喜雨に濡れ｜リアクション

喜雨に濡れ

【雨くらい、なんだ！】

　夏です。暑いのです。
　そんな中、鈴島でグラビア撮影……だなんて、なんだかトロピカルな感じで素敵じゃあありませんか。グラドルとして絶賛活躍中な初瀬川理緒も、お仕事とはいえ、ちょっとばかり楽しんじゃってもバチは当たらないというものです。
「んん～っ、気持ちいい！」
　自然豊かな鈴島へ降り立ち、解放感のままにうんと伸びをします。まぶしい太陽、白い雲！
　テスト明けというシチュエーションもまた、理緒を高揚させていたかもしれません。なにしろ近頃は、所属事務所から課せられた『偏差値30からの大学受験企画』なる企画に邁進するあまり、とかく多忙な日々を送っているのです。
　恋人と過ごす時間もいささか減ってしまい、フラストレーションが溜まっていた反動もあってのことでしょう。鈴島は、理緒をトコナツ気分へ誘ってくれました。
「それじゃ理緒ちゃん、さっそく撮影始めようか！」
「はーい！」
　パーカーに手をかけ、ずばっ！　一瞬で脱ぎ去ると、理緒は爽やかなスカイブルーのタイサイドビキニに包まれた見事なグラマラスボディを、お日さまの下へ惜しげもなく披露します。
　今回のお仕事は、漫画雑誌に掲載されるグラビアです。冬頃に発売される『週刊ヤングニャガジン』に掲載されるとのこと……少々季節感には乏しいものの、このロケーションの前ではそれも些末なことです。
（よーっし、頑張るぞ！）
　気合十分！　理緒は波打ち際を元気いっぱい、駆け出すのでした。

　……などと言っていたのが、ほんの数十分前のこと。
（さぁぁぁあああーーーっむ！！）
　寒い！
　空模様がぐずつき始めたと思った途端に、突然降り出した激しい雨。やがて冷たい風もびゅうびゅうと吹き始めて、あっという間に天候が変わってしまいました。気温もいくらか低くなってきて、夏場とはいえ水着では厳しいカンジ。理緒は肌寒さに思わず肩を震わせます。
「す、すみません。パーカー着ていいですか……！？」
　と返事も待たずに木陰へ駆け込み、先ほど豪快に脱ぎ去ったパーカーを再び羽織ります。
「初瀬川さん、コーヒーどうぞ」
「あ、ありがとう……」
　スタッフさんが用意してくれた熱いコーヒーをひと口、こくり。お腹から全身がじわじわと温まっていくようで、理緒はほうっとひと息をつきました。
　どうやら通り雨のようですし、このまま上がるのを待とうということになり、しばしの待機。理緒はじりじりと焦れる時間を過ごしました。
　が、やがて。
「……撮ろう！　理緒ちゃん！」
「はいっ？」
「このままただ待っていてもラチが開かないよ！　こうなったら、セクシーに雨濡れる理緒ちゃんを撮って撮って撮りまくるんだ！　どうだい！？」
「ど、どうったって……マジですか！？」
　しびれを切らしたカメラマン、マジもマジの大マジです。突然なにを言い出すんだこの人は、な理緒やスタッフ一同の視線なんて物ともしません。
　どうかと訊ねられれば、そりゃあ理緒だってプロです。グラビアアイドルの端くれです。応えないわけにはいきません。
「や……やりましょう！」
「そうこなくっちゃ！」
　そんなわけで、どしゃぶりの中突発的に再開された撮影は、異様な熱量をはらんでおりました。
　ざあざあざあと遠慮のない雨のカーテンの向こうへと、理緒は、えいっ！　飛び込みます。
　冷たい！　寒い！
「こ、こんな感じでどうですか？」
「もっと！　もっとだよ理緒ちゃん！　もっとセクシーに！　胸を強調しつつ身体をくねらせて、瞳は熱っぽく潤み、すがるような流し目で……」
　これまた容赦なく飛んでくるカメラマンからの要求に、もちろん理緒は身体を張って応えます。胸を突き出し腰をくねくね、瞳はうるるるるんとカメラを見つめます。
　内心もちろん、
（寒いってば、早く終わらせろよー！！　風邪引いちまうだろーッ、このバカヤローーー！！）
　ってなものですけれど。
　それでも理緒は、にーっこり♪
「どんどんいきましょう！　ばっちりセクシーに撮ってくださいね☆」
「もちろんだよ理緒ちゃーん！」
　カメラマンの無茶ぶりにも怯まず、プロ根性を見せつける理緒の姿は雨の中、ひときわに輝いて見えたということです。

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