そこは寂れた教会。
誰も礼拝に来なくなってから長くの時間を経た『既に役目を終えた教会』であった。
優雅であったであろうステンドグラスは割れ、在りし日の姿はわからない。
配置されている椅子やピアノなどの設備もぼろぼろで床の石畳は所々が剥げ、草木や土が露出している。
「さて、後はこれをあそこに刺すだけなんだべな?」
そう言った
鈴野 海斗は手に持った黒色の剣を眺める。
黒い柄に剥き出しの黒い刀身、そして吸い込まれそうになるぐらい怪しい輝きを放つ黒水晶がハンドガード部分にあしらわれていた。柄と刀身には『ちーあのふーいん』と幼い字で書かれた札が貼られている。
『……よ……あ…………が……』
何かが頭に聞こえてくるのと同時に、彼の心の内で何かどす黒い何かが起き上がりそうになる。
だが彼はその声を無視することでその暗い感情を押し殺した。
「そうなのですっ! あとはそれをあそこのステンドグラスの光が差し込む場所に刺せば、今回の事件は解決なのですよ!」
そう彼の傍らで元気いっぱいに主張するのは水色髪の少女ちーあ。背丈は小さく、長めのキャミソール程度の薄布一枚しか羽織っていないがすとーんぺたーんの為かそこに色気はない。若干服の下に肌色が透けて見えるが、どう見ても子供のそれである。
彼女こそが彼をこの世界に召喚した張本人である。
自由に異世界を渡り歩き、そこにある程度任意の人物を召喚する事の出来るのが彼女の力である。
今はとある異世界の小さな村にて起きた異変を解決している所であった。
「割とあっさりでしたねー。夜の通り魔事件が発生しているっていうから調査しましたが、結局妖しい呪われた刀剣があっただけで……浄化すれば終了なんて。拍子抜けなのです。簡単に終わりすぎて……まだ何かある気がするのです……」
海斗はそういうちーあに笑いながら返す。
「犠牲になってしまった人達は残念だども、それ以上の被害が出る前に解決できたっちゃね、何かあるかもって思うちーあの考えはもっともだけんども、あとは浄化だけっちゃ。多分……あんまり心配しなくても大丈夫なんじゃないべな?」
彼の言う通り、今回の事件は召喚された者達の中には負傷者がいない。
というのも調査に赴いた彼らが目にしたのは禍々しい気配のみを放つ黒い刀剣で、通り魔を行っていたと思われる人物の死体が近くに転がっていたからである。
故に戦闘もなく、妖しいアイテムの回収と浄化という事態となったのであった。
「そーですけど……なんだかやっぱり簡単すぎる気がするのですよ。まだ何かありそうな……うーん……むむむ」
腕を組みながら悩むちーあであったが目的の場所に近づくにつれ、取り越し苦労だろうと思うようにし悩むことをやめた。
「あっ、あそこなのです! その光の中心に刺すのですよーっ」
ちーあは他の召喚者に肩車されながらステングラスの光が零れている場所を指差した。
海斗はその場所に近づくと、黒い刀剣を床に突き刺す。
その瞬間、床から黒い瘴気が溢れ出し辺り一面を闇色に染め何者かの声が響き渡った。
『この時を、待っていたァァーッ!!』
吹き上がる瘴気の奔流に弾き飛ばされ海斗は床を滑るように転がった。
「うぁぁぁああっ!?」
起き上がった海斗が目にした物は黒い刀剣を握る漆黒の甲冑を纏った黒騎士の姿であった。
その姿は巨大で言うに10メートルは超えていた。
巨大な黒騎士は闇色のマントを翻し辺りに瘴気を撒き散らす。撒き散らされた瘴気の塊が床や壁に付着するとその部分から這い出す様に剣と盾で武装した黒い骸骨達が現れる。
「な、なにが起きて……ッ!?」
側面からの殺気を感じ、海斗は腰にぶら下げていたロングソードを抜き放つと物陰から急襲してきた骸骨戦士――スパルトイの剣を受け止める。
スパルトイの力は強く、骨だけとは思えないパワーで押し切ろうとするが海斗はその攻撃をなんとかいなすと体勢を崩したスパルトイの脊髄を両断する。
脊髄を両断されたスパルトイは自重を支えられなくなり、その場に崩れ落ちて活動を停止した。
「きゃああああぁぁぁーーッ!」
後方から聞こえた悲鳴に振り向くと、ちーあが先程彼女を肩車していた召喚者に襲われている所であった。召喚者の身体からは瘴気が立ち上っている。
召喚者はゆらゆらと揺れており、手には黒騎士と同じ刀剣が握られている。
「あれは! くっ……瘴気にあてられてしまったべか!」
力任せに振り回される刀剣を転がっていた長椅子を盾にぎりぎりで避けながらちーあは逃げた。
「あうっ!」
しかし崩れた床に足を取られ、ちーあは盛大に顔面からすっ転ぶ。
痛みに耐え、立とうとするちーあであったが、足を挫いたらしく上手く立ち上がることができない。
その間に召喚者は彼女との距離を詰め、大きく剣を振り被った。
振り下ろされるその刹那、黒い刀身を白い刀身が受け止める。それは寸前の所で間に入った海斗であった。
彼は押し返す様に召喚者の剣を弾くと空いた手でちーあを引っ掴み、力任せに教会の扉目掛けて放った。
「うきゃぁぁぁあああーーー!?」
砲丸の玉の如くちーあは扉にすっ飛ぶと激突し、衝撃で開いた扉の外の地面に転がった。
よろよろと起き上がったちーあの目の前で海斗とまだ正気を保っている他の召喚者数名が扉を閉める。
ちーあは扉を叩きながら叫んだ。
「何をしているのです!! そんな瘴気の中にいたら、正気を失ってしまうのですよ!! 早く外へ――」
「ごめん。それはできないべよ。もし、今ここでオラ達が外へ逃げたら誰がこの化物達を止めるんだべ? こいつらを外へ出しちまったら、近くにある村に必ず影響が出るべ……そんなことは見過ごせないべよ」
扉越しに悲鳴や剣戟の音を聞きながら、ちーあは俯いて拳を強く握った。彼女もわかっているのである、他に方法がないという事を。
「うう……でも、でも――」
「大丈夫、簡単にはやられる気はないべ。ちーあなら救援を呼ぶことだってできるはず……後は任せるべよ、ちーあ」
涙目になりながらもちーあは力強く頷いた。
「う、はい、なのです……っ!」
扉越しにちーあの走り去る音を聞き、安堵しながら海斗は剣を構え直す。
教会内の瘴気は既に濃く、いつ意識を失ってもおかしくはない程であった。
現に彼の右手は意志に反するように震えている。気を抜けば傍の誰かに考え無しに斬りかかってしまいそうなほどである。
鎌首をもたげようとしているどす黒い感情を抑え込みながら、彼は荒い息を吐いた。
「はぁ、はぁ……わりぃけども、この扉は抜かせないべよ」
◆
教会から少し離れた森の中、ちーあは木の根に足を引っ掛け転んでしまう。挫いた足がじくじくと痛みを増していた。
「あうっ! ……う、く。早く、早く……行かないと……みんなが……!」
自分のせいだ、警戒を怠った自分のせいであの危機的状況が引き起こされたとちーあは自らを責めるが……涙しながらもその足を止めずに歩いた。
涙しても立ち止まることは決してしてはいけない、そう大切な人達から学んだのだから。
よろよろと歩きながらちーあは村の入り口に到達する。
「はぁ、はぁはぁ……ここなら、再召喚……できる、のです!」
長い森を抜けて疲弊している体を根性で動かし、再召喚を行った。
ちーあは目を瞑って祈る。
(お願いです、今、危機に瀕しているのです……誰か、誰か……みんなを……救って欲しいのです……どうか、どうか……!)
願うちーあに応える様に光の柱が立ち上り、空を衝いた。
◆
時刻は夜。
悲痛な少女の声に目を覚ました時、目の前には人一人が入れるぐらいの魔法陣が床に描かれていた。
夢現で聞こえた少女の悲痛な叫びが気になり、魔法陣の中へと足を踏み入れると視界が白く染まっていった。
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
今回は一部登場人物は登場しますが、直接マシナリアシリーズとは関係ない一話完結のお話となる『断章』編です。
本筋とは関係のないサイドストーリー的な物と思って頂ければ良いかと思います。
さて、今回の目標は『黒騎士の討伐、呪われた剣の破壊』となっております。
以下に記される情報は事前にちーあから聞いて知っているという事でもOKですし、知らないという事でもOKです。
なお、ろっこんが強力に描写される場合があります。
今回は敵の瘴気で正気を失っている、という参加方法もOKですので振るって御参加くださいませませ!
●場所について
・廃墟の教会
村はずれの森を抜けた先にある教会です。今はもう教会として使われていません。
中にはかつての教会の名残が残っている程度です。
最奥部分に黒騎士が鎮座し、それを守る様にスパルトイが配置されています。
なお、正気を失った別の召喚者が紛れている可能性があります。
彼らは一様に黒い刀剣のイミテーションを持っており、それが何らかの影響を及ぼしているようです。
●進行ルート
※あくまで例ですのでこれ以外の参加方法もお待ちしております。
◆黒騎士と対峙する
巨大な黒騎士を相手にします。巨大と言えどもその速度は速く、鈍重な相手ではありません。
更に黒騎士の鎧は頑丈で並の攻撃ではびくともしません。
首元のペンダントの保護効果により『破壊する、引き剥がす』等の
直接鎧や刀剣に影響を及ぼすろっこんを無効化する模様です。
狙いたい所ですが、剣速や動きが巨体のわりに素早く簡単にはいかないでしょう。
何かペンダントには黒騎士の過去と関連性がある模様ですが……。
・スタート地点
※このルートの場合のみ、教会に閉じ込められていたというスタートが可能です。
その場合、長く戦闘を行っていた為に体力、装備、所持品などが疲弊、消耗した
状態での苦しい開始となります。
教会に閉じ込められていた場合:教会
村から召喚されて向かう場合 :村
<出現予測>
・黒騎士
・スパルトイ
・正気を失いし者
◆黒騎士の過去を探る為、村の歴史を紐解く
直接的な戦闘はないルートです。村人に協力して貰い、村の資料や年配の村人から黒騎士に関する話を聞きます。
過去に何があったのか、黒騎士とは何なのか、それに迫るルートとなります。
もしかしたら、攻略の糸口が掴めるかもしれません。
・スタート地点 :村
◆森にて湧き出す魔物を食い止める
教会から漏れ出した僅かな瘴気の影響によって、村と教会の間にある森に
骸骨の魔物『スパルトイ』が出現しています。彼らはゆっくりと村へと向かっており、
放っておけば村に被害が出てしまいます。
また、教会にいる黒騎士が倒されない限り次々と数を増やしていきますので
ご注意ください。対多数戦闘が予測されます。
なお、スパルトイを指揮する赤いスパルトイが目撃されており、他の個体よりも
多少強力なようです。
・スタート地点 :村
<出現予測>
・スパルトイ
・レッドスパルトイ
●ちーあの支給品
※支給品は一つだけ選べます。
・魔力を帯びたロングソード
切れ味上昇効果の付いたロングソードです。
見た目のわりに軽いので力のない方でも簡単に振り回せます。
たった一度だけ光の剣の如く刀身を輝かせ、強力な一撃を放てます。
なお、放った後に剣は壊れてしまいます。
・ちーあしーるど
薄く硬い大きな盾です。角部分が刃のように鋭いので刀剣の様に扱うこともできます。
それなりの重量がありますので、力に自信のある方でないと持ち運ぶ事すら不可能でしょう。
なお、後ろに謎のボタンがありますが押して何が起きるかは不明です。