【バレンタイン】学生達のValentine's Day!｜リアクション

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

●ドキドキの１日

　猫鳴館の自室を出る前。綾辻綾花はチョコレートを忍ばせた鞄を両手に抱え込み、トクンと跳ねる心臓の鼓動を感じながらそっと目を閉じた。
（受け取って、もらえますように……）
　そして後ろを振り向き、しゃがみ込みながら言った。
「行ってきます」
　綾花は優しく黒猫のクロワを撫でる。クロワはにゃーんと綾花の耳に鳴き声を残した。

　放課後まで、今日の綾花はちっとも集中出来なかった。
　鞄の中のチョコレート。可愛くラッピングされた包みの中は本型の箱があり、その箱を本を開く様に開けると、綾花手作りのチョコが入っているのだ。
　何度も試食して甘すぎない様ビターに作られたチョコレート。本型の箱は紺色で、蓋の部分には金色の猫のシルエットが描かれている。本棚に入れると本物っぽく見えるそれは、小物入れとしても使える様に考えて綾花は選んでいた。
　その心づくしのチョコレートが入っている鞄を、暇があれば綾花はチラチラ見てしまう。そして授業中も渡す相手のことを想い、気もそぞろだ。
　そんな風にしてたらあっという間に放課後になって。
　綾花は鞄を抱え、ドキドキしながら席を立った。

　今日は午前授業ではあるが、図書委員は通常業務だ。綾花がカウンターで整理をしていると、ガラリと図書室の扉が開いた。
「ああ、綾辻さん今日もお疲れ様」
　その声と姿に綾花の心臓はドキンと跳ね上がる。綾花は、
（どうか心臓の音が聞こえません様に……！）
と願いながら、その人物に向かって頬を赤く染め言った。
「お疲れ様です、珪先生」
　司書教諭早川珪―――綾花の本日のドキドキの原因―――が、綾花にニコリと笑った。

　チョコを渡したい相手の登場に綾花のドキドキ度は一気に跳ね上がった。
（ああ、いつ渡そうかな？）
　カウンター業務をしていても気になってしまい、チラチラと珪を見てしまう。目が合えばパッと逸らし、またそっと盗み見て。
（先生は沢山チョコを貰ってるのかな？）
　そんなことを考えれば、キュッと胸が締め付けられる。……それでもキッチリと業務をこなすところが綾花の凄いところだった。

　時間は飛ぶ様に過ぎ、一般の生徒の退室を確認した後、綾花は図書室の扉に『閉室』の札を掛けてから片付けを始めた。珪ものんびりと机の整理をしている。あらかた片付け終わった綾花は鞄からチョコの包みを取り出すと、それを後ろに隠しながらそっと珪に近付いた。
「あの、先生？」
「ん？」
　珪が穏やかに顔を上げる。それとは対照的に綾花のドキドキはＭＡＸだ。

（心臓が口から飛び出ちゃう……！）
　ううと綾花は目をつぶったが、それでも顔を上げ、頬を赤く染めながら両手で珪の前にチョコを差し出した。
「あの、これ、受け取ってもらえますか？　いつもとてもお世話になってるので感謝を込めて作ってみました」
　え、と珪の口が驚いた様に開く。綾花の手は緊張と不安で小さく震えてしまう。さっきまで時間の流れはとても速かったのに、今この瞬間は時が止まってしまったかの様に永遠に感じられた。
（ああ、どうしよう……！）
　倒れてしまうんではないかと綾花が思った時、珪がそっと包みを受け取った。
「わざわざありがとう、綾辻さん。嬉しいよ」
（受け取って、もらえた！）
　優しく微笑む珪を見て、綾花はほうっと息をつく。安心と嬉しさに鼓動は速いままだ。それでも綾花は珪に可憐な笑顔を見せた。

　その後図書室の戸締まりをした２人は、猫鳴館の近くまで一緒に帰った。珪の隣で綾花は嬉しさいっぱいだ。弾む様に会話をしていた２人が猫鳴館の門の近くにさしかかった時、そうだと珪が何やら自分の鞄をゴソゴソとして言った。
「これお返しにもならないかと思うけど……どうぞ」
　きょとんとする綾花の手に載せられたのは、包みに入った１粒のコーヒー飴。珪が申し訳なさそうに頭を掻いた。
「綾辻さんは苦手かな……。でもこれは割と甘くて女の子でも大丈夫だと思うんだけど」
　綾花は手の上の飴を見る。珪からもらったコーヒー飴。何だかこの１粒に綾花の１日分のドキドキがギュッと詰まって返ってきた様だ。
「あ……ありがとうございます！」
　綾花は両手で大事に飴を包み込みながらお礼を言った。
　嬉しくて、名残惜しくてついついその後も綾花は珪と話し込んでしまう。
「私今寮でにゃんこを飼ってるんですけど……」
「へえ、猫かー。可愛いよね」
　楽しく会話をする２人。嬉しさに綾花の心臓はトクトクと脈打っている。結局最後までドキドキしっぱなしの綾花だった。

このページにイラストを設定する

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧