むかしむかし、
ある電気も蒸気もない剣と魔法の世界に、互いがそれぞれ世界の半分を治めている、とても仲の良い二人の王さまがおりました。
──しかし、そんな不思議なほど幸せであった二国は、
国境を跨いだ、とある不慮の事故により、民の世相が一気に険悪となりました。
それが戦争に至るまでには、本当に大した時間は掛かりませんでした。
二人の王は自国の民を説得しましたが、怒りに溢れた民はそれを聞きません。
『完全に団結した人の集団』を前に、王とは言え『たかが二人の人』が何か出来る訳もなく。
こうして二国間の王を抜いた『完全な民意』による戦争が幕を開け、世界は混乱と血に満たされました──
実質的に無力となった二人の王は、争う民を説得する為、互いが前線に赴く約束を密かに取りつけます。
しかし、王が己の城を出て数日。情報の一部が漏れており、いつしか『王が悪である』と風評が立ち、それを真に受けた民が王城を占拠。
そして、
一人の王は妻と子供を、もう一人の王は長く連れ添った婚約者が暗殺された訃報を伴って。
前線である火矢で焼け焦げた巨大な樹が一本生えた丘へと辿り着きました。
……二人とも、同じ瞳の色をしていました。
大切なものを奪った国民も、止められなかった自分も許せない。
この戦争を『説得で止めようなどとした事が、そんなにも無意味であったなら。皆の望み通り、力尽くで根こそぎ奪い取る事で止めてやる』と──
そして、二人の王は、伝承に残る『禁忌』と呼ばれる存在に『常しえの安らぎ』──万物に与えられた最後の休息『死ぬことが出来る権利』を差し出し『永劫を生きねばならない苦しみ』を受け取ることで、大変な力を手に入れました。
二人の王はその力を限界まで使い『二度と同じ悲劇が起きないように』世界を原形を留めない程まで変化させました。
世界中の争う人々が、例外なく次々と「いぬ」と「ねこ」になっていきます。
争っていた民の間に切り裂かれた空間という亀裂が走り、互いの国の接点が切り離されます。
そして、最後に。
自分も例外なく、人間を変えたのと同様にねこになっていく王と、
親しい交流もあった相手の国の繋がりを斬り捨てたいぬになっていく王の姿。
そうして、完全にねこの姿となった王が、別たれた世界がもう二度と触れあうことのないように。
ねこの王国となった世界側に強固な結界を張ることで、もうどちらの王も国民も、互いが二度と出会うことのないようにしたのです。
【解読されていない粘土板より】
◆ ◆ ◆
「もうダメにゃ! どこまでも話を聞いてくれないなら、こうなったら実力行使しかないにゃ!」
『犬と猫の中立共存を目指す会』のトップである『会長』自らが高らかに、集まった同志へと恒例のだらだらした演説の代わりに大きく叫んだ。
「いぬとねこのトップを倒し、我々が新しいいぬねこの世界を作るにゃ!
武力行使も辞さないにゃ!!」
いつもの、かつお節とビーフジャーキーを掲げながら、現状への愚痴と未来への希望を語るだけだった会議は、ざわりと色めき立った。
「流石にそれは強行すぎないかワン?」
確かに、ぐだぐだだった現状の打破には、もはやそのくらいでなければ難しい。しかし、武力行使など慣れていない仲間の一匹が口にする。
「なに、命を取るなんてそんな恐ろしいまねはしないワン。
とりあえず二匹とも投げ網で捕まえてから……」
会長もそこで詰まった。何も考えていなかったのである。
「──から……なんとかするにゃ」
と、無理やりに言葉を繋げて誤魔化した。
「しかし、何と『かつお節占い師』のありがたい助言によると、
『二匹をいっぺんに捕まえられる上、いぬとねこの世界が繋がる』世界規模の天変地異的タイミングがあるにゃ!」
今度こそ、周囲は少しの驚きを置いて、一気に興奮に包まれました。
──捕まえることはともかく、これで良く分からないが、いぬとねこが一緒に暮らせる土壌が出来上がると。
「これはチャンスにゃ。
これを逃したら、次はないワン。
決行ーーーー!!」
◆ ◆ ◆
二本足で立つ猫『ねこの王さま』は、清々しく
風の吹き抜ける大きな丘に立っていた。
ここは遙か昔、戦争が行われていた時の最前線。今は、その痕跡も残すことのない草原が広がっている。
「変わったニャ……ここも」
ねこの王さまは、かつてここが、争いで焼け野原となった光景を思い出す。
ずっと『いぬ』の国と切り離されたこの『ねこ』の国に、誰をも寄せ付けない結界を張り、これまで『ねこ』の民を見守り続けてきた。
今日もそれを守ろうと、この空間に張った結界を確認しに来た──のだが。
瞬間、
ねこの王さまは、透明なガラス玉が一斉に割れるように、その結界の要である『結界魚』が一斉に弾き飛ぶ音を聞いた。
「なっ、ニャにが!!」
ねこの王さまが慌てて辺りを見渡すと、空には、この世界のものではない、今まで見たことのない程の巨大な塔──
星幽塔の姿があった。
「異界のものが結界とぶつかったニャか! まさか全ての結界が壊れるニャとは……急いで張り直しを──!」
「おい! 何が起きているワン!?」
ねこの王さまに動揺が隠せないでいる中、更にそれを逆なでするように、一匹の二本足のいぬ──『犬のしょうぐん』が現れました。
犬のしょうぐんの話によると、自分が切り離したはずの世界が、今完全に繋がっており、結界も突然消えてしまったことから、緊急で確認しに来たとのこと。
「いぬとねこの世界、全ての結界が壊れてしまったニャ……!
せめて結界だけでも張り直したいニャ。
丁度いいニャ、少し大至急で手伝って欲し──」
「──させないニャ!」
ねこの王さまと犬のしょうぐんの前に、このタイミングをずっと待っていたとばかりに『犬と猫の中立共存を目指す会』の『会長』と、木の棒と石で武装した二十匹前後のいぬとねこが現れました。
「これは『犬と猫の中立共存を目指す会』にとっては絶好の機会だにゃ!
共存への話すら一切聞こうとしない、おまえたち二匹を『こうそく』してトップを降りてもらい、国中が繋がった今こそ、そのままこの世界全てにいぬねこがあふれる
新しいいぬねこの国を作るのにゃー!」
声高々に語られた会長の言葉。
ねこの王さまと犬のしょうぐんが顔を見合わせる中、いつの間にか二匹を包囲していた陣が狭まり、投げ網を持ったいぬねこが少しずつ近づいてくる。
二匹はお互いに顔を合わせつつも、視線を下に落としたままでお互いが会話を交わすように呟いた。
「……いつか、中立共存を求める声が出始めた頃から……こんな日が来るのではないかと思っていたニャ」
「諍いを終わらせた、失うことから解放した……なのに、また同じことを繰り返すワン……『ただひたすらに平和な世界』の何が悪かったのかワン」
落としていた視線を上げて、同じ沈痛な面持ちで、互いの顔を見合わせた。
「貴様。
隙を作るから、お前は逃げるワン。
もし上手く追い払えたとしても、結界が張れなければ意味がないワン」
「……非常に釈然としニャいが、了解したニャ。
そちらこそ、どんな考えであろうと『民』である事には変わりないニャ。傷付けないようにするニャ」
「ああ。
──あーーーー!! 謎の飛行生命体がいるワンッ!」
犬のしょうぐんは大きな声で空に浮かんでいる星幽塔を指差し、鼓膜がはっきり震えるほどの大声を上げた。
取り囲んでいたねこはその大声で一斉に動きを固め、いぬは目を輝かせてそちらを見上げる。
ねこの王さまはその隙に、取り囲んでいたいぬねこを四本足で大きく飛び越えて、その場から背を向け全力で走り出した。
どこまでも続いている草原の丘で、わずかに追っ手を振り切り。
ねこの王さまは、澄み渡る晴れた空を仰ぎ見ながら考えた。
「吾輩は……自分達は、間違っているのだろうか……」
皆様こんにちは。この度MSをつとめさせて頂きます冬眠と申します。
今回は、長く途切れ途切れに出して参りましたシナリオ『いぬ』と『ねこ』シリーズの一区切りとなります。
どうか宜しくお願い致します。
○【ハロウィン】いぬねこ合わせてハロウィンパーティ!!
○~いぬイヌの国~満開のさくら祭り
主にこちらの2つのシナリオと連動しておりますが、
特に読まなくても問題ありませんし、有利不利も発生しないものと思われます。
それでは長くなりますが、以下より状況説明から行わせて頂きます。
状況/現在まで
▼これまでの経緯
空間を隔てた世界に、お互いの存在だけは知っている程度の、二本足で器用に活動する『いぬ』と『ねこ』が住む世界がありました。
互いの国のトップは、世界に結界を張り不可侵を決めていましたが、時間を掛けて交流は少しずつ緩和へ。
その中で、いつしか国民が独自に考えて生み出した『犬と猫の中立共存を目指す会』は、逐一許可などを取らなくても、互いの同じ空間での共存がしたいと、何度もトップに訴え掛けましたが相手にされず。
そして偶然、空間に接触した星幽塔が、いぬねこの世界中の結界を壊してしまった隙に、ついに揃ったトップ二匹を捕らえて、新しいいぬねこの国を作ろうと、作戦を決行に移したのです。
▼現状
・参加PC様は、ここで起こった状況を理解した状態で丘の上に召喚された状態からスタートとなります
・犬のしょうぐんは捕まっており、既に姿が見えず、代わりに空には浮いている大きな星幽塔が見えます。
・あちこちに、ガラスを割ったような黒い穴が見えています。
そこから、『寝子島のエノコロ岬』『犬と猫の中立共存を目指す会の本拠地』へと移動ができるようです。(出入りは自由です。地域詳細は後述)
行動について
▼何が出来るの?
・草原の丘到着後は、この事態にかかわる行動でしたら自由に行動して頂けます。
※いぬかねこの姿で召喚されます。
アクションにて、必ず『いぬかねこ、二本足か四本足』の記載をお願い致します。
※所持品は、強制的に異世界へ来てしまった為、日常的な品でも持ち込めない場合がございます。あらかじめご了承ください。
PC情報(自由にPC様へ落とし込むことができます)
ガイド本文に起こったことは、脳裏に光景が見えた、ねこの王さまから聞いた事などとして、全て事前情報としてお取り扱い可能です。
▼いぬねこ情報
○ねこの王さま
金茶の毛並みを持つ、賢しい短毛種です。今回は、広い草原の丘のどこかにいます(アクションにご記載頂ければ、簡単に会うことが出来ます)
・今回の目的
『犬のしょうぐん』を救出して『いぬとねこの中立共存を目指す会』を叩き出した後、新しい結界を張り直し、もう本当に二度と交流が出来なくなるように、と考えています。
しかし、この現状に動揺しており、自分の行動が本当に正しいのか少し疑念に思っています。
過去に持っていた力は殆ど使い果たしており、争いなどの役には殆ど立ちません。
○犬のしょうぐん
黒中心に顔周りから足に掛けて白の体毛をした体躯の良い大型いぬです。
猪突猛進型ですが、今回は捕まってしまい「しょうぐんをやめれば解放してやる」という脅迫に、うんと頷くまで監視付きで正座をさせられています。いぬの骨格ですので非常に疲れます。
ねこの王さま同様、過去ほどの力はありませんが、回復すれば『いぬとねこの中立共存を目指す会』のいぬねこを追い返す程度くらいの強さを発揮します。
・今回の目的
回復したら、ねこの王さまに合流し、そちらの目的の手伝いをします。
○いぬとねこの中立共存を目指す会 会長
使命感に燃えるねこで、薄茶色の短毛種です。実質今回の騒動の主格です。
周囲の過激思想派の熱気に乗せられて、冷静さを失っています。
・今回の目的
『不老不死である、ねこの王さまと犬のしょうぐんを捕まえてどこかに監禁したのち、自分達の手で新しいいぬねこの世界を作る』と考えています。
PL情報(知る為に、アクションにて事前に調べるなどの一手間が必要になります)
○『犬と猫の中立共存を目指す会の本拠地』
一件の丸太小屋と、ただ草原だけが広がる世界です。
小屋は、とても可愛いデザインで二階建て。
外には、見張りで木の棒と石を持ち、武装したいぬとねこが5匹。中には10匹程度のいぬねこと、それをまとめている『いぬとねこの中立共存を目指す会 会長』がいます。
犬のしょうぐんも、ここにいるようですが、作戦無しに一人で向かっても返り討ちに遭います。
タイムリミットは?
○約3日で、寝子島に強制的に戻されてしまいます。
注意事項
▼アクションについて
○完全に競合するアクションが発生しました場合には、
内容の吟味と併せまして、ダイスによるマスタリングを行う可能性が御座います。
※そのマスタリング結果によりましては、競合した方どちらかの行動が反映されますが、
成功失敗問わず、その結果がエンディングにて良い方向へ向かうとは限りません。
○今回の難易度は高く、皆様の行動次第にて、結末は希望的なものから絶望的なものまで大きく変動致します。明確な目的があられる場合は、軽い相談等もご利用ください。
○この度のアクションでの『多数箇所への移動、多行動』は少ない方に比べて描写・成功率共に下がる事がございますが、どうかご了承頂けましたら幸いでございます。
皆様に、一つの世界の帰結をお任せ致します。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。