春爛漫の眩しい光に、
上下 左右は夏雲色した瞳を細めた。
眩し気に細めた視線の先には、黒髪の少年が本を片手に歩いている。
「おつかれサマーバケーションですわ!」
「春だよ」
弾んだ声を向ければ、真っ直ぐに揃った前髪の下の深紅の瞳をちらりと顰め、幼馴染の先輩である
染井 湊は短く的確なツッコミをくれた。
空を覆い尽くして乱れ咲いた薄紅の桜がひとひら、ほろりと宙に踊り出す。
左右が杖持つ手とは反対の白く細い手を舞い散る花びらに伸ばした瞬間、背後から足音もなく駆けて来た白い影が視界の端をよぎった。
左右が薄い掌に取ろうとした花びらを開いた口にぱくりと納め、白い老猫が石段の上、身軽く着地する。
「あらっ、番頭さん」
いつか見たことのある花のような青い瞳した白猫に、左右は白い髪を揺らして声を上げる。左右の楽しげな視線を受け、白い老猫は薄紅の花びらに埋め尽くされた石段に両前肢を揃えて座った。青い目を細め、笑う。
「まあっ、日暮先輩も」
白猫よりも数段上、桜の咲く石段に腰掛けた黒髪の男に向け、左右は人懐っこい笑顔を向ける。
「ああ、こんにちは」
杖を手に、けれど杖などいらぬかのように足取りも軽く階段を登って来る左右に、日暮は唇を僅か緩めた。
「ようお越し」
言って会釈する日暮の背後には、緋色の壁と青銅屋根が特徴的な、巨大な建物。観音開きの扉の上には、『湯』と墨痕も鮮やかに書かれた扁額が掛けられている。
大きく開け放たれた扉を、種々様々な猫たちがほとんど跳ねるように嬉しげに楽しげに潜って行く。
そこは、寝子島の何処かにあるかもしれない、猫たちによる猫たちのためだけの『ねこ温泉』。うっかり迷い込んでしまった人間は、数日の間、猫たちにご奉仕せねば元の寝子島に帰ることができない。
少なくとも、以前左右が迷い込んだとき、番頭猫から人間の世話を言いつかっていた日暮はそう言っていた。
ただ、今日は――
「左右のとこにも届いたんか」
「ええ」
日暮の言葉に、左右はポケットに折り畳んで持ってきていた千代紙を取り出した。
「『しょうたいじょう』、ですわ」
紙を広げ、日暮に示す。手毬や花の描かれた紙の裏には、クレヨンで書き込まれた幼い文字。
『しょうたいじょう
こんしゅう 土よう日 女子会 します
☆ばしょ☆ ねこおんせん
☆さんかひ☆ ねこがよろこぶ もの
☆すること☆ おはなし えいがかんしょう みんなでごはんとかお茶とか
しゅさい こん、夕』
「何だ、それ」
不審げに尋ねかけて、湊は手にした本に知らぬ間に挟まれていた紙切れに気づいた。
「何だ、これは……」
そろりと開けば、そこには左右が持つ『しょうたいじょう』と変わらぬ内容が書き込まれている。
「え、ええー……」
見回せば、そう言えば今立っている此処は何処だろう。
いつの間にこんなところに迷い込んでしまったのだろう。
考え込む湊の傍ら、見知らぬ主催者の名がシーサイドタウンに暮らす日暮の同居人のものであること、彼女たちがある日突然『女子会』なるものをしたいと言い出した挙句半ば強引に『ねこ温泉』での開催を決定したこと、千代紙に名のある『こん』があちこち無節操に、女子会と銘打ちながらも老若男女問わず『しょうたいじょう』をばらまいたこと、等々を日暮から愚痴まじりに聞き出して、左右は首を傾げる。
「こちらでいいんですの?」
「うん、無理言うて人間用の宿舎を貸してもろたん。やさけ、基本大部屋で雑魚寝やし、食事は食堂の厨房使うて自分らで用意せなならん。せやけど、宿舎の広い露天温泉入り放題やしな。今回は猫の客の相手はせんでもええし。……まあ、本館で猫の世話したい言うんやったらそこの番頭はんに直接かけ合うたってんか」
そう言ってから、日暮は頭上に咲き誇る満開の桜を仰いだ。
「まあ、こっちは向こうよりかちっと早う花もよう咲いとるし。良かったらゆっくりして行き」
「もちろん! ですわー!」
春です。
少しだけ季節を先取りしたねこ温泉郷で、みんなで泊りがけでのんびり遊びませんか。
ガイドには上下 左右さん、染井 湊さんにご登場頂きました。ありがとうございます!
もしもシナリオにご参加いただけますときは、ガイドに関わらず、アクションはご自由にどうぞー!
こんにちは、阿瀬 春と申します。
今回は、女子会(?)のお誘いに参りました。
女子会と銘打ってはいますが、招待状は男性にも届いています。主催者の女子ふたりはどこかで聞きかじった『女子会』を『みんなで泊りがけで映画みたり遊んだり食べたりすること』と勘違いしているようです。
ですので、『しょうたいじょう』は老若男女問わず、もちろん以前ねこ温泉郷に迷い込んだことのないひとにでも届いています。
郵便受けに入っていたり、知らない間に鞄やポケットに入っていたり。『しょうたいじょう』を確かめ、『さんかひ』やお泊りの準備を用意して町に出たあたりで、ふと気が付けばねこ温泉に迷い込んでいます。
『しょうたいじょう』を持たずに迷い込んだとしても、日暮やそのへんをうろうろしている女子ふたりに言えば、ホイホイとその場で『しょうたいじょう』をもらえたり招待したりされます。
要はもう、どなたでもどんなご参加の仕方でも全然おっけー、みんなで遊んで仲良くなったりぐだぐだしたりしましょう! なシナリオですー。
そういうわけで、みんなで温泉お泊り会、しませんか。猫もいるよ!
温泉入ったり、枕並べてお話したり、持ち寄った映画を見たり、みんなでごはん作って食べ比べてみたり、夜の食堂で夜食作って振る舞ってみたり、花見してみたり等々……いかがですか。
ほしびとのご参加も歓迎です。もちろん、ひとももれいびも!
登場するNPCは三人。
◇日暮
最近寝子島のシーサイドタウンに住み着いた二十代半ばの男。
寝子島に起こるフツウな出来事を楽しみつつ、普通の生活を楽しんでいる様子。
◇夕
日暮と共にシーサイドタウンに暮らす十代前半の少女。あどけない姿とは反対に、大人びた表情や仕草をたまに見せる。
◇こん
日暮と夕と共に暮らす四歳ほどの幼女の姿した座敷童らしきもの。『女子会』のことは最近になって初めて触れたスマホの『ねこったー』で知ったらしい。
ちょっぴりイベント的なものも準備してみました。
○元引きこもりで怖い話好きな座敷童のこん主催、深夜の映画鑑賞。ひとに幻を見せて驚かせるのが大好きな座敷童はなにごとか企んでいるようです。(鑑賞予定な恐怖映画は『呪いのニャー』。井戸やテレビ画面から長い髪に白装束の『ニャー子』が這い出て来る場面が有名)
○日暮主催、夜桜見物(カイロ代わりの猫つき、酒や肴やお弁当は食堂の厨房で作ってください。材料は大体揃います)
○夕主催、布団並べて寝落ちるまでコイバナ(意気揚々なご参加ももちろん、嫌がっているところを無理やり夕に聞き出されたー、なご参加もオッケーです)
それでは、ご参加、お待ちしております。