いつもぼんやりと眠そうな顔を見ているとそうとは思えないが、寝子島高校の陸上部に所属する
志波 拓郎は実際、『恋に部活に勉強に大忙し』な充実した生活を送っている。
先月のバレンタインデーも、同校普通科の恋人とロマンティックな夜景デートをしたばかりだ。
そんな彼がホワイトデー当日をどう過ごすつもりなのか、それは少し置いておいて——。
「ふぁ……あ……。あれ?」
自分はいつの間にこんな場所に来ていたんだっけ? 拓郎は目尻に浮かんだ涙を擦り、眠気に緩みきった両頬を叩いた。今度こそしっかり開いた目で見回してみたものの、やはりこの空間が何処なのか判らない。
白い壁紙、パステルカラーの家具。クリスタルのシャンデリアがその輝きで演出するのは、うっとりするくらい甘い香りを放つ花々。
全体的に女子向け丸出しな、カフェや雑貨屋に見えるが。
(……こんなところ、見たこともない)
拓郎が動揺しながら辺りを見渡してみると、同じような反応をする人が目に映る。どうやらこの空間に導かれたのは、自分だけではないらしい。
「拓郎ちゃんじゃん!」
陸上部の先輩
宇佐見 望月は、拓郎に気づいて笑顔になった。
「チョイーッス! ……ってここは何処ぉ!?」
「自分にもよく……」
分からない、と拓郎が首を横に振っていた時だ。
「Здравствуйте!(*こんにちは)」
突然異国の言葉で挨拶されるまで、何故気付かなかったのか。大きな窓の前に置かれたカウチソファに、明らかに異質な存在が座っていた。
ファンタジックなドレス姿の、とても美しい少女だ。
拓郎は少女の膝の上に置かれたハートのついた杖を見つめる。あれはなんだろう。
「ここは愛のプレゼントを試作するのための演習場ですよ。
今日は、日本の行事ホワイト・デイの妖精さんに頼まれて、あなたがたをここへ喚びました」
少女は皆に注視される恥ずかしさを誤魔化す為、ハートの杖を捏ねくり回す。暴力的なまでに男心をピンポイントで突いてくるあざと可愛さ百万点だが、望月は訝しんでいた。
「この娘、何処かで見たような……、確かイリ」
「『ア』です。イリアちゃん。ただの15歳。
ホワイト・デイの妖精さんは、シーズン中でとても忙しいので、イリアが代理です」
「何故人間が……?」
「イリアのヴァレンタイン・デイのお返しをしたい人が、ホワイト・デイに会えないかもしれなくて。代わりに毎日カップケーキやクッキーを作って手紙添えて贈って、それから最後の日はマフラーをプレゼントするつもりで編んであって……、ふふ、向こうはまだまだ寒いから。
ともかく、そんなところを妖精さんが気に入ったそうで、イリアが代理になりました」
「重ッ! 重すぎるそれ!!」
ドン引きする望月を微笑みながら放置して、イリアちゃんは拓郎へ「たー坊さん」と親しく呼びかけた。
「あなた、ヴァレンタイン・デイにガールフレンドからプレゼントを貰いましたね」
拓郎がどきりと身体を震わせると、今度は望月の番だった。
「望月さん、あなたは? 『髪の毛短くて何でもよく食べて笑うと可愛い』人に告白は出来ましたか?」
「ななななんでそんな話しを!」
「イリアは妖精の代理、なんでも知っています」イリアちゃんは愛らしく笑った。
「ホワイト・デイの妖精さんは言いました。
『近頃ホワイト・デイがくると、めんどくさいと言われる。ただのヴァレンタイン・デイのお返しだからと、適当なものを送る方も増加中。
けれどもホワイト・デーは、愛し合う人々にとって、スペシャルな日なのです。
愛の籠った特別なプレゼントを手作りして、大切な人にあなたの想いを伝えて欲しいのです』と。
だからね——」
イリアちゃんがハートの杖を一振りすると、燭台しか置かれていなかったテーブルの上に、様々な食材やカラフルな箱、リボンなどが現れた。
「今日は、皆で練習しましょう。沢山の材料を準備しましたから、大切な人へのスペシャルなプレゼントを心を込めて作って下さいね。
イリアは、皆をお手伝いします」
と、いきなり言われてもである。
皆困惑して動きが鈍いなかで、出口らしき扉を見つけた望月は、すぐにドアノブに手をかけた。嫌な予感がする、長居は無用だ。
「悪いけど俺様は帰らせて貰——」
途端、彼は強い静電気を食らったかのように、手を離した。
「ッ!?」
更に彼はどういう訳か、手をかばった姿勢のまま、床に崩れ落ちて悶え始める。
「ちょおおおおああああなにこれなにこれバラエティ番組で見るアレ!?」
「うん、アレ。
ビリビリ〜っ☆です」
「危なくないのか?」
先輩を心配して冷や汗をかく拓郎へ、イリアちゃんはハートの杖を振りながら「大丈夫ですよ」と言う。
「ただの低周波マッサージ機能ですから」
(……本当に?)
ゼイゼイ息をしている望月を見ていると、どうもそうは思えないのだが。
「でも……、この演習場から勝手に出られると思わないでくださいね。
イリア、
完璧なプレゼントが出来上がるまで一人も部屋を出すつもりないから
ふふふっ。愛に試練は付き物なんです」
イリアちゃんは桃色の唇に小指の先をあててウィンクする。
見ていると胸がキュンとしてしまいそうなお茶目な仕草だが、電撃制裁を見た直後だと「四の五の言わずに従え」と命じられているようだ。
これはとんでもない事に巻き込まれてしまったかもしれない。青い顔になっている皆の前で、イリアちゃんは「Давай!(*さあ!)」と両手を打ち合わせた。
「
大切な人を驚かせるくらい素敵なプレゼントを渡すために、イリアと練習しましょう、ね!」
皆さんこんにちは、東安曇です。
今回のシナリオはホワイトデーの少し前のお話で、
『精神と時のパステルカラーなお部屋で、愛と美の妖精さんに見守れらながらホワイトデーの特別な贈り物を作る練習をしよう』というストーリーです。
バレンタインデーにプレゼントを貰ったPCさんはもちろん、プレゼントをあげた側のPCさんや、全くご縁がないPCさんもご参加頂けます。
宇佐見 望月様と志波 拓郎様にガイドへご登場頂きました。有難うございます。
ご参加希望を頂けました際は、どうぞガイド内容は気にせずアクションをお掛けください。
皆様の特攻をお待ちしております。
*ご注意*
シナリオに登場しないPCさんの名前をリアクションに反映することは出来ません。サンプルを参考に、「彼女」「好きな人」「大事な友達」などでふわふわーっと濁しておいてください。
PCの行動について
以下のなかから一つを選んでご参加下さい。
なお、この不思議空間で作ったものは持って帰ることは出来ません。あくまで練習です。
▼1:プレゼント作りをする
・PCは気がつくと、白とパステルカラーのお部屋にいました。
部屋ではホワイトデーのプレゼントを作る練習をして貰います。大切な人へ心を込めて素敵なプレゼントを作りましょう。プレゼントはお菓子や小物など、どんなものでも構いません。材料はイリアちゃんに頼めば、なんでもテーブルに出てきます。
なお、たまに電撃ビリビリの制裁が下ります。イリアちゃんのうっかりでも発動します。
(アクション2を選択するPL様がいらっしゃるかもしれないので、どんなプレゼントを作るのか決めたら、掲示板での発言を推奨します。)
▼2:お手伝い係さんになる
・PCはホワイトデーの妖精に頼まれて、イリアちゃんのお手伝い係さんになりました。
不思議空間で手作りプレゼントを作るために奮闘するPCたちを助けましょう。
サポート内容によっては逆効果になるかもしれませんが、その辺は面白いので問題ありません。
▼3:その他
・1のPCと同じように巻き込まれたかたちで自由に行動をとることができます。
NPC
▼妖精代理15歳 イリアちゃん
ホワイトデーの妖精さんから頼まれて、PCたちを手助けするお菓子作りやお料理が得意な愛情溢れ(過ぎ)る美少女……に見えるトラップ。
イリヤ・ジュラヴリョフ君ではない。
ホワイトデーの妖精さんとの約束を守るべく、PCたちの行動を逐一監視し、時には電撃ビリビリしたりしながら、プレゼントの完成まで導きます。
▼プレゼント作りをするNPC
以下のNPCのプレゼント作りを、手伝ったり協力することが出来ます。どんなものを提案するかも含めご自由にどうぞ。
・水海道 音春:バレンタインデーに今川焼きをくれた伊橋 陽毬へのお返し
・高知 竹高:バレンタインデーにチョコレートをくれた友人や仲間へのお返し
・幌平 馬桐:バレンタインデーにケーキを買ってきてくれたお母さんへのお返し
▼ホワイトデーの妖精
毎度おなじみ寝子島不可思議現象のなにか。シーズン中は多忙なため、本篇には登場致しません。