【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト｜リアクション

【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト

　ロフトを上がったところにあるVIPルーム。
　すでに先客は帰った（あるいはもっとイイ場所に行った）のだろう。今、この広い部屋にいるのは骨削瓢とあと一人だけだ。
「うん、いいねぇ。極上のアプリコットローズだよぃ」
　言いながら瓢は、黒いカップでフレーバーティーを一口する。
「あんたねぇ、ちょっとは責任とか感じないの？」
　その正面で腕組みしているのは鴉の面をかぶった女……つまりクローネだった。
「面白いからよかろ？」
　瓢はそれ以上この話題に興味はないとばかりに簡単に告げ、改めて座り直した。
「それよりも、聞かせてほしいもんだなぁ、駄烏よ」
「誰が駄烏よ」
　失礼しちゃうわ、と憤慨するクローネをケラケラと笑って瓢は言うのである。
「教えてくれんか、今後はどんなゲームを用意してるのかを」
　仮面の下で、クローネがどんな顔をしているのか瓢にはわからない。
　だが不敵な笑みを浮かべているのだろう――と想像がつく。
　そのときノックの音がしてルームのドアが開いた。瓢は振り返り、クローネは顔を上げる。
「クローネ様……！」
　涙すら浮かべ、そこに立ち尽くしていたのは大天使天吏であった。

　天吏も、カジノで発生した騒動に巻き込まれた。
　このとき彼女は何の計算もなく、近くにいた鳥人間に駆け寄ったのである。相手はペンギンのマスクをしていた。
「私はあのような無粋なことはしません。私はあなたたちのためであれば死にます、見世物にもなんでもなります。混沌と怪異……そして漆黒の鳥に仕える者として、今日一晩はここにいさせてください」
　天吏自身、とっさに口走った己の言葉には驚いていた。どうしてここまで激しく、しかし抜き身の剣のように捨てる部分なく言い切ることができたのだろう。この世界観に酔ったからなのか、それとも、鳥や怪異には絶対服従と考えているからなのか。
　だが間違いなくこれは、今日、彼女が口にしたなかで最も正直な言葉だった。
　驚くべきことにペンギンは、うなずいて天吏の手を取ったのである。そうして独断で、「ここなら安全です」と彼女をロフトの上にあるVIPルームに案内したのだった。
「クローネ様……！」
　中央のソファに座る人物を見るなり、それがクローネであると天吏は悟った。
「ああ、クローネ様！　感無量です！」
　両手を結び祈るように両膝を折って、座るクローネの目の前に天吏は滑り込んだ。
「クローネ様！　この身を捧げます！　私はどんなことをされてもいいので楽しまれて！」
　そうして、審判を待つ被告のように、クローネから言葉をもらうのを待つのである。

　腹を割いて臓物を見せよと言われたとしても、天吏は応じたであろう。
　しかしクローネは優しく、天吏の肩に手を乗せて告げたのだった。
「待ってたわ、私の大切なお友達……さあ、そんな姿勢はよして、隣に座りなさいな」
「いえ、そのように畏れ多いことは、とても」
　友達、はっきりそう呼びかけられたことは、天吏にとって気絶するほどに光栄なものなのだった。今心臓が止まっても、天吏の生涯は幸せであったと史書にとどめられることであろう。
「いいから座って。そして一緒に楽しみましょう。なんといっても今日は、愛にあふれる日なのだから」
「え……クローネ様……」
　思わず天吏は聞き返した。
「今日って、そもそも何の日、でしたっけ……？」
　天吏には意外な展開が続く。
　なぜならクローネが驚いたように一瞬黙って、そして急に、声を上げて笑い出したからである。
　船は周遊を終え、いよいよ港に入りつつあるが、まだ夜は長い。
　特に、アンダーグラウンド・バーの夜は。