【ザ・フンドシスターズ！】

「みゆきちゃん……すっごくかわいーのだハグしちゃうのだっ」
「えへへ。くすぐったいよー真央ちゃん」
　むぎゅむぎゅ、きゃっきゃっ。
　後木 真央、北原 みゆきの二人が、本人たちも気づかないうち、浜辺で何やら注目を集めておりますのは……可愛らしい女の子たちの仲睦まじい姿に、ほんわり。といったことだけでは無いのです。
「でも、真央ちゃんはすごいね。女性用の褌も順調に広まってるし……目の付け所、良いと思うよ」
「ふっふっふ、褌も日々進化しているのだ現代を生きているのだー！」
　びっ、とピースサイン。にかっとハツラツに笑う真央に、みゆきは、本当に感心しているのです。
　そう、二人が身にまとっている水着は……褌！　それも、ちゃあんと水着用として作られた、いわゆるひとつの『水褌』というやつなのです。
　真央が目指すのは、褌の普及。そのための準備に、彼女があちこちを駆け回り、創意工夫を用意してきたこと。みゆき自身も、いくらかそれを手伝ってはおりましたけれど……やっぱり、すごいなぁ。
「さすが、水褌広報部長……！」
　みゆきは、そんな風に思ってしまうわけなのです。
　とはいえ真央にしてみれば、それも楽しみながらのこと。そんな苦労の跡は微塵も見せることなく、
「みゆきちゃんっ！　今日は二人で、褌の良さをバッチリ見せ付けるのだ！　それからそれから……その後はとにかくいっぱい！　たっくさん遊ぼうなのだー！」
「うんっ！」
　きゅっと真央に手を引かれ、みゆきもそれを握り返し。フンドシ少女二人、コンテストへ出場です！

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●エントリーNo.12　後木 真央
●エントリーNo.13　北原 みゆき

「お次はこのお二人！　お友達同士での出場でーす、どうぞ！」
　手をつなぎ、たたたっ、と軽快な足取りで登壇する真央とみゆき。
　一瞬、会場は、ざわり。

「おーっと、ここで再び！　褌の登場っ！！　それも女の子ですよーっ、白沢先生のお言葉は確かにマジでした！　これぞ日本の夏、Oriental taste！　ってカンジ？」
　少女二人の水褌姿は、一瞬、少しばかりの当惑を会場に振り撒きましたものの……けれど、意外なその可愛らしさ、自然な佇まい！
　あたりの空気はすぐに、巻き起こる拍手へと変わりました。
「やったね、好評みたいだよ、真央ちゃんっ」
「うんっ、このまま褌普及のために青少年の主張なのだ頑張るのだっ」
　まずは二人、存分に褌姿を見せ付けるべく、ステージを歩きます。
「元気印な後木 真央さんの褌は、なんとなんと、自作！　そうよね、褌売ってるところって、あんまり見ないものねー。フリンジのついたサラシと合わせて、白の上下がビビッと目を惹いちゃう！　やーっ、新しいなーこれはっ」
　そうなのです、真央の身につけている水褌は、彼女が手ずから作り上げた一品。あえての白チョイスは、まさしく人目をぐいぐいと惹き付けるためのもの！
「ちなみに後木さんには、お手紙も届いてたりします。『いつも元気いっぱいの真央ちゃん。応援してます。褌の輪が広がるといいですね！』。ちいさいくまさんより」
　応援メッセージにも満足げに、うんうん。
「そしてお隣、北原 みゆきさんは、日仏ハーフの女の子！　そんな金髪美少女が褌を締めちゃうんだから、お姉さんびっくりよもう。でも、アリ！　全然アリよーっこれ！　サラシをイメージしたベアトップに、エプロン風の褌。清潔感溢れる白と、ちらり、太ももとのコントラストもまぶしい！」
　みゆきの褌は、れっきとした女性用。前垂れがついているのがその違いのようです。
　真央もみゆきも褌を着こなしながら、重要なところは、そのコーディネート。ボトムスに褌、トップスには、無限の可能性！
「水着の自作は難しくても、褌サラシなら自分でいくらでも工夫できちゃうのだ想像力無限大なのだッ！」
「私の褌は、デザイン重視。他の水着と組み合わせたって、遜色無いんだよ」
　男物の褌だけでなく、女性用褌の流行、そのブームの火付け役に！　と、二人は張り切って褌のグッドテイストをアピールするのです。



　パフォーマンスタイムへ突入すると、何やら舞台袖から実行委員がやってきて、大きな紙袋を二人へ手渡しました。それは、真央がこの時のため、事前に用意しておいたものです。
　みゆきが袋から取り出したのは、サラシや褌の身に付け方を分かりやすく解説した、手描きのフリップ。
「褌って、着けるのが大変って思うかも知れないけど。分かってしまえば、誰にでも身につけられるんだよ」
　それを使って、みゆきが正しき褌の作法を解説すれば、会場全体が、ほう……！　と嘆息します。
　その傍ら、真央はと言えば……軽いジャンプから、空中でくるんっ！　前宙、バク宙を難なく、次々と決めて見せます。
　激しい運動を経てもビタともズレない褌のフィット感のみならず、真央自身の卓越した運動性は、会場の人々を、そして隣のみゆきまでをも唸らせるのでした。
「フンドシは日々進化し続けているのだ、全然クラシックじゃないのだ運動性機能性抜群なのだっ！　学校の指定水着に取り入れたって良いと思うのだ！」



　最後のアピールに当たって、二人は再び紙バッグを手に取ると、中から取り出しましたるは……何と。大量の、配布用水褌！
「褌サラシ、アーンド正しい締め方チラシの無料配布なのだ！　みんな受け取って欲しいのだおいでませなのだっ」
「はい、司会者さんと、審査員の皆さんにも」
　二人は観客席の人々へ、そして司会者、審査員席のリッカルド町長やサンマさん、白沢先生にまで！　水褌を手渡していきます。
　ちょっぴり、戸惑い気味の人々でしたが……。
「日本の海ならっ！　ビキニよりも、褌なのだ！　褌締めて浜辺の視線を釘づけなのだーっ！」
　ばちーん！　真央が、ぷりっと生尻を思い切り良く叩いてみせれば。会場へは自然と笑い声が溢れ、ちょっと自分も締めてみようかな……？　なんて声も、ちらほら聞こえてくるのです。
　目の前の観衆たち。大きなステージの真ん中、そこへ立っている自分。そんな、何だか夢のような状況に……みゆきは、思います。
（少し、恥ずかしいけど……こういうのも。悪くはないよね）
　思い切って出場したコンテスト。確かに、褌のアピールこそが目的ではありましたが……楽しげに、あけっぴろげに笑う真央の姿を見ていたら。みゆきだって、やっぱり、楽しくなってしまうのです。

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「さてここで、ゲスト審査員をお一人、お呼びしてみたいと思います。この方、何を隠そう、『寝子ヶ浜海岸海の家組合』の名誉顧問さん！　えーっと、本名は何だっけ？　まあいっか、いつまでも少年の心を忘れないファンキーおじいちゃん、『寝子島少年科学団』のお一人！　通称、コペルニクスさん！　誰あれ？　とか言わないで！」

「一言余計じゃちゅーに。えーおほん、海の家組合の名誉顧問なんちゅうのを務めさせてもらっとる、コペルニクス爺さんじゃ。
　我らが『寝子島少年科学団』のキュリー夫人こと、後木 真央ちゃん！ お前さんの目の付け所は素晴らしい！　オナゴの褌がこれほど良いものだとは、ワシ、感激！
　北原 みゆきちゃん、あんたも実に良かったのう！　金髪緑眼に純白の褌の組み合わせは、予想外のマッチングじゃった。ワシ、感動！
　二人ともえかったぞー、これからも是非に、オナゴたちへの褌普及に励んでおくれ。応援しとるからのう！」

「はいっ、女の子大好きなコペルニクスさんのコメントでしたー！　海の家組合がバックについてれば、褌普及も待ったなしよねーこれ。今、日本人のソウルが試される……お姉さんも、思い切って挑戦してみようと思います！」