夕暮れの旧市街、そのレトロな街並みの中に
すっかりと溶けこむ一軒の豆腐屋があった
古びた外観、辺りに漂う大豆の匂い
・・どこからかあの独特な笛の音が聞こえてくるような感じさえする
そんな豆腐屋の中を覗いてみると、一人の男性が笑顔で声をかけてきた
「いらっしゃい、今日は何をお求めかな?」
10年間、色んな事がありましたからね…寝子島はすっかり変わってしまいましたよ
でも、私や主人は…変わりましたかね?あぁ、主人は学生の頃よりは丸くなったとは思いますね
噂になってるかと思いますが…主人の高校時代の荒れ具合は、多分この辺りにも伝わってると思いますね…
圭吾君がいなくなってから少し寂しい思いをしたのは確かですね。同じ寝子島高校卒業で後輩でしたから
理由は誰も教えてくれませんでしたし…少しだけ、心配してました
この寝子島に戻ってきてくれた時は嬉しかったですよ。何があったかは知りませんが、無事に戻ってきてくれたんだって
…って、元々、島外生まれの私が言う事では無いかも知れないですけれどもね(そう言って笑顔を浮かべる)
…お互い、歳を取りましたね。感傷的になってしまうのは(少しだけ寂しそうにこんな事を言って)
やっぱり、若かったんですね。私も主人も、圭吾君も(そう言った後はやんわりと笑顔を浮かべる)