【バレンタイン】学生達のValentine's Day!｜リアクション

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

●義理チョコにゃ！　……多分

（バババババババレンタインなんてま、まったく気にしてないのにゃ！）
　―――いやいやいや、初っ端のそのどもり方から意識しまくりでしょうという意見は全力無視で、青物といきは自分自身に言い聞かせていた。だって、ああいうのはお返しの為にあるってママも言ってたし！（なるほど、含蓄あるお言葉だ）
　まあ兎にも角にも今回はこう、今後の人間関係の為にとかそういう意味合いで……と、といきはバレンタインに向け、せっせとチョコを準備した。
　ニャロルチョコの詰め合わせ。バラエティショップで見かけたニャロルチョコのセットを幾つか購入。それを開封して何個かに分けて包装し直し、それぞれ色々な色のリボンをかけたのである。友チョコだったり義理チョコだったりと様々な思いを込め、リボンを結んだのだが……え？　本命？　そんなの知らないにゃ！　べ、別に誰かの顔が浮かんだりもしてないにゃー！

　若干心拍数をあげつつもといきはバレンタイン当日を迎えた。
　本日は土曜日。午前授業だという事で、校舎内で会える生徒には事前にチョコを渡しておき、放課後といきはいつものように陸上部の練習に参加した。
　そこでもといきはまず部員達にチョコレートを配る。友チョコの交換も楽しいものだ。和やかに談笑しながらあらかた配り終わり、さあ練習を始めようと２月の空の下、といきはウン！　と気合いを入れる。
（頑張るぞー！　なんていったって体が資本だからね！）
　その時だった。
「おー、青物も練習に来たかー。感心感心」
　背後からの聞き覚えありまくりの声に、ニャッ！　とといきはその大きな青い瞳をグラウンドにころりんと落としてしまうんではないかというくらいに見開いた。そしてそろりそろりと後ろを振り向き、といきは叫んだ。
「浅井先生！？」
　部員のえらい驚きように陸上部顧問浅井幸太は若干口を尖らせた。
「何だ、俺が来たらまずいのかー？」

（静まれ、静まれ心臓！）
　といきは意志に反してあっちゃこっちゃに跳ね回る心臓を押さえるのに必死だった。生徒が練習してたら残ってみてないといけないのが顧問。だから幸太がここにいるのは当然で。別に何も特別なことなどないではないか。
（そう、特別なことではないのよ……！）
　といきは持っていた紙袋を胸に抱え直す。中にはもうたくさんの友人達に配ってだいぶ残りが少なくなったチョコレート。楽しく友人達に配るのは、特別なことではなかった。でも、様々な色のリボンがかかったチョコレートを渡しながら、絶対に手をつけないリボンのチョコレートがあった。一見すれば、他のものと変わらないチョコレート。でも、そのリボンを結ぶ時、といきがほのかな想いを込めたチョコレート。
（……特別じゃ、ないんだから！）
　そう自分に言いながらも、といきは初めてそのリボンのチョコレートを紙袋から取りだした。
「あ、先生に、てか陸上部の皆にチョコ配ってるんだにゃ！　……先生にもあげるっ！　じゃねっ！」
　といきは真っ赤になりながら幸太にチョコを押しつける。そして幸太の口が動くのを待たずにバッビューン！　と高速で走り去った。
「ちょっ……！　青物！」
　慌てて幸太が呼び止めるがといきの姿は遙か彼方。幸太はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、ポリ……と頬を掻いてポケットから何かを取り出した。
「お返しに飴があったんだけどな……飴１粒くらいじゃ文句言われるかな」
　まあ後で渡せばいいかと、幸太はそれをまたポケットに仕舞う。そしてといきが消えて行った先を興味深そうに眺めた。
「青物、めちゃくちゃ速かったけど、調子いいのかもしれないな……これは楽しみだな！」
　戻ってきたら鍛えてやろうと、ニコニコしながらグラウンドに向かう幸太であった。