その日。桜花寮の寮母、トシコは調理場で甘さを抑えた桜餅を作っていた。
彼女の夫トシゾーは、欲しいままにものを食べることが出来ない。
桜の葉は塩抜きをし、淡いピンクの餅を優しく包む。葉は食べれば、血をサラサラにしてくれるらしい。
「あの人に、二つ。こないだ和菓子のお土産をくれた子も、このくらいの甘さなら食べられるかしら? 残りは、寮の子達に食べてもらいましょう」
大皿にラップをかけ、少数をタッパーに取り分けて歩き出したその時。
むぎゅ、と何かを踏みつけた。
「にゃぎゃあああぁぁぁっ!!!?」
足元で昼寝をしていた、
テオドロス・バルツァが悲鳴を上げた。
「痛っえな、何すんだよ!」
すかさず前足で引っかいて制裁しようとしたが、寝ぼけたテオの爪は空をかき、たすんと床を叩き付けた。
「…………あ」
調理場から、人の気配が消えている。
「――ま、いいか。そのうち、元に戻るだろう」
あふり。あくびをすると、テオは再び丸くなって、夢の世界へ落ちていくのだった。
「アイタタタ……」
トシコはしたたかに打ち付けた腰をさすって、辺りを見回した。
「猫ちゃん、いなくなっちゃったわ。尻尾を踏んじゃって、悪い事したわね。大丈夫かしら?」
随分苦労をして、ヨイショと立ち上がる。
「あら、何だか妙に静かね? それに……」
濃淡こそあるものの、景色の全てが灰色に見える。
「ねえ、誰かいないの?」
やがて。
老婦人の姿は、モノクロームの街のどこかへ、ふらふらと消えていった。
「おや?」
絵を描く手を休め、
旅鴉 月詠は顔を上げた。
世界が灰色に変わっている。
何事かあったのかもしれない、そう思い原因を探ったが、色がないという以外に異変は感じられなかった。
「ふむ……」
手にしていたスケッチブックから、一枚をちぎって、封じてあった画材を取り出す。
月詠の手の中で、絵から色彩があふれ出す。
「持ち込みはOKということか、さてどうしよう?」
色のない世界は、まるで無限のキャンバスだ。
メシータです。テオが寝ぼけて、世界を切り分けてしまいました。
皆さんは、巻き込まれた形で切り分けられた世界にいます。
トシコもどこかを歩いていますが、皆さんはその事実を知りませんので、全く無関係に、人がいない街を散策して構いません。
ある程度時間が経てば、テオの『かみさまクリエイション』の効果が切れ、元の世界に戻れます。
ろっこんは使用可能です。トシコが傍にいた場合、人目判定はありますが、呆然としているので、気のせいだと思うでしょう。
●場所
寝子島に酷似した世界ですが、巻き込まれた皆さんと、巻き込まれた当時に手にしていた物以外は全てが灰色です。
トシコと皆さん以外は、誰もいません。時折、猫や鳥など、人間以外の動物の影が横切りますが、触れるのは不可能です。
電気は通常通り使えますが、電話は使用できません。
バスや電車は無人ですが、規則正しく動いています。ただしループしてしまい、寝子島から出ることは出来ません。
何かをするのに料金は発生しませんが、切り分けられた世界にあった物を持ち帰ることは出来ません。
飲食可能ですが、飲酒喫煙など禁止行為は描写しません。
●NPC
トシコ
桜花寮の寮母をしている、お婆さんです。
足腰が弱いため、あまり機敏には動くことが出来ません。
どこかを目指して歩いていますが、彼女とは関わらなくても構いません。
少し日常から切り取られた世界。お気が向かれましたら、ご参加くださいませ。