それは突然。星幽塔の一階層にて動き出した。
物事が起きるのはいつも突然である。
それが望もうと望まざると、起きてしまった事柄は勝手に動き出す。
止まらぬ歯車の様に。
そこは星幽塔第一階層の街から離れた深い森の中。
誰も知らない場所。
黒いローブの女が二人、地面に描かれた魔法陣から這い出してきた。
一人は背が小さく、ローブからさそりの尻尾が見えていた。
もう一人は体格が大きく、ローブの下は鎧ではないかと思えるほどに布地を盛り上げている。
「ああ、くっそ俺の尻尾に傷がついちまったじゃねぇかっ!」
「……お前がじたばたと暴れるからいかん。元々狭い通路をこじ開けて無理やり出たのだ。スコルピオス、貴様が悪い」
大きな体格のローブの女はサソリ尻尾の女をそう呼んだ。
するとスコルピオスと呼ばれた女も尻尾をぶんぶんと不機嫌そうに振りながら相手の大きな女をこう呼んだ。
「タウロス、おおざっぱすぎるてめぇには言われたくねぇなッ! あぁッ!? いいぜ、やんのか牛野郎!」
「私は女だから野郎は適切じゃない。訂正しろ……!」
「はぁッ!? おめぇのどこに女らしさがあるってんだよ? お? お? でかでかしいその胸ぐらいなもんだろうが、いいぜ、訂正してやるよォッ! 胸だけしか取り柄のない牛女ァッッ!」
「貴様……私を愚弄しているのか……ッ!」
言い合いを始めてしまった二人から少し離れた位置にある少女がいた。
彼女は突如この場所に召喚されてしまったのだが、そこで運悪く彼女らに遭遇してしまったのである。
放つ雰囲気から危険を察知し、見知らぬ場所でありながら彼女は慌てることなく冷静に判断を下す。
「……見つからないうちに……退散したほうがよさそうですね」
北条 冬華は草むらに身を隠しゆっくりと後ずさる。手を伸ばし草木に触れないようにしながらゆっくりと行動した。
年の割には発育がいい彼女の双球が揺れ、見る者によれば眼福だったかもしれない。
だがここに彼女とローブの女性達以外の人物はいなかった。
冬華は細心の注意を払ってゆっくりと後退していく。
なぜなら夜とはいえ、月明かりがある場所。彼女の銀色の髪は光を反射しやすく、目の前のローブの女性達のような明らかな一般人ではない人物達からしてみれば暗闇でのよい目印となってしまうだろうからである。
その時、最悪の事態が起こった。
冬華の足が落ちていた木の枝を踏み折ってしまったのである。
静かな夜にぱきっと高い音が響き、言い合いをしていたローブの二人はピタッとその動きを止めた。
しばらくの沈黙が訪れる。
その静かな中で最初に言葉を発したのはタウロスであった。
「……どうやらお客人らしい。これはもてなさねばなるまい」
「そうだなァ、まずはこっちでの肩慣らし……あいつでさせてもらうのも悪かねぇ……」
タウロスがローブの下から身の丈以上もある大剣を取り出すとそれを構えて突進する。
機械式の機構が蒸気を吹きだしながら彼女の速度を更に上げた。
スコルピオスもそれに続くが武器らしい何かは持っているようには見えない。
不味い、逃げられない……そう思った瞬間、ローブの二人と冬華の間で黒い光が炸裂する。
「ぐっ、これは……奴か!」
「ぐぅぅああ!? ふざけ、んなあぁぁ! また邪魔するのかァ! アルティスッ!」
「今よっ! 走ってっ!」
ローブの二人は顔を押さえて苦しみ、その足を止めていた。
直後、冬華は何者かに手を掴まれ引っ張られる。
先ほどの闇の光でいまだ暗闇の中にいる様な視界の冬華にはその人物が何者か窺い知ることは出来なかったが、差し迫る危険から退避する為に引かれる手のままその人物について走った。
◆
しばらくして、少し離れた場所にあった材木小屋へと二人は身を隠す。
「あの、あなたは? どうして私を……?」
やっと視界がはっきりとしてきた冬華はその女性に尋ねる。
女性は長い黒髪で赤い目をしていた。年は冬華よりも若いのだろう、背は低くその雰囲気は中学生ぐらいに見えた。
「私はアルティス。なんだか見てられなかったの。目の前で誰かが死ぬのは……もう嫌だから。貴女こそ何であんな所に?」
「わかりません。気がついたらあそこにいたんです」
「あちゃー、巻き込んじゃったのね。ごめんなさい、私がこっちに来るときにどうやら遠く離れた場所にいるはずの貴女を巻き込む形でここに転移してしまったようなの」
「それは、なぜ?」
「普通はこんなこと起きないのだけれど、もしかしたら私達のどこかに似てる所があったのかも知れないわ。ま、外見的な特徴とは限らないのだけれど。えと、すぐには起動できないけれどゲートを設置しておくわ。朝の光が当たれば起動して貴女を元いた場所に帰してくれるはずよ」
アルティスが地面に向かって呪文を唱えると小さな白い魔方陣が床に描かれた。
白い魔方陣は淡く明滅している。
「貴女はここ、表――ううん、星幽塔の人ではないのでしょう? だったらあそこには近づかない方がいいわ。今日、あそこはとても危険な場所になるから」
背を向けアルティスと名乗った少女は細い長剣を抜き、外へと出ていこうとする。
その姿を見て、冬華は彼女を引き止めた。
「待ってください。一人であの二人相手にどうするっていうのですか……勝ち目なんて――」
「大丈夫、これは私の不始末。偶然来てしまった貴女には関係のない事よ」
出ていこうとするアルティスの腕を冬華は掴んだ。
それを見てアルティスが尋ねる。
「どういうつもり? 貴女には関係ないと――」
「――なんだかこのまま行かせてはいけない気がしたんです。よければ、話してもらえませんか?」
少しの間、アルティスは考え込んでいたがゆっくりと目を閉じると冬華の申し出を受け入れた。
「……わかったわ。あいつらは星幽塔のアステリズムと対をなす……そうね、闇のアステリズムとでも言えばいいかしら。ある大罪を犯して随分と昔に地の底へ封じられていたんだけれど……少し前にその封印が綻んでしまったのよ」
「それが綻ぶとどうなるんです? すぐに出てきてしまうのですか……?」
アルティスは分かりやすくその場にあった紙にペンで図を書き記す。
それは星幽塔第1階層から下へと12階層分、図が描かれる。
「ううん、すぐに全てが出てくるなんてことはないわ。まずは地表に近い二つの星座の層……金牛宮と天蝎宮の奴らのどちらかが来るはずなの」
どちらかと言われ、冬華は先ほど二人いたローブの女性達を思い出す。
「……二人いました?」
「そうなの。本来は一人のはずが二人いるのよ。恐らく無理やりにでももうひとりついてきたんでしょうね。彼女らはこのままだと第12階層まで直通のゲートを開いてしまう……そうなる前にそれを未然に防がなくちゃいけないの。もし開いてしまったら闇のアステリズムが手勢と共に一気にこちら側へ出てきてしまうわ。それだけは絶対に避けないと……」
アルティスによればあの二人を撃破し、魔法陣を閉じることで闇のアステリズムは再び地の底で眠りにつくという。そうすれば、誰かが故意に開かない限り、安全であると。
「こういう事だから、貴女を連れていくわけには――」
「…………」
無言のまま見つめる彼女の姿にアルティスは思う。
恐らく置いていってもついてくるのではないかと。
ふうっと息を吐くとアルティスは表情を柔らかく崩した。
「わかったわよ、危なくなったら逃げて。後、無理はしない事。いいわね?」
「はいっ」
◆
「あのくそアマがァァァッ!」
薙ぎ払うように振られたスコルピオスの蠍の尻尾が森の太い木々を圧し折る様に倒した。
ずずん、と地鳴りが響きそれに驚いた鳥達がバサバサと飛び立っていく。
「カァァァァァァァァッ!!」
タウロスが咆哮すると青白い波動が鳥達目掛けて広がり、彼らは見えないハンマーに叩き落されるかのように地に落ちた。
「容赦ねぇな、お前……」
「鳥であろうと、虫であろうと目撃者は消す。これが我らの掟だ」
身の丈ほどもある大剣を振り回し、各部のパーツにおかしな所がないかを確認するとタウロスは大剣を背中に収めた。
「虫ですらぁ? バカなのお前。どんだけいるとおもってんだよ、この周り虫だらけだぞ」
そういうスコルピオスを鼻で笑うとタウロスはその場に座った。
「例え話だ。それぐらいわかると思ったが?」
「けっ、わかってるよ! ただの皮肉だっての! それにしてもアルティスの奴、またしても邪魔しやがって……だが、ゲートが開くまで後数時間……ここのアステリズム共は上の方へご執心、ここには興味もなければ知りもしないだろ。案外、アルティスいたぶってる間におわっちまうんじゃねぇの? この任務」
切株に腰をおろし空を見上げるスコルピオスにタウロスは顔を向けずに答える。
「そう上手くはいかんだろう。この塔の外、寝子島と呼ばれる場所の住人達は手ごわいと聞く……ここにも何れ来るだろう。そうなれば……まさかがあるやも知れんぞ」
「はっ! ただの人間風情に俺らゼツボウノアステリズムが負けるわけねぇだろっ!」
「ふっ……だとよいがな」
夜は更けていく。
誰も知らない危険をはらみながら。
ゆっくりと歯車は回る。
人知れず。
静かに。
ただ静かに。
絶望の未来へと。
お初の人もそうでない人もこんにちわ!ウケッキです!
星幽塔にて初シナリオなのにやたらと何か渦巻いてたりしちゃいます!
まずは注意事項をば!
※ろっこん、星の力などが普段よりも強力に描かれる場合があります!
※進行中の私のマシナリアシリーズとは一切関係がありません!別シリーズとなります!
概要
今回の最終目標は『タウロス、スコルピオスの撃破もしくは撃退』『魔法陣を閉じる』です。
この事件を知らずに遭遇したといった形でもいいですし、
救援要請を受けて駆け付けた、としてもいいですし、各々の自由で大丈夫です。
アルティスさんと出会って事情を聞いた場合のみ、彼女から下記の武器が一つだけ支給されます。
使用してもいいですし、使用しなくてもいいです。
魔法陣はどうなるのか!?
ゼツボウノアステリズムとは!?
それは徐々に明かされていくことでしょう。
それでは皆様の活躍をお待ちしております。
【支給されるアルティス製の武器】
・ダマスクスソード
軽くて強いダマスカス鋼製の長剣です。軽い為、女性や子供でも軽々と扱えます。
切れ味は鋭く、柄に巻かれている紐を全て解く事で星の力を強化してくれるようです。
ですが力を強化できるのは精々1分程度で、その後は剣が崩れ去ってしまいます。
・試験型魔術杖
アルティスがどこからか持ってきた機械式の魔法の杖で、自身の星の力に関係なく『炎』か『氷』の魔法が扱えます。
一般的な人の身長ほどある長い杖で、杖下部のスロットで『炎』か『氷』を選択し、杖の中心にあるトリガーを引いて魔法を『発動』させます。
魔法の『発動』後は排熱機構が作動し、排熱が完了するまでの数分間の間使用不能となります。
【場所】
星幽塔第一階層『サジタリオ城下町』から遠く離れた『レインダスト村』のはずれに広がる森林。
太い木々が多く、樹木が密集していたがタウロスとスコルピオスによって
切り開かれ、ある程度見通しの良い広場となってしまっている。
【時刻】
時刻は夜10時頃。月が出るほど空は晴れている。
【ルート】
1.タウロスと戦う
アルティスが参戦します。
闇の金牛宮のアステリズムと思われる『タウロス』と戦闘になります。
パワーに任せた重戦士タイプで、その鉄壁とも言える防御力と強い衝撃力を伴う音波のショットガンとも言える咆哮による隙のない攻撃が手強い相手です。
また使用している得物である『機械式の大剣』は名称不明、出所不明の代物です。
詳細な能力が不明ですが攻撃速度を向上させる何らかの機関が搭載されているようです。
移動スピードはそれほどではありませんので、スピード型のアルティスと共闘できれば効果的かもしれません。
2.スコルピオスと戦う
闇の天蝎宮のアステリズム『スコルピオス』と戦闘になります。
毒による状態異常とスピードに秀でたトリッキーなタイプです。
尻尾の先や腕の鋏には神経毒が流れており、一度毒を受けてしまうと身体の自由が利かなくなってしまうでしょう。毒液を弾にして飛ばす事もあるので注意が必要です。
また尻尾による殴打や薙ぎ払いはとても強力なので接近する場合、注意が必要と思われます。
袖口にきらりと光る何かを所持しているようですが機械式の投擲武器と言う事以外は不明です。
一見隙がないようですが、極端な温度の変化に弱いようです。
3.魔法陣を閉じる
開かれている魔法陣を閉じます。
特殊なバリアの中に進入するため、身体が引き裂かれるような激しい痛みに襲われ徐々にダメージを受けます。
魔法陣を閉じるには中心に設置されている儀式用の魔法石を砕けばOKです。
ですがバリアの中では動きが通常の12分の1になってしまいますので一筋縄ではいきません。
星の力
星幽塔にいると、星の力 と呼ばれる光が宿ります。
★ 基本的な説明は、こちらの 星の力とは をご確認ください。
星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようですが、
このシナリオの中では変化しませんので、このシナリオではひとつだけ選んでください。
ひとともれいびにはひとつだけですが、
ほしびとには、第二の星の力(虹)もあります。
★ 虹についての説明は、こちらの 第二の星の力 をご確認ください。
アクションでは、どの星の光をまとい、その光がどのような形になったかを
キャラクターの行動欄の冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のように書いてください。
衣装などにこだわりがあれば、それもあわせてご記入ください。
衣装とアイテムの持ち込みについて
塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
※【星幽塔】シナリオのアクション投稿時、作物・装備品アイテムを所持し、
【アイテム名】、【URL】を記載することで、
シナリオの中で作物(及びその加工品、料理など)・装備品を使用することができます。
※URLをお忘れなく!!!
それでは、皆さまのご参加をお待ちしてます!