「……さあ、入って」
笹原 瞳は扉を開き、少女を迎え入れました。
外には月の光をぼんやりと孕む、厚い曇り空が垂れこめています。
時刻は深夜0時。
寝子島総合病院の病棟はとうに消灯時間を迎え、静まり返っています。
明かりはナースステーションに灯る照明と、非常灯の緑だけ。
こち、こち、こちと鳴る時計の音が、やけにやかましく聞こえました。
こんな時間に一般人を招き入れるだなんて、看護師としてここへ勤める瞳であっても、許されることではありません。
ピンクの髪をした少女は物珍しげに病棟の中を見回して、不安げな瞳へ、にこりと微笑んでみせました。
「最初は……一か月前だったかしら」
瞳は立ち込める静寂と重苦しい空気を振り払うかのように、語り始めます。
「入院中の患者さんが、妙なモノを見たらしいの」
──2階の田村さんの病室から、叫び声が上がったの。
深夜2時ごろだったと思う。
慌てて駆けつけたら、田村さんは部屋の隅で震えていて……こう言ったわ。
『フクロウみたいに真っ黒で大きな目をしたなにかが、自分をじっと見つめていたんだ』って。
──次は、4階の佐々木さん。
ナースコールが鳴って、様子を見に行ったら……呼び出しボタンに手を伸ばしたまま、彼は固まってた。
金縛り、って言うのかしら。暗がりの中で、彼の白目だけがやけに明るく見えてね。
『高周波が聞こえる。高周波が聞こえる。高周波が聞こえる』。そう、しきりにつぶやいてた。
──3階の吉川さんは、興奮してた。窓の外にかじりついて、離れなかったそうよ。
当直の看護師が外を覗いたら……その日はちょうど今日みたいな、憂鬱な曇り空だったわね。
厚い雲の向こうに、見たそうよ。
まばゆい光。回転する色とりどりの光。空に吸い込まれるような感覚を覚えて……。
次の日、私が病室に行くと、吉川さんも看護師も床に倒れてた。
なにを見たのかは、ぼんやりとしか覚えてないって。でも怯えていたわ。
肌に寒気を感じて、瞳は肩を震わせます。
「……看護師長や医師は、悪い夢でも見たんじゃない? なんて言ってる。集団ヒステリーみたいなものだろうって。あまり大事にはしたくないんでしょうね。でも、私たち現場のスタッフは……怯えてる。患者さんにも不安が広がってるわ。だから……」
振り返り、十も年下の少女へすがるように、懇願しました。
「あなた、こういうのに詳しいんでしょう? ねえ……なんとかして欲しいの。お願いよ」
「……ん・ふ・ふ!」
どこか奇妙な含み笑い。
瞳へひとつうなずくと、彼女は揚々と取り出したピンク色のケータイで、おもむろに自分を撮影し始めます。
口を開けば、にちゃりと唾液が糸引く音が聞こえました。
「さて、ネコネコ動画をご覧の皆さま! 『
ミッドナイト・フリーキー・リポート!』のお時間がやってまいりました。今夜は、とある病院で起こるという奇怪な現象の真相を、わたくし
胡乱路 秘子と素敵なお友だちの皆さまで探ってみたいと思います」
調査の条件として、動画の撮影と、彼女の仲間たちを病棟へ引き入れるのを許したことを、瞳は今さらながらに後悔し始めていました。
楽しげに語る彼女は、本当に解決するつもりがあるのか。疑問と不安は尽きません。
けれど今は、彼女に頼るしかないのです。
「果たして病院を襲う怪現象とは一体なんなのか、わたくしたちもそれを体験することになるのでしょうか……? 全ては、番組の中で明かされることでしょう。んふふっ、こうご期待♪」
墨谷幽です。よろしくお願いいたします~。
お久しぶりの怪奇・ホラーものですよ!
このシナリオの概要
このところ、深夜の寝子島総合病院にて、奇怪な現象が相次いで起きているそうです。
現場の看護師や入院患者は怯えていますが、病院のエライ人は怪奇現象など信じず、
特に対策が取られる様子もありません。
今回は、とある看護師のSOSにより、胡乱路 秘子がSNSで公開中の生中継番組を通じて、
真相解明に乗り出します。
皆さんは秘子の連絡で駆けつけた任意の協力者であったり、病院のスタッフや入院患者だったり、
あるいは不思議な力によって、いつの間にか病院に呼びよせられていた一般人であったりします。
ご参加のきっかけはなんでもOKです。
夜の病院を舞台に、超常現象やホラー体験をしたいという方は、ぜひどうぞ!
アクション
夜の入院病棟を探索し、そこでなにが起こるのかを調査します。
看護師さんの計らいで、今夜一杯は病棟内で自由に行動することができます。
自分なりの考えで、あちこち歩き回ったり、
夜勤中の看護師や、起きている入院患者さんに話を聞いてみてください。
そのうちに、なにか異様な現象へ遭遇するかも……?
<目撃された現象の一例>
・携帯電話の通話に混ざりこむノイズ。
・機材の不調。
・強烈な耳鳴り。
・窓の外に見える光。
・患者の証言「ひどく不快な夢を見た。内容は覚えていない」。
・患者の証言「身体の中になにかがある」。
・患者の証言「夜中に突然身体が浮き上がった」。
・患者の証言「大きな目を持つ何者かが、自分を見ていた」。
・患者の証言「月の光をなにかが遮っていた」。
ほかにも、なにかが起こるかもしれません。
NPC
○胡乱路 秘子
かつては謎の深夜番組で司会進行役を務めていましたが、今はフツウの学生です。
動画サイトにて、深夜のオカルト系生中継番組のリポーターとして活動中。
ねこったー等を通じて、皆さんに協力を求めています。
めったなことでは動じず常に笑顔を絶やしませんが、特になにかお役に立つわけでもなし。
どちらかというと撮影とリポートがメインで、解決は皆さん頼りです。
○笹原 瞳
寝子島総合病院に勤める看護師です。
秘子がバイトしている女性下着のお店の常連客であったことが縁で、協力を求めました。
彼女の計らいのおかげで、病棟内での部外者の調査が可能になりました。
ほかにも、お願いすれば可能な範囲で便宜を図ってくれるかもしれません。
『#彼女の曖昧な考察』とは
胡乱路 秘子が動画サイトの生番組の中継を通じて、不可解な現象や謎を追いかけていく、
単発シリーズです。
タイトルにあるように、この一連のお話で描かれる結末は、時に曖昧で、要領を得ないかもしれません。
真相は結局闇の中で、結果は判然としないかもしれません。
つまり、『信じるかどうかはアナタ次第』です。
以上になります。
それでは、皆さまのご参加をお待ちしておりますー!