人々が寝静まる静かな夜。
空に浮かぶ月が照らす屋根の上に一人の少女がいる。
金色の髪を風になびかせ、その赤い瞳は眼下の街路を見下ろしていた。
街路では黒い人影の兵士が数体おり身なりの良い人物の護衛を剣で刺し殺している所だった。
屋根からそれを見ながら少女――ツクヨは思う。
とてもつまらないと。
あれをやれ、これをやれ。
来る日も来る日もそのような指示ばかり。
自分が今しているこの行動は何の為の行動だったのか。
それさえも今の彼女には理解ができずにいた。
「退屈ですねぇ……とっても、退屈ですよぉー……」
誰に聞こえるとも知らず、ツクヨはそう呟いてから気怠そうに街路へと降り立った。
黒い影達は道を開け、恐怖で尻餅をついている身なりのいい人物へのツクヨの進路を確保する。
静かに歩きながら彼女は自問自答する。
私がやりたかったことはこんな事だったのだろうか。
誰かに言われ、誰かに指図され、従う事。
自分はその手の事が一番嫌いだったはずだ。
ツクヨはゆっくりと手を前に突き出すとその手に血の様な赤い剣を出現させ、その切先を身なりのいい人物の喉元へと向けた。
「……商人のマエトロさん、遺言とかありますかねー?」
「だ、誰の指示だ! なぜ私が殺されねばならん! 私はただ、したいことをしてきただけだ! 何も悪い事をしたとは思えん! 自分の人生だ、今したい事をして誰が咎めるというッ! 君の様な少女では分からないかもしれないが、人は生まれながらにして自由なのだよ」
自由。その言葉を聞いたツクヨの心にもやもやした何かが生まれる。
(自由……私も好きな言葉ですねぇ……自由、ですか……自由……私は……)
ツクヨがぼうっとしたその隙を見逃さず、身なりのいい男――マエトロは背を向けてその場から逃げ出した。
「逃がすと思っているんですぅー?」
そう言って剣を振りあげたツクヨの意識がふっと遠くなる。
白くなった世界で彼女の耳に誰とも知らぬ声が届いた。
『本当にそれがあなたのしたいこと?』
意識が現実に戻り、身体が勝手に動く。それが声への返答だというかのように。
横薙ぎに振られた紅い刃が黒い人影を数体両断し、彼らを無へと帰した。
戸惑いながらも武器を構えようとした黒い人影を蹴り飛ばし、後ろの黒い人影達諸共転ばせる。
彼らが立ち上がるよりも早く、ツクヨは地面を蹴って跳躍すると赤い剣で黒い人影達を貫いて霧散させた。
「あひゃは、私……なにやってるんでしょうねぇー……」
ツクヨを取り囲む様に黒い人影達が地面から湧き出す。その数は10、20とどんどん増えていった。
「あらあら、これは大歓迎ですねー」
彼女は背後の行き止まりの路地で小さく震えているマエトロの姿をちらりと見て、黒い人影達へと剣を向けた。
「守るっていうのも……悪くはないかもしれませんねぇー」
赤い剣を構え、ツクヨは圧倒的とも言える数にも怯まなかった。
本当は自分が何をしたいのか、彼を守りきったその時……その答えが分かるような気がして。
◆
どれだけ戦っただろうか。一時間、いや二時間は経ったかもしれない。
湧き続ける敵相手に剣を振り続け、既に時間の感覚はない。
額や肩、腕からは血を流し既にツクヨの体はぼろぼろの状態だった。
「あひゃ……はぁはぁ、これは、結構……厳しい物が、あります……ねぇー」
ふらふらするツクヨに勝機ありとみたのか一体の黒い人影が剣を構えて突進する。
ツクヨは自分に向ってくるその黒い人影を血の鎖で貫こうと流れた自分の血から鎖を生成、真っ直ぐに飛ばす。
しかし鎖は黒い人影に届く前に霧散しその突進を止める事は出来なかった。
「……ッ!」
ふらつく身体でツクヨは黒い人影の上段からの振りおろしを剣の刃で防ぐと、そのまま剣を滑らせ黒い人影の体勢を崩す。
直後、鋭い突きで黒い人影の腹部を貫いた。黒い人影は苦しむような動作を見せ、空気へ溶ける様に霧散していく。
「ずいぶんと弱くなりましたね。流石の貴女もこの数相手には勝てないってわけですか?」
屋根の上から肩で息をするツクヨに声をかけるのはリベレイター総司令ハガルの副官、イヴァだった。
声こそ穏やかであったが、彼女は冷たい瞳でツクヨを見下ろしている。
「……いえいえ、全然平気ですよぉ? まだまだおかわりできますからぁー」
そのツクヨの言葉の直後、イヴァは屋根から飛び上がり大鎌を召喚すると振り回しながら地上のツクヨを急襲した。
大鎌の刃とツクヨの赤い剣が何度もぶつかり合い、激しく火花を散らす。
「ははっ! 血の鎖すらもう出せなくなっている程消耗している貴女に勝ち目なんてないです! 裏切り者は大人しく死んでくださいッ!」
「裏切る? あひゃはっ! 馬鹿ですかぁ、馬鹿ですねぇ、馬鹿だったんですねぇー! 元々あなた方の仲間になったつもりはないですよぉー? 楽しいからいただけですしぃー」
「へえ、もう楽しくないんですか! なら、相手を踏みにじること以外に脳のない貴女がいったい何を楽しむっていうんですか!」
「それはですねぇー……」
お互いに刃を弾き、ツクヨとイヴァは距離を取った。
「これから探すんですよぉー。ここを乗り切ったら、何か分かる気がしますからねぇー」
「どこまでも馬鹿にする方です、貴女は! でも残念です……なぜなら貴女はここで散り、その答えを一生探す事なんて出来ないんですから!」
大鎌を構えなおすイヴァに笑顔を浮かべ、赤い剣を向けるツクヨ。
「あひゃはっ! できるものならやってみてくださいよぉーッ!」
◆
――気が付くとそこは異世界だった。
そこはどこかの町の郊外で丘のような場所。
眼下には町の入り組んだ路地広がり、その地形がよく見える。そしてそこを蠢く黒い人影のような者達。
彼らの向かう先では傷ついた金髪の少女が誰かを守って戦っている様だった。
その光景を見て、いつの間にか腰に下がっていた剣を引き抜くとこの場に召喚された彼らは走り出す。
如何なるものであろうとも弱き誰かを守っている者を見捨てるわけにはいかない。
ただその一心を想いながら。
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
いやーついにツクヨさんがやらかしました。
あの子はやるとは思っていたんですよ、やるとは。
と、そんな話はさておき本編の話に参りましょう。
場所は夜の機構世界マシナリアのどこかの都市です。
みなさんはガイド本文のシーンを夢のような感じで見ていて、そのシーンが終って
気がついたらツクヨ達が見える所に来ていた、という感じです。
その場所からはツクヨがマエトロを守っている姿がよく見えます。
しかし彼女達の所に行くには黒い人影達が蠢く入り組んだ路地を抜けなければなりません。
余り時間をかけてしまうと、無尽蔵な兵力の前に手負いのツクヨがやられてしまう事でしょう。
ツクヨ達がやられる前にイヴァを撃退し黒い人影達を撤退させることが今回の目標となります。
下記の参考データは知っているという状態でもいいですし、知らないといった感じでもOKです。
なお、ろっこんが強力に描写される事がありますのでご了承ください。
■参考データ
リベレイター
:総司令官ハガルの命じるままに複数の世界を移動、その世界にとって必要な人物
および存在を狙い、何かを目論む組織。
飛空艇、機械兵、魔導兵、モンスター兵などその兵力は侮れない。
寝子島については『フツウ』を壊す事が目的の様で過去に寝子島の空から地上目掛けて
侵攻したがその時は召喚された者達によって防がれている。
今回も何かしら企んでいた模様。
機構世界マシナリア
:魔法と機械を融合させた文化が発達している世界。
重火器やロボットとファンタジーの剣や魔法が共存している。
現在、リベレイターが狙いを付けている世界である。
幾度となくリベレイターの攻撃に晒されているがその度に召喚された者達に防がれている。
マシナリアの世界でもリベレイターは敵と認知されているが兵力差は歴然で
召喚された者達の助けがないと歯が立たない状態。
商業都市ルクストニカ
:マシナリアの中央部に位置する大きな町。
船や飛空艇、列車を使った交易が盛んでありここを通じてマシナリアの各地へ
物資が運ばれる流通の要。
商魂たくましい商人達が数多くいる活気あふれた街である。
現在は大商人マエトロが流通を仕切っており、彼がいないと町が上手く運営できないと
言われている。
召喚された者
:寝子島から『テューア』もしくは『ちーあ』といった異世界の存在により
機構世界マシナリアへ強制的に召喚される者達の事。
基本的に寝ている状態で召喚され、解決してほしい事件の一部始終を夢として見せられる。
事件を解決すれば寝子島へ戻る事ができ、自分の布団で目が覚めるといった具合である。
ツクヨ
:リベレイターに所属していた金髪紅眼の少女。巨乳。
人を殺す事に何の罪悪感も抱いておらず、寧ろ楽しみを覚える性格。
しかし無為に人を殺す生活に何かしらの違和感を感じていたらしく、自分自身の
本当にやりたいことを探す為に動き出す。
戦闘方法は自分の血を武器へと変じさせ自在に操って攻撃する。魔法の心得もあるようだ。
なお、からかいやいじわるといった悪戯が好きな模様。
マエトロ
:機構世界マシナリアの商業都市ルクストニカの大商人。
その経営手腕は高く、一代で豪商とも言える位置に上り詰めた人物。
町の政治への発言力も高く、民衆の支持も厚い男。
人前では豪胆だが、一人になると素の臆病な性格に戻る。
イヴァ
:リベレイターの副官である悪魔の少女。
見た目は幼いが、身体はなかなかに育っておりその色気で知らずに相手を誘惑してしまう事も
ハガルを心の底から信頼しており、彼の意思に背くことはない。
戦いも楽しいという事で大好きな為か、幹部でありながら後ろに控えている事をせず
常に最前線に出ている。
とある戦闘で手傷を受けて以来、最初から全力で相手を叩き潰すスタイルに戦い方を変えている。
その時に受けた傷は完全に癒えても痕が残り、彼女の人間への憎悪を激しく燃え上がらせている。
戦闘時は刃は大きめで先端に槍、刃の反対側には斧を配置した大鎌を振るって戦う。
その武器の大きさに似合わず腕が見えなくなるほどの高速戦闘を行う。
黒い人影の兵士を無尽蔵に呼び出す事ができ、彼女が戦場にいる限り黒い人影の兵士が消える事はない。
黒い人影の兵士
:リベレイターの幹部が使役する影の兵士。
影ではあるが実体があり、剣や盾、槍や斧で武装している。
一定の知能があるらしく命令をただ遂行するだけでなく自ら判断し動く。
一体一体はさほど強くはないが、どこにでも現れる為に注意が必要。
保有している感覚はそれぞれ別らしく、発見されたとしても即座に撃破すれば仲間を呼ばれる事はない。
基本的に幹部がいる限り無尽蔵に召喚される。
ちーあ印のショートソード
:腰にいつの間にか帯刀していた両刃の片手剣。
とても軽く女性でも簡単に振り回せる模様。
刃部分に『ちーあのしさくひんよんごー』と下手な字で彫られている。
なお、柄部分に謎のスイッチがあるが機能の説明は付属していないので
押した場合、何が起きるか不明である。