艶やかなおかっぱ頭のメリーさんが参道商店街にふらりと現れた。
今回は浴衣を着ていた。薄青い朝顔の柄が涼しげに映る。帯の結び目の近くには内輪が斜めに差し込まれていて、尾ひれの長い真っ赤な金魚が優雅に描かれていた。
メリーさんは無表情でスキップを始める。下駄の軽やかな音が鳴り響く。老夫婦は少女に気付き、孫を見るような目で微笑んだ。
「喉が乾いたの」
口にすると右に曲がる。スキップをした状態で白い瀟洒な建物の中に入っていった。
中は白一色の世界であった。
「冷たくない雪国なの」
スキップで奥へと向かう。
「ようこそ、いらっしゃいました」
白い空間から浮き出た人物、ノアが恭しく頭を下げる。白いタキシードを着用していた。
「扉を抜けたら雪国なの」
言いながらスキップに興じる。途中で面倒になったのか。瞬間移動に切り替えた。
白い中空を無数のメリーさんが飛び回る。下に待機していた人物は微笑みながら声を掛けた。
「可愛らしいお客様、少し話を聞いてはいただけないでしょうか」
「聞いてあげるの」
メリーさんはノアの目の前に出現した。
「ありがとうございます。私はノアと言います。過去創造館の案内役をさせていただいております」
「この不思議な空間は何なの」
「館がお客様の過去の情報を読み取り、この空間で再現いたします。五感に作用しますので現実と遜色のない体験が可能になります」
ノアは身を低くしてメリーさんに詳細を語る。
「過去はどうでもいいの。夏と言えばホラハウスなの」
「ホラーハウスでしょうか」
「ホラハウスなの」
メリーさんは同じ言葉を返す。僅かに頬が赤らんでいる。微動だにしない姿勢にノアは柔和な顔で頷いた。
「法螺ハウスで承りました。あとはいかがいたしましょうか」
「ホラハウスを皆に楽しんで貰うの。メリーさんが店の前で宣伝するの。ナイスバディ―の看板娘なの」
ノアは相手の胸を見ないで、仰せのままに、と一礼した。
禍々しい洋館に様変わりした。その前でメリーさんが宣伝に乗り出す。
衣服は一変した。黒いとんがり帽子を被り、同色のマントを羽織っていた。
「ホラハウスが無料で体験できるの。夏の定番のホラハウスなの。寄ってらっしゃい見てらっしゃいなの」
両手を腰に当てて陽気にスキップに勤しむ。表情は変わらない。声には僅かに抑揚が付いていた。
通り掛かった一人の男性が足を止めた。
「ホラーハウスでは?」
そのような呟きの中、メリーさんは宣伝に励むのだった。
今回のシナリオは過去創造館を舞台にしたホラハウスとなります。
本来はホラーハウスなのですが、メリーさんが押し通して法螺ハウスとなりました。
過去の再現を行なう過去創造館ですが、今回はその機能を存分に活かした大仰な舞台を用意しました。
では、詳しい説明に入りたいと思います。下記をご覧いただき、アクションの参考にしてください。
@@ 今回の判定 @@
・コメントページの最初の書き込みで表示された左のダイス目で判断する。
左のダイス目(舞台と目的)
1:舞台と目的を自由に決められる(寝子島でペットと楽しく過ごす、日帰り旅行に出掛ける等)。
2:森林限界を超えた山の八合目にいる。ずしりと重いバックパックには登山に必要な道具が入っていた。
目的は二通り。このまま下山するのか。登頂を目指すのか。太陽は西に傾き始めていた。
3:渓谷に渡された長い吊り橋の中央から始まる。紐と木の板で出来ていて相当に作りは脆い。
目的は吊り橋を渡り切ることにある。板は何枚か抜け落ち、絶えず強風が吹き付けて橋全体を揺らす。
4:ラーメン屋の大食いチャレンジで金一封を狙う。制限時間は三十分。二人の場合は賞金が出ない。
巨大な丼鉢に四リットルのラーメンが山盛り状態で入っている。量の他に熱さと辛さが挑戦者を阻む。
5:館自体がお化け屋敷になっている。荒れ果てた墓地が赤い夕陽に照らされ、不気味な者達が蠢く。
目的は脱出にある。館に創造された死人の手を掻い潜り、死神の振るう大鎌を避けて出口を目指す。
6:水深が五メートルの屋内プールの傍らから始まる。目の前には巨大な飛び込み台が設置されていた。
PCは水着姿で(自由に選べる)高飛び込みの競技に参加していた。
プールの周囲には観客がいて声援を送る。逃げ出そうとしても係りの者に阻止され、
十メートルの高さから飛び込むまでこの空間から逃げ出すことは出来ない。
☆★☆過去創造館☆★☆
・別次元の高名な博士が完成させた過去を創造する館で次元移動が可能。
・外観を自由に変えることができる。今回は禍々しい洋館として参道商店街に佇む。
・館の内部は無限の白を思わせる。訪れた者の情報を読み取り、世界を瞬時に創造する。
・関連した過去のシナリオに「あなたの挑む星幽塔、あなたの見せる過去、あなたの望む過去」がある。
@@ NPC @@
ノア(案内役)
白いタキシードを着こなす麗人。中性的な顔立ちで館によって創造された。
メリーさん(都市伝説)
見た目が小学生のおかっぱの女の子。神出鬼没で瞬間移動を得意とする。
和装を好むが今回は魔女の姿に扮している。人と同様に肉体を有し、
毒舌と無表情を駆使して客引きに勤しむ。底なしの胃袋の保有者でもある。
長々とした説明は以上になります。舞台の季節は夏です。
今回のシナリオは左のダイス目が全てを決めます。1は天国です。今日という日をのんびり過ごせます。
それ以外は過酷です。高いところが苦手なPCが3と6になりますと、もう、えらいこっちゃになります。
そうでした! アクションにNPCの絡みを希望すると舞台に登場させることができます(切り札)。
ノアは案内役に徹しているので、冷静に攻略の方法を語ってくれることでしょう。
メリーさんは気紛れです。好き勝手に動くので舞台の相性が悪いと、大変な事態を招きます。
軽い気持ちで法螺ハウスを楽しんでください。
NPC共々、皆さんの来館をお待ちしています。