつやになるまでのブラッシングに始まり、猫が満足するか熟睡するまで撫でる、浮かぶ猫毛と猫に囲まれながら温泉に一緒に入る、腕枕を要求する猫に腕が痺れようと腕を貸し続ける──ひとつひとつ『接待』の内容を挙げてから、日暮は怖い顔をした。
「ここに迷い込んでしもたからには逃げるんは難しいし、あんじょうやったって。浴衣デーが終われば帰してくれるさかい」
「大変そうだね」
「大変やで」
ユキの言葉に大真面目に頷き、日暮は頭上の猫から猫パンチを食らいながら宿へと戻って行った。広間で枕になる仕事が待っているらしい。
ユキは奇妙な夢にも思える世界の端っこでちょっと考えた末、
「……まあいいか」
ひとまず現状を受容する結論へと辿り着いた。
ともかくも、『仕事』に取り掛かってみよう──
こんにちは。
今回は、七夕ゆかた祭りへのお誘いに参りました。
ガイドには、リリエル・エーテライトさんとメリィ・ランページさん、如月 蘇芳さん、ユキ・ナカミチさんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしもご参加頂ける場合は、ガイドに関わらずご自由にアクションをお書きください。
いくつか場所をご準備いたしました。
お好みにあわせてひとつかふたつお選びいただき、『キャラクターの行動・手段』の欄に番号をお記し下さい。ただ、アクションが多岐に渡る場合はひとつひとつの描写が薄くなってしまう可能性があります。
1 寝子島神社
寝子島神社の参道にも、旧市街の商店街にも、さまざまの屋台が並んでいます。黄色い鳥の着ぐるみが目印なキャットロードのコスプレ屋が出張して来て浴衣を貸し出していたりもするようです。
神社の鳥居の両脇には大きな笹が立てかけられ、巫女さんたちが短冊を配っています。想いや願いを短冊に綴って笹に結んでください。
短冊を飾ると、巫女さんから懐紙に包んだ金平糖が貰えるようです。一粒食べれば楽しい気持ちに、二粒食べれば好きな人に会いたくなってしまったり、──するかもしれません。
2 寝子温泉
夕方から夜にかけて、七夕飾りで飾り立てられた温泉街のあちこちに灯籠が灯されます。温泉街へと訪れる人々には提灯が手渡されます。提灯を手に浴衣姿で散策するのも楽しいかもしれません。
……揺れる提灯の光には、もしかしたらお祭りにつられてやってきたあやかしたちの姿が映り込んだりするかも?
路地裏や公開中の温泉宿の庭などに置かれている『睡蓮』の絵が描かれた灯籠を見つけると、好きなひとやものへの想いが溢れたりするかもしれません。
3 ねこ温泉郷
●ねこ温泉郷とは
以前何度か出させていただきましたシナリオ(読まなくても大丈夫です)に出てくる、猫による猫のための温泉郷です。
朱塗りの壁に蒼い屋根、何層階もある巨大な温泉宿の中には、いくつもの温泉や数え切れない客室、千匹入れる露天風呂に貸し切り温泉、展望風呂だって、百畳の宴会場も十畳の個室もあります。
今回は、浴衣姿で猫たちを接待することが迷い込んだみなさまのお役目です。お風呂場で猫を洗ったり、湯着で温泉につかる姿を猫たちにひたすら観察されたり、休憩処でブラッシングしたり、広間でごはん食べさせてやったり。
浴衣で猫にまみれたい方はこちらにどうぞ!
4 その他
・浴衣でレトロ喫茶に行ってのんびりお茶をする
・星幽塔の第一階層のお店で七夕飾りを作って売り出す
・魔行列車に乗って天の川に橋をかけるカササギのあやかしを眺める
登場NPCやXキャラクターについて
・他のマスターが担当していない登録NPCやXキャラ、阿瀬が担当している登録・未登録NPCであれば、不自然でなければ登場が可能です。
ただ、一日中ずっと一緒、というアクションは採用できない可能性があること、時間帯の指定はできないことをご了承ください。
・Xキャラクターをご希望の場合は、口調やPCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションにお書きください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、URLを書いて頂けましたら参照させていただきます。
『浴衣』や『七夕』に関わるお話であれば、寝子島のどこでも、また星幽塔(第一階層のみ)や霊界のどこでも場所は問いません。ご自由にお過ごしください。
みなさまのご参加、みなさまの浴衣姿、楽しみにお待ちしておりますー!