公園のベンチで、
如月 庚は読書に興じていた。
庚が傍らに積んでいた本の一冊を枕にして、灰白猫――
テオも気持ち良さそうに眠っている。
本(現・テオの枕)は海外の文学作品で、表紙に描かれた精緻な妖精の絵にも、陽の欠片が散っていた。
穏やかな時間がゆるりと過ぎていく――かと思われた、その時。
「あ? 何だ……?」
突然の異変に、庚は、軽く目を眇めた。
真昼の空が、ぱっ! と光が爆発したように白く、殊更に明るくなったと思ったら、
「あれは……白猫? おいおい、落ちてくんぞ」
雲の群れを突き破って、庚の見立て通り、白猫がぴゅーんと真っ逆さまに落っこちてきたのだ。
『テオさま~!』
白猫の鈴が鳴るような声が、甘やかな響きを帯びて、降る。
ちっ、と、いつの間にか目を覚ましていたテオが、いかにも面倒臭そうに舌を打った。
『テオさま、お会いしたかったです~!』
『だああ、知るか! ああくそ、こっちに落ちてくるんじゃねえ!』
自分の上へと猫の手を広げて降ってくる白猫へと、慌てた様子で威嚇の猫パンチを決めるテオ。途端、
『あ、テオさま酷いです! ……
って、きゃあっ!』
ぱん! と弾けるような衝撃が、庚を襲った。
それと同時に、白猫が落下しただろう辺りから、
白い光が流れ星のように幾つも飛び去っていって……。
「今のは……って、今度は何だ?」
思わず、目を瞠って辺りを見渡す庚。
気付けば辺りは、
神秘的な夜の森へと姿を変えていた。
どこか厳かな森の景色に色を添えるのは、とりどりに光る花やきのこ、それから水晶などなど。
『これは……やっちまったな……』
テオが、苦い声で呟く。
「あ? おいまさか、さっきの猫パンチで新しい世界を作っちまったんじゃねぇだろうな」
『まあ落ち着け。さっきはあいつのせいで取り乱しちまったが……』
『こんなの、すぐに元に戻してみせるからよ』
フッ、とニヒルに笑うテオ。そして、再び繰り出される猫パンチ。
これで一安心かと、庚が息を吐いた、その瞬間。
「Wow! トワ、fairy になってるマス!」
がさがさがさっ! と茂みから飛び出してきたのは、妖精の姿に変じた
トワ・E・ライトフェロゥ。
トワの姿を目に、自身も同じように『妖精化』していることを確かめて――庚は、テオを睨みつけた。
「おいこら、どういうことだ」
『……失敗だな。どうも、あいつが来るとロクなことがねえ』
流石にがっくりとうなだれて、けれどテオは、じきにゆるゆると顔を上げた。
『悪いが、
さっき飛び散った白い光を集めてくれ。そうすりゃ、この絶不調から抜け出せる』
テオの言葉に、トワがことりと首を傾げる。
「ムムム、どういうコトデス?」
『……空が飛びたい』
「What?」
『もしくは、光るきのこの上でふかふか眠りたい……』
トワが益々首をぐーんと傾けるのを余所に、テオはどこかへ飛んでいってしまった。
その背を彩る、蝶のそれを思わせる翅をピコピコと動かして。
「……見た目だけじゃなくて、頭ん中まで妖精さんかよ……」
勘弁してくれ……と痛む頭を押さえる庚。
対照的なへっちゃら顔で、トワが「ソウイエバー」とマイペースに口を開く。
「トワのスイリではー、トワたち、とても small になっているのデハ!」
「は……?」
言われてみれば、と、庚は改めて辺りを見回した。
近くの樹も、きのこも、花も、何もかもが馬鹿みたいに大きい。
1度目の猫パンチの時には、こんな変化は生じていなかったはずだ。つまり……、
「妖精化って……サイズまで小さく……?」
益々面倒なことになってんじゃねぇかと庚が肩を竦めるそのすぐ近くで、
「トニカクー、adventure の始まりデスネ! Here we go!」
元気いっぱい、トワは、拳を天に突き上げた。
お世話になっております、巴めろと申します。
ホワシナ第8話を担当させていただく運びとなりました!
如月 庚さん、トワ・E・ライトフェロゥさん、ガイドへの登場誠にありがとうございました!
なお、もしこのシナリオにご参加いただける場合ですが、
ガイドは一例ですのでご自由にアクションをかけてくださいませ。
以下、シナリオの詳細でございます。
このシナリオの概要
ある日寝子島に、空から謎の白猫が落っこちてきました。
落下した拍子に、白猫はたくさんの白い光になって寝子島中にとび散り、
同時に、(テオのうっかりで)辺りも幻想的な妖精の森に変わり、PC様達も妖精に大変身!
困ったことに、白い光を全て探し出さなくては寝子島は妖精の世界のまま、
PC様達も妖精の姿から元に戻れないみたいで……。
白い光を探し出して、寝子島のフツウを取り戻しましょう!
PC様の現状
PC様達は、皆、妖精になっています。
テオの言葉を聞いていたり、白い光を見つけなきゃ! という直感を得たりすることが多いようですが、
シナリオガイドの情報を、知っていても知らなくてもOKです。
この状況を現実と理解するか夢か何かだと思うかも自由となっております。
なお、持ち物は、そのPC様が普段から持っていてもおかしくない物であれば、
妖精用のサイズに変化した状態で、所持OKとなる場合もございます。
(但し、武器や危険物など強力な物は認められないことが多くなります)
▼妖精の特徴
・サイズは普段の約10分の1(身長180cmの人は18cmくらい)
・普段の姿ベースで、見た目の詳細は自由
・ぎこちなく不安定ながら空を飛べる(空を飛ぶことに関わるろっこんを持っていれば、自由に飛べる)
・種族毎にささやかな魔法を1つ使える
・発動条件を満たせれば、ろっこんも使用可能
(変身や召喚するものの大きさ、能力の及ぶ距離なども『妖精化したPC様』のサイズ同様10分の1ほど。
例えば、熊に変身なら20~30cmくらいに、3m四方のバリアは30cm四方に)
・ほしびとさんは星の力は使えないが、星の力(虹)は使える
以下、今回変身できる妖精の種類です。
どの妖精になっているか、1つ選んでください。
【ピクシー】
植物に関わる魔法を1つ使える(例:魔法の蔓で梯子を作る、ホウセンカ爆弾でぱちぱちどーん!)
【パック】
いたずら魔法を1つ使える(例:敵の頭上にタライを落とす、地面の一部をワックスをかけたようにつるつるに)
【サラマンダー】
炎に関わる魔法を1つ使える(例:小さな火球を飛ばす、短い時間だけ敵1匹を捕まえる炎の檻を生む)
【シルフ】
風に関わる魔法を1つ使える(例:風で飛行を補助する、小さなかまいたちを呼ぶ)
【ウンディーネ】
水に関わる魔法を1つ使える(例:水の壁で防御、水の球を思いっきりシュート!)
【ノーム】
土に関わる魔法を1つ使える(例:土埃の煙幕で敵の視界を奪う、土をぽこぽこ盛り上がらせて敵の動きを鈍く)
【ウィル・オ・ウィスプ】
他のPC様に短い時間(相手に承諾の意思があれば長時間もOK。GAを組んでください)とりつくことができる
とりついている間は、ほんの数秒だけ未来が見える
アクションでできること
何をするかを1つ選んで「キャラクターの行動」の冒頭に記入してください。
なお、出てくる生き物などなどは、全て通常通りのサイズです。
PC様は妖精になっているので、例えば、【12】に登場する猫はPC様達よりも大きいです。
また、白い光は、ふわふわとした白く光る玉のような形状です。
手のひらでそっと包むようにすると、持ち運びが可能になります。
【1】森の中のお茶会を楽しもう!
森の中には、何故か、美味しいスイーツ(人間サイズ)で溢れたテーブルが。
どうやら、スイーツの中に、白い光が1つ入り込んでしまったようです。
スイーツを食べて食べて食べまくって、白い光を見つけ出しましょう。
白い光を気にせずに、スイーツを満喫するのもOKです。
<登場NPC>野々 ののこ(パック):スイーツタイム満喫中! 白い光? 何それ?
【2】光る花の群生地で蜜を集めよう!
白い光の1つが、色とりどりに光る花の蜜の中に、少しずつ溶け込んでしまったよう。
臆病だったり高飛車だったり、花達は喋れませんが、感情豊かです。
会話はできませんが妖精の言葉は通じるので、何とか説得して蜜を集めましょう。
蜜を一箇所にたくさん集めれば、白い光が形を取り戻します。
<登場NPC>桐島 義弘先生(シルフ):花達を見上げて、夢にしたって突飛すぎると困惑。
【3】虹色の雨が降る区域で雨の欠片を集めよう!
不思議な虹色の雨が降る森の奥の丘には、雨の欠片がたくさん煌めいています。
その雨の欠片の中に、白い光が溶け込んでしまっている様子。
雨の欠片に触れると、時に、突然『怒り』や『喜び』、『絶望』などの感情が溢れ出すことがありますが、
自分の感情に負けず、頑張って雨の欠片を集めて、白い光を復元しましょう。
なお、雨の欠片は手で掴まないと、溶けて消えてしまいます。
<登場NPC>津止 孝道先生(ノーム):何とか雨の欠片を集めようと考えていますが……。
【4】夜空で白い光と追いかけっこ!
ある白い光は、まだまだ妖精の森を満喫したい模様。
夜空をふよふよふよんと逃げ回りますので、何とかして捕まえましょう。
なお、白い光はPC様達と違って自由自在に空を飛ぶことができる他、
瞬間移動のようなこともできるので、捕まえるには何か工夫がいるでしょう。
夜空には、妖精を食べてしまうヨダカも飛び回っていますのでご注意を。
<登場NPC>二宮 風太(シルフ):追いかけっこを楽しんでいましたが、ヨダカに狙われています。ピンチ!
【5】ダイヤモンドの池の底にある白い光を手に入れよう!
ダイヤモンドのように澄んだ煌めきを放つ池の底に、白い光が1つ、眠るように沈んでいます。
池の底まではギリギリ潜ることができますが、ひとたび池に入れば、そこは腹ペコの魚達でいっぱい。
近くには、釣竿を作るのに具合のいい小枝やクモの巣の糸などもありますが、
水中を自由に素早く泳ぎ回る魚達は、池に入ってきたものを何でも食べてしまおうと狙っています。
何とかして、白い光を手に入れましょう。泳ぐ、釣る、その他。方法は自由です。
<登場NPC>七夜 あおい(ピクシー):綺麗だなあ、と池を淵のところから覗き込んでいます。
【6】巨大樹内部の洞窟を上へ上へと飛んでいこう!
森の奥にある巨大樹の内部は殆ど空洞で、空を飛べば上へ上へと上っていけます。
一番上の方には、白い光の1つがきらきら。
ぐんぐん上へと飛んで、白い光の元へ辿り着くのを目指しましょう。
但し上からは、妖精サイズで直撃するとダメージの大きい水滴が常に滴り、
洞窟内には、平衡感覚を狂わせる超音波を放つ悪戯コウモリが飛び回っています。
<登場NPC>剣崎 エレナ(ピクシー):夢の中でもアイドルは天辺を目指さないと! と気合は十分。
【7】地下迷路を踏破しよう!
意地悪なモグラ達が作った地下迷路の中に、白い光の1つが迷い込んでしまったようです。
迷路の中に生息する凶暴なミミズ達も妖精の身体で相手をするのは難儀ですが、
時間をかければかけるほど、モグラ達はどんどん迷路を複雑に作り変えてしまいます。
何とかして、白い光を見つけ出し、共に脱出を果たしましょう。
<登場NPC>泉 竜次先生(ウンディーネ):芸術的な迷路だな! と瞳を輝かせています。
【8】光の沼地でガマガエル達を倒そう!
光を帯びた沼地では、ぴょんこぴょんこと跳ねる悪者ガマガエル達に囲まれて、
白い光がぷるぷると震えて身動きが取れなくなっています。
いっぱいいるガマガエル達を何とか倒して、白い光を助けましょう。
なお、ガマガエルの舌攻撃はリーチがとても長い&麻痺効果があるのでご注意を。
<登場NPC>吉田 熊吉先生(ノーム):夢だろうがカエルだろうが、弱い者いじめは許さんぞバカタコがっ!
【9】獰猛なモズ達から白い光を助けよう!
縄張りにでも侵入したのか、小柄ながらも獰猛なモズ達に白い光の1つが追われています。
自由に素早く飛び回るモズ達に白い光が捕まらないよう工夫しながら、モズ達を撃退しましょう。
捕まえた獲物を串刺しにする『はやにえ』の餌食にならないよう、どうか気を付けて……。
また、モズの激しい鳴き声には、妖精の動きを瞬間止めてしまう効果があります。
<登場NPC>野菜原 ユウ(パック):何だかよくわからないうちに、白い光と一緒に追いかけられています。
【10】森のギャング・巨大蛇から白い光を助け出そう!
森の動物達からも一目置かれる巨大蛇に、白い光の1つが呑み込まれてしまいました。
蛇は、妖精化したPC様達から見ると化け物のような大きさですが、何とか倒して白い光を助けましょう。
巨大蛇は、締め付け、薙ぎ払い、噛み付き(毒あり。噛みつかれてから数分で動けなくなります)の他、
敵を竦んで暫し動けなくさせる蛇睨みも駆使して手に入れた餌を逃すまいと暴れまくります。
<登場NPC>海原 茂(ウンディーネ):寝子島のフツウの為に戦います。読書は一旦封印。
【11】水晶の小川の畔で白猫の幻を倒そう!
澄み切った水が煌めく小川の畔には、水晶が群生しています。
水晶には白猫の姿が映っており、触ると白猫が現れる……のですが、それは悪しき幻。
分身を繰り返し、鋭い牙や爪で襲いかかってくる幻の白猫を全部倒しましょう。
討伐に成功すれば、水晶に囚われていた白い光が解放されます。
<登場NPC>四十九院 鸞先生(ウィル・オ・ウィスプ):水晶に興味津々。あらあらまあまあ、大変ですわぁ。
【12】切り株の庭で猫達と戯れよう!
森の中のある拓けた場所は柔らかな光に満ちており、遊んで! モードな猫達が、いっぱい集まっています。
妖精の姿からすると巨大な猫達と、もっふもっふ戯れることが可能です。もっふもっふ!
<登場NPC>テオ(ウィル・オ・ウィスプ):身も心も妖精化して、猫達ときゃっきゃ。大きさは2cmくらい。
また、このシナリオでは、お好きなように妖精の森での時間をお楽しみいただくことも可能です。
例えば空を飛ぶ練習をしたり、光る花を観賞したり、水晶の小川で水遊びしたり……等々。
妖精としての時間、思い思いにお過ごしくださいませ。
それでは、いつもとは目線の違う世界でお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします!