怪人セブンの復讐｜リアクション

怪人セブンの復讐

　シグレ・ナイトウォーカーはこの危機的状況下でも紳士の心構えを忘れなかった。
「Ms.加納、１つだけ確認したい」
　シグレは背筋を正し、敵であっても礼を尽くして会話に臨む。
「本当にメサイアとやらを生け捕りにしてくれば、命の保証をしてくれるのだろうか？」
　その問いに、泉月花は迷う事無く言葉を返した。
「ええ、成功すれば命の保証と自由を約束しましょう」
「……言質はとったぞ。忘れるな？」
　シグレは語尾を強く言い放つ。
　そして笹森清真と楢木春彦に向かってクールに微笑む。
「楢木、笹森、俺について来い。俺達じゃなきゃ出来ない仕事がある」
　楢木はすぐに反応して立ち上がった。
「うぃっす！　シグレ先輩にドコまでもついてくっすよ！」
　バイトの先輩から信頼を寄せられて、顔が綻ぶ楢木。
「自分がやれることは精一杯頑張るっす！　あ、でも俺、怪人セブンって奴のウワサとかもあんま知らねーし、悪い奴なら倒せばいいんじゃねぇのって感じなんだよなー。……まぁ、なんか奴らの言いなりっつーのもシャクにさわるけどな」
「楢木、声がでかいぞ」
　楢木の愚痴が泉月花の耳に届くのを恐れた笹森が注意を促す。

「シグレ先輩、声掛け、助かりました。……正直、頭がまだ混乱していてどうすればいいか迷ってました」
「無理もない。怪人セブンの事件に関わった俺と違って、笹森は人違いだからな」
　シグレの慰めの言葉に笹森は耳を疑った。
「関わった……？　まさか、さっき加納って女が言ってた『名も無き英雄たち＜ネームレスヒーローズ＞』ってシグレ先輩のことだったんですか！？」
「俺だけじゃない。ここに拉致された半数が、その英雄とやらに該当する人物だ。……もっとも、俺は『英雄』じゃなく『怪盗』が身分相応なんだけどな」
　シグレの不服そうな声に、笹森は相槌の言葉すら出なかった。
　ひと呼吸おいて、笹森は支離滅裂になった思考回路をかき集めるように言葉を紡ぎ出した。
「怪人セブンってのは噂くらいは聞いたことがある……。同じ高校の奴も関わったらしいってことも、なんとなく。まさかこんなに身近に大勢いたとは思っていなかったけどな……。それに俺が巻き込まれるなんて、今この時まで露ほども想像したこともなかった。こんな非日常、どこの漫画の世界だよ、人を玩具みたいに扱う奴らの言うことを聞くとか、すっげー癪だ……」
　泉月花の表情が険しくなるのを見た笹森は悔しそうに唇を噛む。
「……だけど人質がいる、今は従うしかないか……」
「そうですよ。あなた達が生き延びるためには、選択肢は１つしかありません」
　泉月花は急かすように笹森に圧力を掛ける。
「さぁ、生き残るために武器を取りなさい。手を汚してまで生きる価値が自身にあるのなら、ですが」
　皮肉たっぷりに口を真横に広げてニヤリと笑う泉月花。
　そんな泉月花へ鉄格子越しに詰め寄るシグレ。
「Ms.加納、俺は紳士として今、恥ずべき感情を抱いてる」
　いつもは冷静沈着かつクールで紳士然としたシグレだが、今の彼の表情は獰猛な獅子の如き凶暴さが表立っていた。
「俺の後輩を侮辱した貴様を……１秒でも早く殴りたいと思ってしまっている。紳士として今の俺は失格だ」
「そうですね、女性に手を挙げるなんて野蛮な男のやることですから」
「だがMs.加納？　それでも俺は紳士であることを忘れない。調べが付いてるだろう？　俺は『怪盗』だ。宝を抱えて逃げるのが専門だ」
　そう言うと、シグレは楢木と笹森の肩を抱き寄せて不敵に微笑んだ。
「切り抜けてやるさ、皆の命を取りこぼさずにこのナンセンスな状況からな……！」
「……子供ですね。まぁ、やれるだけやってみなさい。一応、期待しておきます」
　指示された黒服たちに促され、シグレ、楢木、笹森もまた牢の外へ連れて行かれた。