君が泣いた日｜リアクション

君が泣いた日

●ロベルト・エメリヤノフが泣いた日

　本日のロベルトはとてもご機嫌だった。それはもう、くるくるっと回って踊りだしそうなくらいには。その理由は彼の手元にある給与袋だ。

「いえーい！　今月の給料はちょっと多い！」

　学生の身分としてはちょっとでも多ければすごく助かるし、何より彼は現在住所未定なのである。元々は桜花寮に住んでいたのだが、とある理由によって追い出され現在はいろんな人のところに居候している身なのだ。泊めてくれる友人や知り合いはそれなりにいるので困ったりはしないけれど、それでもタダで泊めてもらうのは彼の本意ではない。

「学費は親が払ってくれてるからいいとして、自分用予算と泊めてくれる人へのお礼の分をわけて……えーっと、かなり余るね」

　軽いところがあると見られがちだけれど、何気にしっかりしているのだ。

「よし、せっかくだし美少年をデートに誘おうか！」

　しっかり……しっかり……ちょっとアレではあるが。
　それはさておき、そうと決まればナンパである。街行く美少年を眺めつつ、そっちの趣味も大丈夫な子を見極める。大丈夫じゃない子もそれはそれで趣があっていいのだが後腐れないのは大丈夫な子だよね、うんうんなんて思いながらロベルトが品定めをしていると――――。

「はうぅあうあ！？　ちょうど暇そうな、しかもそっちもＯＫそうな美少年がぁ！？」

　白く艶やかな肌、ぷっくりとしたピンク色の唇、そしてどこか潤んだ瞳……百点満点の美少年がそこに！　これはもう声を掛けるしかないと、さっそく行動に移すのだった。

「今ヒマ？　僕とお茶しない？」
「……アハハ、ナンパ？　そーだなぁ、奢ってくれるなら行ってもいーかな！」
「よし決まり、行こう！」

　まずは喫茶店だと、ちょっとお洒落なカフェに入って美少年が望むままにちょっとお高いケーキや紅茶を奢った。少年も心得たもので、ケーキを「はい、あーん」なんてしてくれたので、ロベルトは天にも昇るような心持ちだ。

「ねー、僕ちょっと欲しいものがあるんだけどー」
「いいよ、僕が買ってあげる！　……その代わり、ね？」

　なんて下心を滲ませても、少年はにっこり微笑んで頷いてくれた。期待するなというのが無理な話だよね！？　とロベルトは内心思いながら、少年が望むままに二人でショッピングに向かうのだった。

「嬉しいなーこれ欲しかったんだー！　ね、似合う？」
「よく似合ってるよ、今着てるコートの方が断然君に似合ってる」
「えへへ、ロベルトさん大好き！　ねえ、あれも買って欲しいな……お願い」

　お願い、のあとに軽く背伸びをして少年がロベルトの頬にリップ音を響かせる。やけに慣れたお願いではあったけれど、頬に当たった唇の感触は柔らかくて気持ちよかったし、欲しがりな美少年はロベルトの好みにヒットしていたので気持ちよくお願いされたモノを買ってあげて、

「僕も君みたいな子は大好きだよ」

　と、もっとキスしていいんだよ！　それ以上のこともいいんだよ！　という期待をこめて額にキスを返すのだった。けれどそんな関係は、いつしか終わりを迎えるものだ。

「このあとはどうする？　僕とゆっくりできるとこに行くかい？」
「ん～～、そろそろ帰る時間だから、帰るねー！　今日はありがと、また会ったら遊ぼうね！」

　キメ顔で言ったセリフは綺麗にスルーされ、少年は笑顔でロベルトと繋いでいた手を離して去っていく。残されたのは寂しくなったロベルトの財布と、わかってはいたけれどひとときの夢に賭け、夢破れたロベルトが流す儚い涙であった……。

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