そこは真っ白な部屋だった。部屋には調度品がある程度、並んではいるが目立って豪華な物はない普通の作りだ。
その真ん中で中空に浮いたモニターとにらめっこしている水色髪の少女が一人。
彼女はちーあ。
異世界の管理者の役割を先代から受け継いだ少女である。見た目はどうみても幼女ではあるが、当人は幼女認定を否定したいらしい。
彼女が受け継いだ異世界の管理者というのは異世界同士が必要以上に干渉せず、バランスの崩壊が起きないようにするのが役目である。
「うーん、ツクヨ遅いですね。全く、連絡もせずに何をしてるんですか、もうっ!」
ちーあが見ているモニターにはいくつもそれぞれの異世界と思わしき球体が表示されており、そのうちの一つが点滅していた。
その異世界の名前は『アルカニア』と表示されていた。
その隣には寝子島からの召喚者数名の名前とツクヨという名前が記載され『派遣中』と表示されている。
「大丈夫ですかね……なんかすごく心配です」
◆
「あひゃはっ! もうおしまいですかぁ!? もっと力を込めて打ち込んでくださいよォーッ!」
「うぁぁぁああああーーッ!」
半脱ぎの着物からいまにも豊満な巨乳がこぼれ出てしまいそうな金髪の女性は血の様に赤い長剣を振るって少年を弾き飛ばす。
宙を舞った少年は受け身すら取れず、無様と言っていい程に地面へぐしゃりと落ちた。
「いつつ、し、ししょーあんな攻撃突破できないって! だってさっきも――――うわぁぁ!?」
起き上がろうとした少年の頭上から長剣が地面目掛けて振ってきて深々と土に刺さった。
飛びのく様に起きた少年の腹に金髪の女性の蹴りが撃ち込まれ、彼はくの字に身体を曲げてうめき声をあげた。
地面に膝をつきながら、少年――ナディスは金髪の女性……ツクヨを見上げる。
彼女は四白眼の赤い瞳で妖しい笑みを浮かべながら長剣を引き抜くとそれを振り被った。
「口を動かす前に身体を動かさないと……死にますよぉ?」
スパルタともいえる彼女の戦闘訓練を眺めていた
御剣 刀は果実を口に運ぶとゆっくりと租借する。甘酸っぱい味と香りが口内へ広がっていく。なかなかに美味しいようだ。
ふと彼の後ろから声がかかる。それは
ティオレ・ユリウェイスであった。
「あの調子だと、間違って殺しちゃうんじゃないかって心配になるんだけど」
「それは大丈夫だと思う。ああ見えてツクヨはちゃんとその辺りを考える奴だからな」
「そう、それならいいわ。ここに呼ばれた私達はあの子に世界を救ってもらわないといけないわけだしね」
御剣は果実を飲み込みながらティオレの方は向かずに答える。
「ああ、その通りだ。この世界の魔王を『勇者ナディス』に倒させ世界を救わせる、それが異世界の崩壊を防ぐ方法だったか」
「ええ、そうよ。しかも私達だけで魔王を倒してはいけないっていうおまけ付きでね」
「その異世界の事は異世界の者と協力し解決しなければならない、か。件の勇者が強ければいいんだが……」
ツクヨの攻撃を躱すことに精一杯でナディスは立っている時間よりも地面を這いつくばっている時間の方が長いようだった。
ナディスの剣の振り方は完全に素人のそれであり、勿論のこと攻撃は一太刀も入れられず、ツクヨに全て弾かれていた。
「……前途多難、だな」
「はぁ、そうみたいね」
心底心配そうな二人の所に息を切らした村人が走ってくる。その衣服はボロボロであり、所々ケガもしているようだった。
「あの、みなさん! た、大変です! ま、魔物が村を!!」
「なんだって! ツクヨ、ナディスの修練は切り上げに……ってあれ、ナディスはどこへいった!?」
「それがですねぇー、村が襲われたって話を聞いた途端に駆けだして行っちゃいましたよぉ」
「どうして止めなかった!? あいつだけじゃまずいぞ、早く俺達もいかないと!」
木に立てかけてあった自分の装備を手に取り、御剣とティオレは火の手の上がる村の方へと村人に案内されながら走っていった。
一人残ったツクヨの金色の髪を風がなびかせる。
「……さて、あの子は勇者になれますかねぇ。まあ、なってもらわないと困るんですけど」
◆
家屋が炎に包まれ、立ち昇った煙が村の上空を埋め尽くして火の光を遮り辺りを暗くしていた。
煤と灰が舞い上がり、喉を軽く刺激する。
「父さん! 母さん!」
「来ちゃだめだ、ナディス!」
「早く逃げ――――」
両親の言葉は巨大なハンマーの様に振り下ろされた牛の魔物『ミノタウロス』の拳で遮られてしまった。
すでに二人は物言わぬ肉隗とかし、どちらが誰であったのかすら判別するのは難しい程に潰れている。
それを見たナディスは腰を抜かしその場にへたり込んでしまった。
立ち上がろうとはするが足が震え、体が強張り思う様に手足が動かない。
彼は辛うじて崩れた家屋の物陰に自身の身体を隠す事で精いっぱいであった。
「あ、あ、あぁ……」
「なんだ……まだ人間がいたのか。安心しろ、痛みは一瞬だ。すぐに……済む」
「いやだぁぁぁあ、た、たすけ……っ!」
命乞い虚しく、ミノタウロスの振るった巨大な戦斧が村人をバターでも切るかのように真っ二つにする。
ナディスは声を殺し、這いずってその場から逃れる事しかできなかった。
何もできない自分が堪らなく嫌になるが、今はなるべく考えないようにした。それが恐らく最善と信じて。
「う、あぁ……あ……」
「なんだもう動かなくなったのか? 人間ってのは脆いねぇ、へっへっへ」
「だよなぁ、まだ4人だぜ? 俺なんか参加してないってのによォ」
ヤギの頭をした成人男性と同じぐらいの背丈の魔物が会話している。
足元には衣服をびりびりに引き裂かれ、体を何らかの粘質の液体でぐしょぐしょに濡らした少女が横たわっている。
彼女の眼には光はなく、口はだらしなく開ききっており既に正常な精神状態ではないことが見てとれた。
「ばーか、早く襲わねえからいけねぇ」
「あー、ミノタウロスの旦那、女一人ぐらい残してねぇかな……」
会話しながらヤギの魔物『ギウロス』は少女の首に噛り付きその息の根を止めようと試みる。
少女は痛みに苦しみながら手足をばたつかせたがギウロスの拘束を解くことはできない。
数秒ばたついた後、少女は身動き一つしなくなった。
どうやら彼らにとって何の反応も返さない獲物は生かしておく価値がないらしい。
「無理だろ、あの人は俺らと違って殺す事にしか興味がねぇからな」
「ちげぇねぇ、ギャハハハハ!」
そんな魔物の会話を聞きながらナディスは崩れた建物の影に身を潜める。
(くそ、無理だ、あんな奴らに勝てっこない……おしまいだ、何もかも、おしまいなんだ……)
青い正義感を現実という刃で砕かれたナディスはうずくまりただ呟く事しかできなかった。
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです!
今回は新たな異世界『アルカニア』でのお話です。
剣と魔法が支配する世界アルカニア。
そこには恐怖の権化として魔王が君臨している世界です。
人と魔王や魔物が生存競争を繰り広げている場所なのです。文明レベルは中世程度、と思ってくだされば問題ないです。
下記の情報はあらかじめ知っているという感じでもいいですし、知らないという感じでもOKです。いきなりわけもわからず村の中に召喚された、といった形でも大丈夫です。
またこのシナリオはろっこんが強力に描写される場合があります。
◆目的『ナディスを生存させ共に村の魔物を駆逐せよ』
◆失敗条件『ナディスの死亡、ナディスが戦わずに魔物を駆逐』
今回の目的は村のどこかに隠れているナディスを見つけ出し、共に協力して
魔物を討伐する事となります。
彼が死亡したり、彼が魔物と戦う決意を持たないまま魔物を駆逐してしまうと、
彼が勇者となる条件がそろわず、近い将来にアルカニアが崩壊してしまいます。
異世界の崩壊という強大なエネルギーの波は津波の様に各異世界に波及し離れているとはいえ、寝子島にもどんな悪影響を及ぼすかわかりません。寝子島の『フツウ』が破壊されてしまうような何かが起きてしまうかもしれませんので、そのような事態にならないようにしなければなりません。
◆場所
今回の戦闘場所は異世界アルカニアの『ロンダナ』の村です。
村は既に魔物の襲撃を受けており、住人はナディス以外全滅、村の建物もほぼ倒壊しあらゆる場所で火の手が上がっています。
どこかに隠れているナディスを探すツクヨがいますので、合流する事ができれば心強い味方となるでしょう。
◆登場人物
ナディス
:いずれ勇者となる人物。この時点ではまだ勇者ではない。
戦闘経験はなく、振るう剣技は素人そのもの。
誰かを助けたいという気持ちはあるが、体がついてこない状態。
まだ本当の戦闘を知らず、戦いの恐怖に押しつぶされ、村のどこかに隠れている。
ちーあ
:2代目の異世界の管理者。まだ管理者としては未熟者だが頑張り屋である。
基本的に彼女が皆様を異世界に放り込む張本人。
小柄でぺったんこな少女。
ツクヨ
:ちーあの仲間で先発隊の一員として寝子島からの召喚者数名と共に
アルカニアへ送られた。
金髪赤目のわがままボディの持ち主。
着物を半脱ぎ状態で着ている為、いろいろ零れそうで危ない。
戦闘狂であり、一度戦闘になれば嬉々として武器を振るう。
◆予測される敵
ミノタウロス
:牛がベースとなった筋骨隆々とした3メートルはある巨大な牛頭の魔物。
生半可な刃物は通さない強靭な筋肉を持ち、巨大な戦斧を武器とする。
頭は良くない。
ギウロス
:ミノタウロスに連れられているヤギ頭の魔物。
成人男性程度の背丈しかないが足の筋肉が異常発達しており、その脚力は脅威。
また女に目がなく、好んで襲う傾向にある。
◆支給品
ちーあから戦闘の支給品として一人一つ送られる装備です。
好きなものを選べますが、一つ以上は選べません。
仲間と交換したり自分の分を渡したりといったことは可能ですが、誰かに渡した場合、
再度ちーあに支給してもらうことはできません。
アサルトらいふー
:なにやらサイケデリックな色で塗装されたアサルトライフル。
弾の入ったマガジンを無限に生成できるが、空になったマガジンを交換する際に
口内へ異常にまずい味が数秒間広がる。
スパっとナイフ
:えらく切れ味のいいナイフ。どれだけ切っても刃こぼれせず、切れ味も落ちない。
柄のボタンを押すと刃を発射する事ができるがその後、柄は崩れ去る模様。