店内の棚には無数の薬が陳列されている。その一角には数種類のオリジナル商品も置いてあった。
カウンターには薬剤師の
毒島 柘榴が白衣姿で座っていた。手元の売上表を厳しい表情で睨み据えている。
「考えても妙案が浮かばねぇな」
白髪交じりの頭を無造作に掻く。ああ、と苛立ちの声を上げて立ち上がった。
柘榴は大股でカウンターの奥へと歩いていく。地下に向かう階段を前にして掌に拳を打ち付けた。
「こんな時は適度な運動に限るぜ」
蓬髪を揺らしながら柘榴は階段を下りていった。
柘榴はエアロバイクのハンドルに脱いだ白衣を掛けた。用意した六オンスのグローブを嵌めてサンドバッグと向き合う。
「始めるか」
引き絞った弓から放たれた矢のような拳が乾いた音を立てた。右左と交互に打ち込んでいく。たまに時間差のフェイントを混ぜ込んだ。
徐々に腰の回転は速くなり、連打の音が繋がって聞こえる。微かな呼気は一定のリズムを刻む。
「頃合いだな」
最後に力を込めた一撃を叩き込んだ。サンドバッグは一瞬、腹部を押さえた人のように曲がった。
柘榴は置いていた白衣で顔の汗を拭うと、そのポケットから自社ブランドのドリンク剤、ニャンダフルDを取り出した。
白衣は片方の肩に引っ掛けて、ドリンク剤を飲みながら歩いた。
「汗を流したあとは効くぜェ」
帰り際、隣の決闘スペースを覗いた。
中央にロープの張られた四角いリングがある。整備が行き届いているのか。真っ新に見えた。観客用の簡易椅子はリング下に収納されていて、およそ百人分にもなる。
「ここで戦えば、もっといい汗がかけるんだが」
柘榴はドリンク剤を一気に飲み干した。
「……そうだ。この地下施設で汗をかけばいい」
放心したような表情が突如として生気に満ち溢れた。ドリンク剤を握る手にも力が入る。
「汗をかけば売れるじゃねぇか! 怪我でも薬は売れるぜ。その前に大々的に宣伝しないとな。まずは店に貼り紙だろ。学校に商店街、あと身近な人間の協力と――」
指を折りながら考えを纏めていく。それも面倒になったのか。柘榴は獲物を嬉々として追い掛ける形相で階段へと疾走した。
今回は旧市街にある薬局「アネモネ」が舞台となります。
店内は一般的な広さで商品の品揃えは豊富。棚の一角には自社ブランドを取り扱っています。
店のカウンター奥の階段からは地下施設に入ることができます。
薬局の商品、地下施設の順番で紹介していきます。
薬局の商品と効能
・アネモネの限定ドリンク(値段はお客様次第)
「ニャンダフルD」 滋養強壮、疲労回復。
「ニャンニャン打破」眠気覚まし。
・アネモネの限定サプリメントと効能?(値段はお客様次第)
「ニャンダーG」胃腸に改善が見られたり、トイレに駆け込ませたりします。
「ニャンダーH」性欲を増大させます。かなりの個人差があります。
「ニャンダーZ」服用した者の希望をそれなりに叶えます。不安定が定番の商品です。
オリジナルの商品以外にも薬局に相応しい薬が置かれています。
地下施設
・地下闘技場「オグン」の決闘スペース
普段は合言葉と記帳が義務付けられていますが、今回は人を呼び込む為に面倒な手続きを省きました。
中央のリングを取り囲むようにして観客スペースがあります。収容人数は百人程度。
選手用の控室は二箇所、確保されています。
決闘を希望する場合、アクションに「決闘」の文字を書き込んでください。二人以上が希望することで戦いは成立します。
対戦相手を指名したり、複数によるバトル・ロイヤルなど、望むことで叶えられるかもしれません。
反対に指名がない時は、第三者によって対戦が組まれます。
武器の類いは禁止です。ボクシング用のヘッドギアと六オンスのグローブを着用して試合に臨みます。
勝敗を決める判定は様々です。当事者間の判断による場合は当然として、観客の反応で決まることもあるでしょう。
・地下闘技場「オグン」の訓練スペース
身体を鍛える為の器具が揃っています。
サンドバッグ、エアロバイク、ランニングマシーン、バーベル(重さ各種)。
それ以外にも使用者が望む物のほとんどを取り揃えていますので、思うままに使用して爽やかな汗を流してください。
どのような理由で皆様は「薬局アネモネ」を利用するのでしょうか。
強者を求めるのでしょうか。観客として場を盛り上げたい、と望む方々もいると思います。
黙々とトレーニングに汗を流す人も少なくないでしょう。
薬局に用事があり、立ち寄って事情を知る。そのような偶然も十分に考えられます。
皆様のアクションが一つの物語を作ってゆきます。個々の行動は店の売り上げにも反映されることでしょう。
一家の食卓が潤うことを祈りつつ、静かに時を待ちたいと思います。