【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト｜リアクション

【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト

　いま、巨漢を冷ややかな目で見つめているのは骨削瓢だ。
　見つめるといってもにらみ付けるというよりは、動物園で珍獣を観察しているような雰囲気である。
「あっしがインチキを？　そりゃあ言いがかりってやつだねぇ」
　ただカードが天才的に上手いだけ、そう言って瓢は顎を撫でた。
　実際、瓢はずっと正攻法で男と駆け引きしていただけだった。とはいえその方法とは、歳に合わない狡猾な手練手管ばかりであったが。巨漢は見事にこれにかかって、とうとう破産寸前までいったようである。
　鳥類のマスクをした係員が飛んでくるが、いずれも巨漢の手下に殴り倒されている。
「やれやれ、あっしはちょっと休憩といこうかぃ」
　瓢はメダルをテーブルからひとつかみすると、ぱっとこれをばら撒いた。
「ほら、誰か片付けて。この事態を収拾させた人にはもっとあげるよ～」
　わらわらとたくさんの手が伸びた。手は伸ばさずとも、瓢の言葉を聞いて目の色を変えるものも少なくなかった。
　たちまち拳がうなり、激突し、瓶や灰皿、グラスなど大小様々なものが砕けて飛び交う。
　静かだった遊技場は瞬時にして、フライパンでポップコーンを炒っているときのようになったのである。
「ったく、勝負はまたの機会だな！　恨みっこなし、悪く思うなよ！」
　巻き込まれそうになったので、巨漢の手下らしき男の尻を蹴飛ばしてジニー･劉は飛んだ。倒れたテーブルを踏み台にしさらに跳躍、空中ブランコ乗りのように軽やかにシャンデリアにつかまる。彼の左手は、てるてる坊主少年の手を握っていた。
「大丈夫か？　もう一回飛ぶぞ？」
　少年に呼びかけたのだが、少年は首を振って手をふりほどいた。
　その瞬間、彼の頭を覆っていた白い布がするりと落ちたのである。
「うわ……っ！」
　ジニーは息を飲んだ。
　このときジニーが『あの子が味方でよかった……』と思ったということだけ記しておきたい。
「頼んだぜ」
　この場は『あの子』に任せよう。勢いを付けてジニーは数メートル先の丸テーブルに飛び乗った。名残は惜しいがこのまま退散することにする。
「こんな所でくたばれっかよ。カワイイ姪っ子とカノジョが待ってるんでね」
　いざさらば、だ。まあ、楽しかったとはいえようか。
　雪崩のような騒動に三夜雷一も、たちまちジニーの姿を見失ってしまっていた。
「ったく、ケチョンケチョンにしてやるつもりだったのにな！」
　不幸なことに雷一のいる場所は騒ぎのまさに中心地だ。このままじっとしていても、愉快なことにはならないだろう。
　ぶうんと彼めがけワインボトルが飛んできたが、ラッキーと言って雷一はこれをキャッチし、投げた相手に思いっきり投げ返した。
「相手が悪かったな。こちとら中高の頃はワルで通ってたんだよ」
　パン、と瓶が砕け発泡ワインが四方八方に飛び散る。F1レースの表彰台の気分だ。盛り上がってきた。
「レッツパーリィ！」
　きゃっほーと雷一は声を上げ、悪党だろうがそうでなかろうが、挑んでくる人間を次々と殴り倒し蹴り飛ばす。殴られもしたが、その分倍返しをお見舞いした。
　今ここに娘がいなくて良かった。
　父親のこういう姿、娘は決して見たくないだろう。娘は、現在思春期かつ反抗期の最中なのだからなおさらだ。
　けれど雷一は笑っていた。満面の笑顔であった。
　――こーゆーのもたまにゃいいよな。
　家は楽しいけど気詰まりなのだ。父親であろうとも、こうして羽目を外したいときもある。
　さて、いよ大問題になる前に退散するとしよう。雷一は人混みのなかに突破口を見出し駆け出した。
　預けたコインはどうも回収できそうもない、それだけが心残りだった。
　仕方がないから娘には、コースターのひとつでも持って帰ってあげることにする。