【説得（物理）】

　ワンピースで体を隠す宮祀が桐島先生のもとへ戻ってくると、何故かミッシェルがパンツを穿いていた。
　そして桐島先生のズボンの後ろに穴が開いていた。
「センセ、パンツを貸してくれてありがとねん！」
　ミッシェルは爽やかな笑みを浮かべている。
「宮祀……、すまない。ズボンが裂けてしまった」
　桐島先生はポーカーフェイスを保っている。
　何もなかった、そう言いたげな顔をしてるような気もする。
「気にしないで下さい、義弘先生！」
　宮祀は嬉々としながら告げた。
「義弘先生のお尻は、（常に先生のために裁縫セットを持ち歩いている）私のものです！」
　彼女は目を輝かせながら続けた。
「いつもいつも、私が義弘先生のお尻の面倒を見てあげてますから！　安心して身を委ねて下さい！」
　宮祀の献身ぶりは、まさに恋する乙女そのものだ。
　だが、この発言はすごく誤解を生む。
「う、うそぉ～！？　アナタ、この先生にいつも仕込んでるの……？　今の女子高生はレベル高いわ～ん！？」
　目の前のミッシェルが慄然としている。
「ご、ごめんなさいなのねん！　おふたりともお幸せになのねん！　くぅ～！」
　全裸のオカマが悔恨の涙を流しながら走り去っていった。
　走り去る際、桐島先生はオカマの体当たりを食らって吹っ飛んだ。
「きゃー！　義弘先生が気絶しちゃいました！　あのオカマさん、何がしたかったのでしょうか？」
　宮祀は無意識にオカマを見つめると、イケメンに囲まれたミッシェルの姿が情景として浮かんできた。
　彼女はろっこんを認識していないので、このイメージの原理はよく分からない。
　だが、あのオカマがものすごく恋人が欲しかったんだろうな、ということはよく分かった。
「そういえば、このパンツ、特別なものなのでしょうか……？」
　ワンピースを着終えた宮祀は、脱げた自分のパンツをしげしげと眺めた。
「穿いてたのでも運気アップ効果はあるのかな？」
　そう言って、気絶している桐島先生の顔にそっと被せてあげた。
　すると、奇跡が起きた。
「フォオオオオオーッ！」
　桐島先生、女子高生のパンツを被った途端、見事に復活を果たした。
「馴染むッ！　馴染むぞーッ！　フォオオオオオーッ！」
「わぁ、御利益あるんですね！　……あの、先生にならあげちゃいます、私のパンティ！　これで少しでも先生の役に立てたのかな？」
　桐島先生は無言でサムズアップ。
　宮祀は嬉しくて、思わず先生に抱き着いてた。
　だが、その後ろに、チャイコフスキーのくるみ割り人形を口ずさむ緑髪のお面少女が迫っていた……。
「――寝子島神拳奥義『悲愴』――！　サヨナラ！」
　チャイコフスキーが歌として継承したという、その激しく動き。
　ふっわふわスカートから自然にパンチラ誘発、相手の動揺と思考停止を誘い、必殺の突きをクルミに叩き込む対変態用の業だ！
「ふふっ、殴った方も心が痛い……、死ねオラァ！」
　ワリタリーヌさんは教員だろうが容赦しないッ！　

　一方、全裸で傷心を抱えるミッシェルは、水着姿のボーイッシュな少女に遭遇した。
「くそ、どうやら遅かったようだな……」
　奈良橋 博美は宮祀の身を案じて合流を果たそうと向かっていたのだが、全裸のミッシェルが目的の方角からやってきたことに憤りをあらわにする。
「おい変態。俺を狙っても楽しくないぞ。胸がないからな！」
　自らペッタンコを宣言し、目の前の全裸オカマの反応を見る。
　ミッシェルは少々困惑しているようだ。
「あら～ん？　ショタかと思ったら女の子だったのねん！　アタシ、ショタも女子もお呼びでないわ～ん♪」
　全裸でクネクネとセクシーポーズらしき姿勢を見せ付けてきた。
　これに奈良橋のほうが困惑してしまう。
「あ、そ、そうか。俺が標的にならないのは嬉しいが……」
　とはいえ、と彼女は顔を引き締める。
「全裸で島中を闊歩するな！　お前はやはり変態だな？　俺が成敗してやる！」
「アタシは変態じゃないわよ～ん？　パンツ穿いてるじゃな～い？」
　ミッシェルは「何の問題ですか？」と言いたげに筋肉を誇示し始めた。
　そしてやっぱりパンツを脱ぎ捨てた。
「そういう行為が変態なんだろうが！」
　奈良橋はミッシェルに向かって飛び掛った！
　すると彼女の体が滑空しながらミッシェルに体当たり！
「いや～ん！　フライング・カラテガールだわん！」
　たたらを踏むミッシェルは驚いている。
　奈良橋のろっこん『トンビの飛翔』により、彼女は空を滞空できるのだ。
「もういっちょ、喰らえ！」
　再び奈良橋は勢いをつけてジャンプ！
「滑空跳び膝蹴りだぜ！」
　ギュンッと奈良橋の体が空中を滑っていく！
　滑っていって――、ミッシェルの目の前で着地した。
「え？　嘘だろ？」
　飛距離が足りない！
　それもそのはず、ミッシェルは“もれいび”ではなく、“ひと”だった！
　奈良橋も、ミッシェルも、当然この事実に気が付かない。
　しかも奈良橋の着地した場所は、ミッシェルのインド象の真ん前。
「うわああああああ！？」
　流石に男女分け隔てなく交流することを心掛けている彼女でも、直の観察は堪えるものがあった。
「このっ！　ド変態ー！」
　奈良橋、その場でインド象へ向けて跳び膝蹴りをクリーンヒットさせた！
　更に追撃で空手パンチ、止めの後ろ回し蹴りを放つ！
「　ア　ッ　ー　！　」
　ミッシェルの断末魔、そして何かを悟ったような表情のまま崩れ落ちていった。
「フランス人の、象さんは、世界一よ～ん！」
　意味深な言葉を吐き捨て、ミッシェルは遂に撃墜された。
　奈良橋は持参していた縄で簀巻きにしていると、遠くから橘と御剣がやってきた。
「街中で水着を着て、緊縛プレイ！？　あなた、詳しく話を聞かせてくれないかしら？」
　橘は盛大な勘違いをしている！
「ちょ、ちょっと待ってくれ！　俺は水着姿で変態を誘き寄せていて、さっきもこの全裸のオカマを退治しただけだ！　風紀委員とはやり合いたくない！」
　奈良橋が弁解するが、橘は既に「問答無用よ！」と臨戦の構え。
　御剣はどうするか戸惑っている模様。
「変態撲滅団ってやつか？　うん、２人ともすこし冷静になろうか？」
　御剣は知り合いに撲滅団に加担してそうな友人を持つため、何となく奈良橋の気持ちが分かるようだ。
　しかし、２人の睨み合いが収まることはない。
「……仕方がない、今度こそ上手くいってくれ！」
　奈良橋が前方へ飛び跳ね、ろっこんで橘へ向かって滑空！
　橘はそれを躱すと、反撃のために奈良橋の背後へ大きく踏み込む。
「やらせない！」
　しかし、奈良橋は塀の上に降り立つと、更にそこから高く滑空。
　橘の竹刀を軽々と避ける。
「おい、やめろって！」
　御剣が仲裁に入った、その時。
　２人の女性の声が耳に入った。
　ここから近い！