薄青の空をひつじ雲が泳いでいる。
ひらひらり、春まだ浅い風に吹かれた寒緋桜の花びらがひつじ雲を追いかけて行く。
覗き込めば左右で色味が違うと分かる青の瞳を心地よさげに細め、
小山内 海はスケッチブックを両手で抱え直した。
画用紙の上には、今しも海の目の前、寝子島神社境内で開催されている桃の節句のお祭りの様子が生き生きと描きこまれている。
ずらりと並ぶ屋台に、願いごとを書いた薄桃色の人型の紙を乗せた笹舟を手に華やいだ笑顔で猫又川に向かう人々に。神社のあちらこちら、大きな花瓶に活けられて、桜に橘、桃の花。鐘楼の梁には色鮮やかな吊るし雛が簾のようにところ狭しと提げられている。
「あっ! 美少女発見!」
聞こえた声が自分に向けられたものだとは思わず、無心に筆を走らせていると、
「お嬢さんお嬢さん、」
目の前に黄色い鳥の着ぐるみを来た見るからに怪しい人物がしゃがみこんだ。目を丸くする海に構わず、鳥は黄色い羽の手をぱたぱた揺らしてまくしたてる。
「ヘイ可愛いお嬢さん、今日はとても良いひなまつり日和ですね! この後神社主催キャットロードの貸しコスプレ衣装弊社協賛な『おひな行列』があるんですが、お嬢さんも生き雛になってみませんか! もちろんご衣裳お貸しします、十二単も虫垂衣も狩衣も、割と色々揃えております! 衣装なので着脱簡単、お得価格でのお引き取りも可能! さあ、さあさあ、お嬢さんも生き雛にしてやろうかー!」
(春の海、)
ひねもすのたりのたりかな、と呟きかけた口が半ばで止まる。小さく開いた唇のまま、
七峯 亨は一見のどかな春の海を二度見した。
堤防沿いに咲く黄色い菜の花や蒲公英の向こうに広がる寝子ヶ浜海岸の一角が妙な色鮮やかさに染まっている。
船首には翠の鱗の色も華やかな龍の首、春風を受けてたなびく『寶』の朱文字を染め抜いた帆、甲板から零れ落ちそうなくらいに積みに積まれた米俵に珊瑚に瑠璃に玻璃に翡翠、要するに七福神でも乗っていそうな宝船から降りてきているのは、十二単の男雛に女雛。
五人囃子が太鼓を鳴らし笛を吹き、狩衣姿の随身が魔除けの弓弦を甲高く鳴らせば衛士が勇ましく周囲を見回す。
「……雛、か?」
三月三日の今日が主役の雛飾りたちの唐突と言えば唐突な登場は、いつもと言ってしまえばいつものこと、なのかもしれない。
(神魂か……)
くすりと笑みを零す亨に気付いたか、男雛の指示を受けた衛士のひとりが袴の裾をからげて駆け寄ってきた。
「すみませーん! ちょーっとお願いがありましてー!」
格好に似合わぬ軽い口調に思わず瞬く亨に、肩から矢立、腰に太刀、手に弓を提げた狩衣姿の衛士は少し照れた風に頬を掻く。
「ああいや、我々、現代の方々に作られた流し雛ですから……まあでも確かにちょっと格好つかないでしょうかねえ」
深呼吸ひとつ、衛士は背筋を正す。
「我ら流し雛、汝らの厄を負いて海を流るるも未練残りて流るる難し。我が主も此の島にもう暫し留まりたしとお嘆きになられておられるが故、……伏してお願い仕る。助けてくだされ」
砂地に膝をつき、芝居じみて言ってから、再度照れた風に篭手を装備した手で頬を擦る。
「そんなわけでして。まあ具体的に言っちゃうとお見送りの会的な宴会したり僕らと手合わせしてもらったりして遊んでもらえませんかって話です。弓矢の扇当てとか、白酒桃花酒の飲み勝負とか、舞に音楽、あとはなんでしょうねえ……とにかく、すみませんがしばらくお付き合い願えませんか」
古苗木 美姫は瑠璃に牡丹、
葉月 朱真は緋にパズルピースの幾何学模様。
華やかな着物を纏い、ふたりが向かうは星ヶ丘の住宅街。
「ありましたよ、朱真ちゃん」
「ああ、確かに」
明るい栗色の髪を揺らして小さく頷く朱真と、眼鏡の奥の優しい夜色の瞳を細める美姫の視線の先には、瀟洒な邸宅のエントランスに飾られた吊るし雛と雪洞。
開け放たれた門扉の先には、自由に出入り出来る春の庭と、庭先に飾られた七段飾りのお雛さま。
ひな祭りの今日は、星ヶ丘のあちらこちらの邸宅や星ヶ丘寮が開放され、住人たちの趣向を凝らした雛飾りがそれぞれの庭や邸内に公開されている。観覧可能な邸宅のエントランスには、吊るし雛と雪洞を置いておくのが目印。一部の家ではお茶とお菓子が振舞われたりもしているらしい。
雛飾りがお披露目されているのは一般邸宅だけでなく、星ヶ丘の高級ホテルや小さな植物園でも催されている。宝探しのように星ヶ丘を巡って雛飾りを愛でたあとは、ホテルや植物園で一休みするのもいいかもしれない。
「では」
「ああ」
淑やかに笑みかわし、ふたりはひな祭りの一日を心ゆくまで楽しむべく、しずしずと歩きだした。
こんにちは! ひなまつりをお届けに参りました!
ガイドを読んでくださいましてありがとうございます、阿瀬 春と申しますー。
ガイドには、小山内 海さん、七峯 亨さん、古苗木 美姫さん、葉月 朱真さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしもご参加いただけますときは、ガイドに関わらずどうぞご自由にアクションをお書きください。
ということで、ひなまつりな一日です。
当日は快晴の休日、基本的に怖いことは何にも起こりません。桃の節句をめいっぱいお楽しみください。
いくつかイベントをご用意いたしました。
ひとつかふたつ、行動場所を選んで【キャラクターの行動・手段】の欄に書き込んでください。
1.寝子島神社のひなまつり
いくつかの行事が執り行われています。どうぞ思い思いにひなまつりをお楽しみください。
・流し雛
社務所で薄桃色の人型の紙と笹を受け取り、願いごとを書いて猫又川に流します。ひとりでもふたりでも、ともだちたくさんとでも、どなたでもどうぞ!
しっとり、ほのぼのなひなまつりを楽しめるかも?
・縁日屋台
境内にはたくさんの屋台が並んでいます。お客さん側でも、屋台の店員側でも、どちらでも楽しむことができます。屋台をされる場合はコメントページに「こんなお店やるよー」とか書いておくとお客さんが来てくれるかもしれません。
・おひな行列
キャットロードのコスプレ店協賛で、おひなさまの格好をして境内を練り歩くイベントが昼過ぎに開催されます。行列が終わったあとは衣装のまま屋台を楽しむこともできます。
境内の外れに更衣室代わりのマイクロバスがあります。
黄色い鳥の着ぐるみが境内をうろついて『生き雛』になってくれるひとを大募集中! ときどき強引に衣装を渡されたりもするようです。
2.寝子ヶ浜海岸のひなおくり
猫又川から海へと流れて行ったはずの流し雛たちが、神魂の影響で寝子ヶ浜海岸に戻って来てしまいました。このままでは流し雛たちが持っていくはずの願いが叶わなかったり、何かしらの災厄がもたらされてしまったりするかも?
とは言え、『お見送り会』と称した宴で送ってやれば、彼らは意気揚々と海の彼方へ旅立って行くようです。
・宴
・衛士たちとの手合わせ
・弓矢による扇当て
・舞や音楽
などなど、今はひとの姿をしている流し雛たちを何かしらの手段で楽しませてやってください。ついでに自分も楽しんじゃいましょう。
3.星ヶ丘のひなめぐり
星ヶ丘周辺のおうち拝見しつつ、そのおうちのお雛様を拝見しつつ、ついでにお茶会もどうですかなイベントです。
星ヶ丘寮にお住まいなPCさん、この機会にご自宅公開とかいかがですかー。
・ステッラ・デッラ・コリーナのロビーにも十段飾りのお雛様が飾られています。ロビーラウンジではひな祭り特別メニューの提供も。
・星ヶ丘植物園『ねこの庭』の小さな温室カフェ『Oz』も、今日はひな祭り一色。あちらこちらに小さなお雛様の陶器人形が飾られていたりします。
おひとりさまやご友人と、のんびりお散歩を楽しんだりもできそうです。
4.その他
ひなまつりに関わることでしたら、ご自宅やお店で別のイベントを催されましても大丈夫です。
お店でイベントをされる際は、コメントページでお客さん募集! とかされましても楽しいかも?
NPC等について
・このシナリオでは、他のマスターが担当していない登録NPCやXキャラ、阿瀬が担当している登録・未登録NPCであれば、登場が可能です。
・登録NPCに対するアクションが重なってしまった場合は、時間をずらして遊ぶ等の対応を取らせていただきます。そのため、『前日に約束した』等のアクションは無効になってしまう可能性があります。ご了承ください。
・Xキャラクターをご希望の場合は、口調やPCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションに書き込んでください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、URLを書いて頂けましたら参照させていただきます。
それでは、どなたさまもどうぞお気軽にご参加ください。みなさまのお越しを心よりお待ちしております。