5月の陽気の中を、のんびりと
新井 すばるは歩いていた。うららかな気候は、それだけでどこか鼻歌を歌いたいような気持ちにさせられる。
今日は帰ったらどうしようか。店は忙しいだろうか。
寝子高からの帰り道、そんな事を考えていたすばるはふと、道沿いのコンビニの前にちょうど、体育祭なんかの時に立てられるような白い屋根のテントが出ているのに気付き、足を止めた。
「なんだ?」
首をかしげながらテントに貼られている手書きのポップを見ると、『おでん祭』と書かれている。ひょい、とポップからテントの中に視線を移せば、コンビニの制服を着た店員が確かに、おでん鍋の前に立っていて。
この季節外れにおでん? と興味を引かれた。どちらかと言えば冷たいものが欲しくなる気候なのに、あえて熱いおでんとは何か、理由があるのだろうか。
すばるはテントに近寄ると、おでん鍋の中を覗き込んだ。するとそこには、大量のちくわが溢れ返っていて――むしろそれだけしかなくて。
「………? 他の具は?」
思わず呟いたすばるに、『皆川 一和(みながわ・いちかず)』という名札プレートをつけた店員が「実は……」と語った所に寄れば、この季節外れだというのに誤って大量に発注してしまったのだという。冷凍とはいえ置いておく場所もないし、やむなくこうして急遽『おでん祭』と称し、店の前にテントを出して売出しをしているのだとか。
なるほど、とすばるはいささかの同情と共にちくわを見つめた。ちくわを愛するものとして、ちくわの危機には心くすぐられるものがある。
そんなすばるの内心を知ってか知らずか、一和は「店長が出張中にやらかしちゃったんだよねー。だから居ない間に何とかしたいんだけど、何しろ急な事だから、人手も宣伝も足りなくて――それにちくわだけだし」と困り顔になりながら、すばるに熱心におでんを勧めた。とにかく、1つでも多く売りたいらしい。
ふむ、と変わらずちくわを見つめながら、すばるが一和に言った。
「じゃあ、うちの店の『寝子島ちくわ』も持って来よう。具が2種類になりますよ」
「え!? い、いや、それはその、大丈夫だと……ッ! そ、それより、確かちくわ好きなんだよね? 良かったら手伝ってくれないかな、その、バイト代は出せないけど、代わりにおでんのちくわ幾ら食べてもらっても良いから!」
それに一和は顔を引き攣らせてぶんぶん首を振ると、代わりにそんな提案をして、ほとんど懇願の眼差しですばるを見る。そんな一和に「うーん……」と唸りながら、すばるはパイプ代わりのちくわをくわえたのだった。
こんにちわ、水無月 深凪と申します。
らっかみでの2本目のガイドは、こんなコンビニのお困り事でお邪魔致します(ぺこり
季節外れのおでん、寒い日には欲しくなっちゃいますが、暖かな日が続くとちょっと、ご遠慮したいですよね。
そんなおでんをうっかり大量に発注してしまった、可哀想なコンビニさん。
どうか、助けてあげて頂けると幸いです。
おでんはよくコンビニに売っているような、透明な出汁のタイプのものです。
大量に発注してしまったおでんのちくわは、軽く下味がついた状態で冷凍されており、お出汁に入れてしばらく煮込むと美味しいおでんになります。
大量過ぎて保管場所がないので、店内の冷凍ブースの隅っこを占拠していたり、残念ながらコンビニ横の駐車場一杯に積み上がったダンボールの中で溶けてしまっているものもあります。
それではお気が向かれましたら、どうぞよろしくお願い致します(深々と