【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！｜リアクション

【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！

●Rock & Vanilla!

　菜々緒と別れた吉祥寺黒子と、獅子島市子に乞われた樋口弥生先生が演奏に加わった。
「そろそろ甘ったるいのは飽きたろ？　一曲ハードに行こうじゃないか！」
　黒子と市子、樋口先生によるトリプルギターで、女性ばかりとは思えぬハードなサウンドを奏でだす。
　天之川麗仁がすかさず市子の前にスタンドマイクを持ってくる。
　曲は、有名な古い洋楽ロックだ。
「踊れ！」
　黒子は煽る。

「踊りませんか」
　サキリ・デイジーカッターはダンスなんか興味ないわという顔で黙々とお茶を楽しんでいた坂内梨香に声を掛けた。梨香は古いロックサウンドに耳を傾け、「この曲なら」とサキリの手を取る。
「ダンスの心得は一応あるんですけど、ロックはワルツとは違いますよね」
　サキリは苦笑した。ワルツなら大昔、小さかった頃に教わったのだが。
「こうして学校で会うサキリ君はワルツも似合うけど、戦っているときのサキリ君はかなりロックよ？　……ところで、ダンスの心得はあります、だなんて、サキリ君てお金持ちな生まれなのかしら」
「実家はそうでした。まあ訳あって家出した挙句裏社会で色々やらかして寝子島に流れ着いたんですけどね。坂内先輩の実家はどんなでしたか？」

「実家……というか、私は冒険好きなバカどもとか、碌でもないゴロツキどもに囲まれて小さいころからあちこち点々としていたから、家らしい家の思い出はないのよね。物心いたころにはもう、シーノの一員として冒険や仕事に関わっていたし」
「その後シーノを抜けて、オカルト事件調査会社R&R Agencyを立ち上げたんでしたね」
　サキリは設立当初からＲ＆Ｒのエージェントとして関わっている。
「先輩がこの会社を作ってくれたおかげで僕は自分の力を社会の為に役立てる事が出来た。凄く感謝している」
「私の方こそよ。サキリ君やみんながいなければあの会社はやっていけないもの」
　爆音がホールに響き渡る。
　声が聞き取りにくい。サキリは梨香の耳元に唇を寄せて尋ねる。
「先輩は卒業したら進路はどうなっているのだろう？　出来ればR&Rは続けて欲しいんだ。僕で良ければ事務雑用から荒事まで何でもするよ」
　すると梨香は頷いて、サキリの耳元に唇を寄せた。
「もちろん続けるわ。私は進学はせずに、Ｒ＆Ｒを専業にする予定よ」
　それから猫のようなハシバミ色の瞳をにこりと細めてサキリを見つめる。
　それは、サキリが初めて目にした梨香の笑顔だった。
（あ……坂内先輩ってこんな風に笑うんだ）
　サキリは、心残りだったことが一つ果たせて嬉しかった。
「そういえば先輩は秘湯好きだという噂を小耳に挟んだんですが。機会があればR&Rの皆で温泉に行くのも良いですよね」
　梨香はサキリの提案に、もう一度くすりと笑みを浮かべた。
「いいわね。その案件、要検討の印をつけとくわ」