寝子島駅の改札を出てすぐのところにある案内板の前にカワウソが立っている。
つやつやもふもふの毛皮につぶらな黒い瞳に冷たく濡れた黒い鼻、まんまる艶やかなお腹を隠すは三つ揃えの背広。ただしふさふさ尻尾があるからスラックスは履いていない。水かきのある真ん丸な足の指が痛くなるので靴もやっぱり履いていない。
お魚の宝石があしらわれたシルクハットを被り直し、なで肩に提げた麻袋の鞄の中身を確かめる。分厚い本に羽ペンに、さっき駅の構内でもらった無料配布の島の地図。口元の髭をひよひよさせて小さく頷き、傍らに置いた相棒のジェラルミンケースの持ち手をぷにぷにした小さな掌できゅっと握る。
「きっと、たくさん……」
カワウソはつぶらな瞳で案内板を見仰ぐ。背丈は歳の頃で言えば二つ三つの幼児ほど、大抵のものもひともカワウソよりはだいぶ大きい。
「たくさんたくさん」
自分に言い聞かせるように呟き呟き、ジェラルミンケースの車輪をコロコロ言わせてぺたぺた二本足で歩き始めて、すぐに足を止めた。小首を傾げる。黒い真ん丸おおめに捉えているのは、ひとりの青年。
「だいいち住民、みつけた……!」
通りがかりの寝子島住民の前、カワウソはぺたぺた近づく。途中でもどかしくなって、ジェラルミンケースにぺたりと乗っかり水を掻くように地面を蹴る。
二本足で歩くより早く、けれどそれでも割とのんびりした速度のジェラルミンケースに乗ってコロコロコロと近づくなり、カワウソは青年に──突然のカワウソの登場に眼を瞠るばかりの
志波 武道に小さな両手を差し出した。
「みせてください」
真ん丸の眼に映りこむのは、驚くよりも先に冬の太陽よりも眩しく顔を輝かせる武道。
「ハイ何でも見せまショー! もう、もうもう、……ヨロコンデ!」
差し出された小さな両手を壊れ物に触れるくらいにきゅうっと優しく握りしめ、カワウソ好きが高じてカワウソの覆面姿で動画配信だってしでかしたこともある青年は、その場に膝を折って何度も何度も大きく首を縦に振る。
動画配信で熱くカワウソについて語るカワウソ頭の黒ブーメラン男についてはともかく、武道は黒縁眼鏡の奥の瞳をキラキラ無垢に輝かせる。
可愛いは正義だ。可愛いカワウソは絶対的無敵で特別な存在だ。たとえそれが普通には遭遇するはずのない喋るカワウソであったとしても。
武道に両手を握られたまま、カワウソはハッと透明な髭をそよがせた。
「もうしおくれました、ワタクシ、宝石商をいとなんでいます」
「宝石商さん?」
武道の言葉に、カワウソは誇らしげに黒い瞳を煌めかせる。
「今日はとくべつの日です」
「ウン、確かに今日は宝石商さんと出逢えたとっても特別な日だネ☆」
「この島のひとびと、今日だけ宝石を生み出せる。誰かやナニカへのおもい、ねがい、つよい感情がひとつ、宝石になるです。なみだ、こえ、ことば、何が宝石になるかはワタクシ、存じません。どんな宝石が生まれるかも、ワタクシ、存じません」
「ウン……うん?」
だから、とカワウソはジェラルミンケースからぴょんと飛び降りる。麻袋の鞄から分厚い本と羽ペンを引っ張り出して背筋を正す。
「みせてください。宝石がうみだせましたら、今日中であればいつなりとおじゃまいたします。ワタクシ、宝石の所在はにおいでわかりますので」
広げて見せた本には、カワウソが世界各地で見出して来た宝石が描きこまれている。なかなかの達筆で書かれているらしい文字は、けれど武道には読めない文字だった。
カウウソの宝石商は真摯な声でお願いする。
「あなたの宝石、ワタクシの図録にしるさせてください」
こんにちは! 阿瀬 春と申します。
ガイドをお読みくださいましてありがとうございます。
今回は、レキシ的ジンブツキャンペーンのリクエストシナリオをお届けに上がりました。
志波 武道さん、ご指名ありがとうございますー!
ガイドにもご登場いただいておりますが、どうぞガイドの内容には捕らわれず、ご自由にアクションをお書きください。
ということで! かわいいカワウソの宝石商さんが寝子島にやってきました!
カワウソの宝石商
いろんな世界のいろんな宝石を集めたり、図録として記録したりしながらいろんな世界を旅をして巡っているカワウソ。
基本的に二足歩行な立ち姿は八十センチほど(シルクハットを合わせても一メートルにも届きません)。
今回は、『今日この日だけ、寝子島にいる人々が宝石を生み出す』という情報を得たため、どこかの世界から寝子島にやってきました。(寝子島に来ていれば、星幽塔の人も島外の人も宝石を生み出せるようです)
人懐っこく、誰にでも話しかけては『あなたの宝石を見せてください』と頼み込みます。見せるも見せないもご自由にどうぞ。
見せてあげると図録に宝石の色かたちを書き記しつつ、それがどんな宝石なのか解説したりも。
気付けば隣に居たり、道端でばったり出会ったりするようです(が、出会うも出会わないもあなた次第ですー)。
宝石について
カワウソの宝石商が寝子島に来ている今日いちにちだけ、寝子島の人々は宝石を生み出すことができます。
その宝石はあなたの想いや性格がかたちとなった唯一無二のもの。
原石やカットされたもの、固いもの脆いもの、現実に存在するものもしないもの、どんなかたちの宝石がどんな風に生まれるかはあなた次第。
生み出し方も、『気づいたら目の前にあった』『涙と共に落ちた』『喉のつっかえを吐き出したら転げ落ちた』『言葉や涙がかたちとなった』などなど、ひとそれぞれです。
生み出された宝石をどうするかはあなた次第です。
カワウソに渡して別の宝石と取り替えてもらったり、大切な誰かが居るのならプレゼントしてみたり。宝物として大切に仕舞っておくのもいいかもしれません。
※宝石の色かたちを阿瀬にお任せいただくことも可能です。
Xキャラ・NPCについて
・特定のマスターが扱うキャラクター以外の登録済みNPCであれば登場が可能です。
・Xキャラクターの登場も可能です。ご希望の場合は、口調やPCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションに書き込んでください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、URLを書いて頂けましたら参照させていただきます。
・阿瀬が扱っているNPCは登録未登録に関わらず登場が可能です。
ではではっ、カワウソの宝石商さんの図録を拝見しつつ、みなさまのご参加をお待ちしておりますー!