夜闇を明るく照らすネオンや街灯の下を、スキップで、飛ぶように駆ける少女。
普段の彼女を知る者がその様を見かけたなら、きっと皆、口を揃えて言ったことでしょう。今日の彼女は、一味違う、と。
真っ黒な、フリフリのゴスロリドレスに身を包んだ
七夜 あおいは、普段はしたこともないような思い切ったお洒落に、どこか高揚した様子で。行きかう人々の間を縫うように、軽やかに……やがて、路地の向こうへと消えていきました。
そして。
あおいが楽しげに脇を駆け抜けていった、道端の電気店、その店先のテレビの中で。唐突に、番組は、始まりを告げるのです。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』
歪で奇怪なメロディのバックミュージック。映り込むのは、騙し絵めいた不可思議な写真の切り抜きたち。暗闇に浮かび上がるネオンサインのような、極彩色のタイトルバック。
街の喧騒、まぶしい光がアスファルトの地面へと落とし込む影。華やかな営みの裏に吹き溜まる濃密な暗部から、ぬるり、と表へ這い出すように。番組は、幕を開けるのです。
「…………んふふっ」
真っ暗闇の画面の中、突然に灯る強い照明。四方八方から浴びせられる白い光が、中心に立つ一人の少女を取り囲むように、円周上にいくつもの影を作り出しています。
高校生くらいの年頃に見える女の子は、黒い皮手袋をはめた手で、ついとスカートの裾を持ち上げ。慇懃な仕草で一礼すると、目を細めてにんまり、笑みを浮かべ。にちゃり、粘着質な音と共に口を開き、語り始めます。
「こんばんは。眠りたくても眠れない、焦燥感と諦めに苛まれるあなたへひっそりと寄り添う番組、『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』へようこそ。わたくし、これより皆様を不可思議な世界へとご案内させていただく、ストーリーテラーの
胡乱路 秘子(うろんじ ひめこ)です。今夜もどうぞ、よろしくお付き合いのほどを……んふふ!」
秘子、と名乗る女の子はそう言い、怪しい笑顔でひとつ、くりっと小首を傾げると。カメラがついっと寄り、やがて、彼女は語り始めます。
「さて。皆さんは、このような経験がおありではありませんか? 例えば、長い付き合い、いい加減に見慣れているはずの家族や親しい友人たちが、何だか急に、いつもより魅力的に見えたり。普段よりも粗暴で、イライラとしているように思えたり。あるいは、テレビで流れるニュース。何か事件を起こした犯人について、『あんなことをする人だとは、思ってもみませんでした』なんていう、知人のインタビュー。その日に限って、慣れ親しんだ相手が、何だか違って見える。そんな経験、あなたにはありませんか?」
ばしん。ばしん。大きな音と共に、強烈な光を放つ照明が、一つ、また一つ、と消えていきます。
秘子は、どこからともなく、格式ばった装丁の分厚い本を取り出すと、ぺらぺらとページをめくり、
「こんな説があります。んふふ……あなたの足元を見てください。地面へべったりとへばりつきながら、常にあなたと一緒に行動を共にする、影。実は彼らは、意思を持っていて……自由に動き回る人間たちを、いつも、羨望の眼差しで見上げているというのです。人間たちは、それに気づいていないだけだというのです」
ばしん、ばしん。次々と、照明が明かりを落としていき。やがて、正面から照りつける一つを残し、周囲の照明がみな消えてしまうと。
「今日は何だかちょっぴり違って見える、あの人。そんな時は、もしかしたら、影は人間に成り代わって、その肉体を動かしているのかも知れません」
んふふっ! と笑う、秘子の背後に長く伸びた、影。
それは、触手のように黒い手を自らの主へと伸ばし、今にも飛びかかろうとしているかのように見えました。
「あなたの影も……ひょっとしたら。あなたに成り代わり、あなたの身体を操って。誰はばかることなく、自由を謳歌する……そんな日が来るのを、じっと待ち続けているのかも知れません」
日が変わって、まもなくのこと。
七夜 あおいは、改めて自分の格好を見下ろすと、かあっと頬を紅潮させます。
「や、やっと元に、戻れた……」
少女然としながらも、内面ではどこか男らしい一面も持つあおい。照れる彼女に、可愛らしいゴスロリルックは、案外似合ってはいたものの。我に返ると、途端に押さえつけられていた羞恥心が蘇り、彼女は思わず自分の身を抱きしめて悶えます。
「……影と自分が、入れ替わっちゃうなんて。もし、私の身体で、もっと大胆なこととか、ひどいことをされてたら……」
そんな、恐ろしい可能性に思い至り。あおいは、熱を帯びた頬が、急激に冷えていくのを感じました。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします!
今夜は、アヤシイ深夜番組の第二夜をお送りいたしますよ~。
●『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』とは
深夜、テレビ局の放送が終わった後に始まる、謎の番組。不可思議で不条理な出来事と、それに関わった人々の行動や、その顛末などが紹介されます。
いつも決まった時間に始まるわけではなく、また誰でも見られるわけでもなく、たまたま波長が合った人にだけ見ることができるようです。
●今回のシナリオの概要
人間の影というものは、実は意思を持っており、常に足元からじっと主を観察しています。
そして、人間には一生に一度、たった一日だけ、影が主と入れ替わり、自由に動き回ることができる日……すなわち、『入れ替わりの日』があるのです。
本来、人間は、そのことに気がついてはいません。ただ、『あの人、今日は何だかちょっと違うよね』なんて思う瞬間があったり、何か事件を起こした犯人が、知人にニュースのインタビューで『あんなことをする人だとは思ってませんでした』なんて言われるのを見かけた時に、不思議な違和感を感じるだけです。
ひょっとしたら、そんな時の彼らは、『入れ替わりの日』を迎えているのかも知れません。
今回の番組内で紹介されるのは、そんな『入れ替わりの日』を迎えつつ、何かの加減で、意識を残したまま影と入れ替わってしまったあなた(PC)の物語です。
入れ替わり、自由を得た影たちは、本来の肉体の主であるあなたとは少し違った性格をしていたり、普段なら取らないような、思いもかけない行動を取ったりします。
そして、あなたは影の中から、じっとそれを眺めていることしかできないのです。影が何をしようと、何が起ころうとも。
入れ替わりの期限は、24時間。その間に、影たちが、何か大きなことをしでかさなければいいのですが。果たして……。
アクションには、『あなたの影が、あなたの身体を使って何をするのか』『影の中からそれを見ているあなたは、それについてどう感じるのか』をお書きください。
※なお、このシナリオにおいて描写されるのはあくまで『番組の放送』であり、必ずしも事実として確定するものではありません。
(PLは、今回のシナリオで起こった出来事を、実際に起こった事実として設定に組み込むこともできますし、あくまで番組内での出来事として、実際には起こらなかったとすることもできます。ただし、あまりにも大きな事件などを起こしてしまった場合は、自動的に実際には起こらなかったこととして扱われます)
●参加条件
特にありません。寝子高生の方でも、社会人の方でもOKです。
●舞台
寝子島の中であれば、お好きな場所、シーンをご指定してくださって構いません。
●NPC
・『胡乱路 秘子(うろんじ ひめこ)』
謎のテレビ番組『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』のストーリーテラー役を自称する、16~7歳くらいの女の子。
んふふっと怪しく笑います。
●その他、備考や注意点など
・入れ替わりは、深夜0時からきっかり24時間で、例え何があろうと、どんな状況であろうとも、日が変わった時点で終了します。
※PCは基本的に、特別な理由が無い限り『入れ替わりの日』のことは知りません。時間制限があることも知りません。
ただし、冒頭で秘子が読んでいたような、『入れ替わりの日』について述べた本や資料、物語の類は幾つも存在しており、PCは以前にどこかでそれを目にしたことがあり、知っている……として、アクションをかけていただいても構いません。
※七夜 あおい、胡乱路 秘子を含むNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用されませんので、あらかじめご了承くださいませ。
以上になります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!