七月の夜空に開く花火。
胸のズンと響く音と、ほんのり流れる火薬の香り。
天然岩の配置された海辺の露天風呂に腰までつかり、僅かに身を乗り出す。
嗚呼、なんという贅沢な夜。
加賀和倉温泉湯花通り。
石川県海沿いに位置するこの土地は古くより温泉街として知られ、海に面した無数の大型旅館が建ち並んでいた。
されど温泉街そのものが栄えていたのは十年以上昔のこと。バブル経済をはるか過去のものとした現代社会において、この町は浪漫と旧時代の象徴となっていた。
そんな土地で今も尚行なわれているイベントが海辺の夏花火大会であった。
本来野外で立ち見するこの花火が、旅館の窓やベランダから、ないしは露天風呂から直接見ることが出来るとして、この日のチケットはスペシャルな価値がついている。
そんなスペシャルチケットをひょんなことから手に入れたあなたは、バスに揺られこの旅館前へと降り立ったのだった。
大井旅館は古くより続く温泉旅館だ。
地上七階建ての巨大な風貌の中には静かでそこはかとなく風情のある和室が揃い、海にぴったりと面していることから眺めの良さは格別である。
特に象徴的なのは一階共有広間で、あえて海にせり出して作られた全面ガラス張りの休憩スペースの存在感は圧巻。真下はすぐ海という贅沢な空間でくつろぐことができるとして人気があった。
旅館の歴史は、ロビーに飾られた美しい屏風や、展示された巨大な神輿、それが実際に担がれていたらしい明治時代の少比古那祭りを再現したジオラマや、当時設置されていた湯花通りの石標識から感じることができる。
歴史があるというのはただ古いというだけの話ではない。脈々と接客を続けてきたであろうこの旅館は、歴史の中で注目された様々なものを爪痕のごとく各所に残していた。
例えば卓球台が並んだ専用スペースは贅沢にも海に面した大きなガラス張りの部屋に作られ、子供用の遊戯スペースにはいかなる流れか初代ニャミコンとスーパーニャミコンが設置されブラウン管テレビに三色コードでつながっていた。
他にもビリヤード台やダーツスペースといったもう一回りした遊戯スペースを持ち、バブル時代を彷彿とさせる大きな野外プールまで設置されていた。
これもまた、歴史。人々がこの旅館でバカンスを楽しみ、羽を伸ばした爪痕である。
そして時代というものは現代に向かって進むもので、夕食はバイキング形式となっていた。ずっと昔は各部屋運び入れ形式だったのか配膳エレベーターが各階で静かに口を閉じている
そう。バイキング形式とはいえ元は旅館の名物料理。富山は黒部のノドクロや石川近海からとれたエビを使った天ぷらがきわめて絶品といわれ、これを目当てに宿泊する客も多いという。
無論、寿司刺身の品質はお墨付き。バイキングレストランで好き放題に食べることができるだろう。
そして極めつけは天然温泉。ここ加賀は温泉の名池でありあちこちから天然温泉が湧き出している。この旅館もまた天然温泉の上に立てられ、謎の彫像が建つほど巨大な室内温泉や風情豊かな露天風呂でのんびりと手足を伸ばして湯につかることが出来るはずだ。
そんな、歴史ある素晴らしい温泉旅館だというのに、今夜は花火大会を部屋や露天風呂から贅沢に眺めることが出来るという。
さあ、バカンスをはじめよう。
ごきげんよう。青空綿飴でございます。
らっかみ時空は初夏となりました。
早いところでは花火大会なんかも始まりまして、こちら大井温泉旅館では花火大会に会わせた宿泊チケットが発売されております。
ひょんなことからチケットを手に入れたあなたは、この旅館でのひとときをすごすこととなりました。
今日は、のんびりと羽を伸ばしてくださいませ。
宿泊人数は一人~四人。複数でのご宿泊の場合できればGAをかけて頂けるとスムーズにお部屋を押さえられるかと思います。
余談ではございますが、こちらの温泉旅館はずっと以前にとりあげた旅館と同じ場所となってございます。
『湯煙に、咲かせてあげよう冬花火』
覚えておられますでしょうか。今より二年前の夏。皆様と出会った最初のシナリオガイドでございました。
そんな懐かしさも込めて、今回は皆様に温泉旅館でのくつろぐひとときをお届けいたします。