【知らない女】
俺、霊感なんて全くないし、今までそんなの見たことも無かったから、正直オカルトとかそういうの、バカにしてた。
だからその時も俺、深く考えないで、後になって取り返しがつかないって気付いて、ずっと後悔してる。
少し前まで付き合ってた彼女の話をします。あ、彼女の名前は、仮に、B子ってことにします。
B子は明るくて人懐っこくて、可愛い子だった。それに好奇心がすごく旺盛で、怪談とか都市伝説とか、そういうのが好きで、しょっちゅう心霊スポットみたいなところにいっては、写真撮ってねこったーにアップしてた。俺はそんなことをしてるB子を見て、何が楽しいんだ? って笑ってバカにしてたけど、彼女が楽しそうにしてるから、止めたりはしなかった。
止めてれば良かった、と今はすごく思う。
ある時に、彼女が言った。
「A君(俺のことです)、今度の休み、N島行かない?」
「N島? M市の?」
「うん。何かね、最近その島で、ヘンなことが起こってるんだって、噂があるの」
「ヘンなこと?」
「うん。ヘンな生き物が目撃されたり、不思議なことを体験したり……幽霊を見た、とかそういうのも。あたしらも見れるかもよ?」
またか、って思った。
付き合ってる彼女の言うことだし、ただのデートってことで一緒に行っても良かったけど、あいにくその日は仕事が忙しくて、断った。別の日なら行けるけど、って俺は言ったけど、彼女は笑って、
「いいよー、私の趣味に付き合わせるのも悪いし。ひとりで行ってくるね、お土産期待してて」
それが俺の聞いた、彼女の最後の声になった。
仕事で忙しくしてるうちに何日か経って、彼女が旅行に行く日、ああ、今頃B子のやつ、N島で美味いもんでも食ってるのかな……って考えてたら、電話が鳴った。彼女の番号だったから、俺はすぐに出た。
「もしもし? B子。今、N島? 幽霊見れたか?」
「………………A、ぐん。わだじ、Bご。Aぐん。わだじ、Bごよ。Aぐん。わだじ……」
聞いたことも無い、低くて、くぐもって聞き取りにくくて、中年の男みたいな、気持ちの悪い声だった。
「B子? もしもし?」
「Aぐん。わだじ、Bご。Aぐん。わだじ、Bごよ。Aぐん」
俺は彼女の、イタズラだと思った。時々面白がって、幽霊の真似をしたり、俺を脅かしたり、そういうことをする子だったし。
「はは、楽しんでるみたいで良かった。明日は帰ってくるんだろ? 気を付けてな……B子?」
「Aぐん。わだじ、Bご。Aぐん。Aぐん。わだじ、Bご」
笑って電話を切って、仕事に戻った。
その次の日に、B子の親から電話がかかってきて、旅行から帰ってきたB子の様子がおかしいから来てくれ、って言われて、俺はB子の家に行った。
「………………Aぐん。わだじよ」
B子はベッドに腰かけて、こっちを向いて、笑ってた。わけもなく身体を前後に小刻みに揺らしながら、ニヤニヤ笑ってた。口が裂けそうなくらいの、何とも形容できない、すごい笑顔で。声も電話で聞いたままの、あのくぐもって低くて、中年の男みたいな気持ち悪い声で、一体どこからそんな声を出してるのか、俺にはさっぱり分からなかった。
何となく、俺は、これはB子じゃない。違う誰か、知らない女だ……そう思った。
後になってN島のことを調べてみたけど、ラッカミサマとか、シンコンがどうとか、そんな良く分からない単語を時折聞くくらいで、原因は何も分からなかった。
結局B子は元に戻らず、今は、入院している。いわゆる精神病棟に。面会には、一度も行っていない。薄情なようだけど、あの声で名前を呼ばれるのが、怖くてたまらない。
もし俺が、B子を止めていたら……あの日からずっと、後悔している。
「B子さんは、何かに取りつかれてしまったのでしょうか? それとも、Aさんが感じたように、何かと入れ替わってしまったのでしょうか……何とも、こわーいお話ですね。んふふ! 情報をくださった方、ありがとうございました♪」
「さてさて、ネコネコ動画をご覧の皆さま。今夜の特別生放送、『
ミッドナイト・フリーキー・リポート!』では、とあるオカルト系サイトへ投稿されたというこちらの情報の真相を探るべく、わたくし
胡乱路 秘子と素敵なお友だちの皆さまで、B子さんの足取りをたどってみたいと思います」
「果たしてB子さんに、一体何が起こったのでしょうか? そして、その調査においてわたくしたちに、一体どんなオソロシイ出来事が降りかかってしまうのでしょうか……!?」
「全ては、番組の中で明らかになることでしょう……んふふっ、こうご期待♪」
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
今回のシナリオの概要
今回は、ネットの片隅に投稿されたというとある怪談話をもとに、その真相を探る……という名目で、心霊スポットを巡って恐怖体験しよう! といったシナリオになります。
一件平和に見える寝子島にも、実は数々の恐怖体験が寄せられる心霊スポットがあり、ガイドに登場した『B子さん』は本土から旅行で島を訪れた際にそうした場所を巡り、そこで何らかの怪異に遭遇してしまったようです。
皆さんには、B子さんの足取りをたどってそんな心霊スポットを訪れ、真相を探っていただきます。
……というのを、ひとつの目的としまして。
今夜は何気に満月で、霊感の強い方にはビシバシとただならぬ気配を感じるような実に絶好の怪奇日和で、様々な心霊現象や怪異にお目にかかることができそうです。
件の怪談話や真相究明はさておき、そうした現象を目の当たりにしては、ギャー! イヤー! なんて騒いだり。女の子は恐怖感にかこつけて気になる男の子の腕にしがみついたり、男性諸氏はカノジョたちにカッコイイところを見せたり。単純に心霊現象に一喜一憂する様を楽しむ、というのも良いかもしれません。
ご参加に当たっては、胡乱路 秘子ちゃんが放送中の生放送を見て興味を持って、とかそのへん歩いてるのを見かけて……とか、気づいたらいつの間にかそこにいて参加させられてた、とかでもOKです。
ホラー好きなPCさんもそうでない方も、お気軽に巻き込まれてしまってくださいませー。
あ、↑はちょっとライトな書き方になってしまいましたけれど、ホラー要素は真剣に怖い描写を追及するつもりでおりますので!
アクションでできること
アクションでは、以下の【1】~【3】の心霊スポットから1~2つをお選びいただき、行動の内容をお書きください。
情報によれば、各スポットではそれぞれに様々な現象が報告されているようですが、いずれも曖昧な噂であり、実際には何が起こるか分かりません。
(アクションにて、下記の例以外にも、自由に現象をお書きいただいて構いません)
【1】桜台墓地
シーサイドタウンにある墓地。
普段は何てことの無いただの霊園ですが、今夜はどこか不穏な空気が漂っているようです。
<報告のある現象の例>
○どこからともなく聞こえるささやき声
○周囲の音を録音し再生すると、奇怪な音声が紛れ込む
【2】寝子島トンネル
旧市街の外れにある、寝子電線路下の短いトンネル。
夜になると周囲は大変に暗く、人通りもほとんどありません。
<報告のある現象の例>
○トンネル内に響く、何かを引きずるような音
○写真を撮ると奇怪なものが写り込む
【3】落神神社付近の脇道
神社近くの山道に、あまり知られていない脇道があり、森の奥へと続いているようです。
道の先に何があるのかは、良く分かりません。
<報告のある現象の例>
○どこからともなく聞こえるうめき声
○樹々の向こうに垣間見える、真っ黒な人影の行列
アクションには、上記の要素に加えて、
・PCのホラー耐性
(怖いのは好き、全くダメで失神レベル、何がどうなっても動じない、などなど)
・『B子さん』にまつわる真相、推理
なんてところもお書きいただけましたら。
なお、上記のような現象に何らかの関連性があるのか、真相との繋がりがあるのかは不明です。
(アクションの中で、事の真相などをお書きいただけましたら、その中で面白いものをピックアップして採用させていただくかもしれません)
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
●舞台
寝子島内の、上記に指定した各場所が舞台となります。
時刻は深夜です。
●備考や注意点など
※今回のシナリオには参加していないPC、NPC名を明記してのアクションは、採用されない可能性があります。申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
●NPC
○胡乱路 秘子
んふふっと怪しく笑う少女。どういう経緯か、今夜は動画サイトで実況などしているようです。
ハンディカメラであちこち撮影したり、自撮りで口上を述べたりしてますが、基本的に調査のお役には立ちません。
以上になります。
某深夜番組にタイトルが似てたりとか、ストーリーテラーの彼女が出張ってたりしますけれど、あちらと何か関係あるのかどうかは良くワカリマセン。あんまりないかも。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております~!