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「もう帰ろうよー こんな奥に入ったら、お母さんに怒られるよ」
最後尾をのそのそと歩く女の子が、前を歩く男の子たちに声をかけた。
「なんだお前、びびってんのかよ?」
例によって男の子たちの反応はこんなものである。
町中では見られない木々や山肌の見せる『ワイルドな』光景に心奪われ、その向こうに隠されているであろう、『秘密の場所』や『お宝』を想像してテンションが高くなっている。
緑濃い九夜山――
好奇心旺盛な子供たちは、親や教師の言いつけを破る事が悪いことだとは知りながら、子供たちだけで山の奥へと『探検』に向かっていた。
「まったくもう、男の子って――」
女の子がぼやいていると、いつのまにか見かけないお姉さんが傍に立っていた。
「ねぇ、一緒に遊ぼ?」
見たところ高校生ぐらいか。屈託のない笑顔が眩しく、女の子の警戒心を溶かしてしまう。
「いいけど、歩くの疲れちゃった……」
「じゃあ、飛んで行こっ? 男の子たちも一緒にね!
秘密の場所案内してあげる。 1・2・3! それっ!」
「わぁーっ! すごーい!」
「う、うわぁーっ? おれたち空飛んでるーっ!?」
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「――と、いう夢を見たの」
そう語るのは、寝子島神社の宮司の孫娘、神楽 舞。
彼女はこの春ごろから奇妙な夢を見ることが多くなったという。
その内容は巨大なサンマが寝子島を蹂躙したり、ゲーム機に吸い込まれてドラキュラに襲われたりと、日常ではありえない不思議な事件に巻き込まれるといったものが多い。
最初のうちはただの夢だと思っていたのだが、最近は夢の一言で片づけられないものもあるという。
それがここ数日続いている夢。
山の中で遊んでると不思議な少女が一緒に遊ぼうと声をかけて来るのだ。
彼女に応じると、彼女は不思議な力でみんなを空へ飛ばしたり、深い海の底へ連れて行ったりと普通ではありえない体験をさせてくれる。
それが夢ならば大した問題ではないのだが、時同じくしてここ最近、地元の小学校を中心に子供の失踪事件が続いている。遊んでいた子供たちが突然いなくなり、半日ほどしてから発見されるというものだ。
今のところ子供たちが帰ってこなかったり、怪我をする等の深刻なケースは起こっていないが、帰って来た子供たちは軽い記憶障害を起こしており、口を揃えて言うのが、『不思議な女の子と遊んでいた』という事だ。
「――だから、この夢はもしかして、その連続子供失踪事件と関係があるんじゃないかと思うの」
舞は推理するように顎の下に手を当てて頷く。
「夢の中で女の子は『ののの』と名乗っていたわ。
アホ毛の可愛い、人見知りをしない穏やかな性格の子で、誰にでも親しげに声をかけてくるわ」
どこかで見た事がある様な――と、話を聞いていた中には思った者もいた。
「だけど、最初に見た時と比べると、最近は弱って来てるみたい……
みんなを飛ばせたり、海へ潜らせる力も不安定になって来てるし、
自分自身の存在も時々陽炎のように消えそうになってたり……
この状態で遊んでいたら、そのうち誰かが大怪我をするのも時間の問題かもしれないわ。
おそらく彼女自身が現れる事ができるのも、そう長くないんじゃないかしら?」
そこで舞はぐっと手を握り、目を見開いて力説する。
「できれば、大きな事故が起きる前に彼女が子供たちと遊ぶのをやめさせてほしいの。
だけど、できるだけ彼女の気持ちも酌んであげて。彼女はただ楽しい時間を過ごしたいだけらしいの。
彼女が現れる事ができる時間はもう残り少ないみたいだし、
消えてしまうその時まで、いい思い出を作らせてあげない?」
どうも柊いたるです。
今回は神楽 舞のお願いというミッション(やるべきこと)のあるシナリオです。
ミッションを達成するにはそれなりの手順やフラグの確保が必要です。
神楽 舞の見る夢や言っている事は、ほぼ現実に即しており、連続子供失踪事件は起きており、『ののの』も人知れず実在する存在です。
参加を決められた方は舞の話を聞いて『ののの』に会い、『ののの』が消えるまでの間の時間を一緒に過ごすことが目的になります。
舞は一人でも『ののの』を探しに行きますが、一人では思うように成果を上げられないでしょう。
舞を助けるなら、参加者は九夜山山中へ向かい『ののの』を探すことになります。
確実に『ののの』に出会うためには一工夫が必要です。
会う事ができなければ、お話はそこで終わってしまいます。
出会った後どうするかは、参加者に委ねられます。
何をしても出会ってから半日程度で『ののの』の存在は寝子島から消えます。
参加者の皆さんは、舞の知り合いという事にしても構いません。
彼女は寝子高の生徒(1年3組)なので、既に面識があってガイドの話を聞いた事にしても、たまたまどこかで彼女の話を聞いて集まった事にしても構いません。