妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！｜リアクション

妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！

【逃走中！】

　うーんっ！　と伸びをひとつ。１８０ｃｍの奇跡の長身をお持ちの羽生碧南ですから、その様を道ばたですれ違った小学生くらいの子どもたちが、まるで巨人を見つけたような目で見上げておりました。
「ふぁ……いい天気ね～」
　春休みの真っ最中で、今日はバスケ部の練習もお休みです。こんな日はもちろん、部屋にこもって乙女ゲーム三昧！
　というのも碧南的に悪くはないながら、なんとなくこんな快晴にはもったいない気もして、今日は外出してみることにしました。
「平和だなぁ。平和すぎて、ちょっと退屈なくらいかも……」
　ふわ、とあくびを噛みころす碧南。春の陽気に、ついつい眠気に誘われてしまいます。
　得てして、こんな時には人間、いらんコトを口走ってしまいがちです。
「ここらで何か、面白いことが起こらないかな。こう、刺激的な冒険とか……たとえば。『なぜか今日一日、島中の人に追いかけ回される』はめになったり？　なーんて……」
「見つけたぞッ！！」
　びくり！　背後から唐突に降りかかるドスの利いた声に、碧南は思わず飛び跳ねます。
「……えっ？」
　おそるおそるに振り返りますと……そこにはなぜだか、警棒をぺしぺしと手のひらに打ち付けながら威圧的に迫る、警察官たちがおりました。
「手を上げて大人しくしろっ、お前を逮捕する！！」
「ええーっ！？」
　不用意についてしまったウソは見事現実となり、碧南は脱兎！
「なんにもしてないのに捕まるなんて、冗談じゃないわよーっ！？」

　なにか刺激的なことが起こって、退屈を紛らわすことができたら……なんて、碧南はもちろんちょっとした気持ちで口にしたわけですけれど。
「これはやりすぎでしょ……！？」
　持ち前の体力に任せて寝子島中を駆け巡るうち、追いかける人々は警察のみならず、消防士、大工さん、そのへん歩いてたサラリーマン、お花屋さんの看板娘に八百屋のおばちゃん、さっきすれ違った子どもたちまで……多種多様で数え切れない人々が、ずらずらずらり。わき目もふらず、碧南を目がけてやってくるではありませんか！
「あれよ、あの子が食い逃げ犯よ！」
「下着泥棒じゃなかった？」
「違う置き引きだ」
「何言ってるんだ、あれはマフィアの構成員だぞ！」
「違う違う、凶悪なテロリストだ！」
「違うよ、怪盗ミーナだよ！　悪いやつからお金を盗んで、びんぼうな人に分けてあげるんだよ！」
「全部違ぁーーーうっ！！」
　おまけに気づくと根も葉もないウワサが四方八方乱れ飛び、碧南は天下の大悪党かあるいは正義の義賊のように持ち上げられているのです。
　ついでに、どこかの誰かのウソとウソが混じりあい、
「御用だ！　御用だ！　神妙にしろい！」
　時代劇の岡っ引きのような連中までもが、十手と提灯を手にどどどどど！　血走った目で追いかけてきます。
　今や追手は、押し寄せる波のごとく。ひと時でも立ち止まったなら、たちまち呑み込まれてしまいます！
「ええいっ、こうなったら逃げて逃げて逃げまくってやるわっ！　捕まえられるもんなら、捕まえてみなさーーーいっ！」
　そのうち碧南の秘めた闘争心にも火がついて、走るスピードは衰えるどころか、猛ダッシュ！
　桜舞い散る寝子島を幾重にも縦横無尽、碧南の逃走劇は文字どおり、飽きることなく一日中続いたのでした。